第4話Part6『我慢』
東矢:壇ノ浦 入り口 昼
東矢だよ。
何故だかくしゃみが出てしまった。
外は小雨だった。まあ傘を差すほどじゃあないけどね。
10月だし、これから雨のシーズンだから、
折りたたみ傘をカバンに入れておくこうかな。
俺はスーツについた雨露を手でサッと払った。
撥水加工スーツなので問題なし。
ということで、やってきました壇ノ浦。
俺の行きつけのお店。
「いらっしゃいませ、東矢さん」
「やあ」
店員の視線は俺の後ろで大人しくしてる真希ちゃんに釘付けだ。
「おい、ボーイ君。今日は3人なんだけど」
「ああ、すいません。ちゃんと良い部屋にお通しします」
「ありがとう。」
「朱雀エリアの5番を使ってください」
「え? いいの」
「はい、いいですよ」
「朱雀・・・朱雀ですね。ありがとうございま~す」
真希ちゃんはさっさと歩いていってしまった。
店員の奴、真希ちゃんの後姿をじっと見ていやがる。
おっ俺の方を向いたぞ。
「じゃあ、ボク、今日は壱で(笑顔)」
「東矢さん」
「! 何?」
「犬伏さん・・・・いいっすね。惚れちゃったかもしれないです僕」
「・・・あっそう。朱雀の5番ね、どうもで~す」
可愛そうな奴だ。
彼は犬伏真希の性格まで知らないから夢を見られる。
「東矢さん、今度犬伏さんをちゃんと紹介してくださいよ」
「今、自分で話しかけたらいいじゃない。」
「いいんですか」
「ダメでぇす!」
「!! なんですか、網浜さん」
「犬伏さんは、今ちょっとナーバスになってるんで、
そういうときに話かけても印象悪くなるだけですよ」
「そっそうなんですか。何かあったんですか」
「うん。あったの。時間消し飛ばしたり挟んだりして色々あったの」
「はあ、ちょっと意味がわからないですけど大変そうなのは伝わります」
「知らないほうがいいこともありますよ。色々」
「はあ」
「真希ちゃんは、キミが思ってるような子じゃないよ~怖いよ~~」
「じゃっじゃあどういう人なんですか」
「凜達これ後、忙しいんで。仕事増やさないでくださいね」
「今からお食事でしょうに」
「食事だけど、仕事でもあるんです!」
「そうなんです。集中しないといけないんです」
「はっはぁ(意味わかんね)」
さてと、真希ちゃんを追って朱雀の5番に行くか。
今日は個室だな。
東矢:壇ノ浦 個室・朱雀の5番 昼
引き続き東矢でごめんね。
部屋に入ると、真希ちゃんはメニュー表をじっと見ていた。
しかし心ここにあらずって感じだ。
朝は元気だったのに。
今は明らかに落ち込んでいるのがいるのがわかる。
何かあったんだろうか?
「犬伏さ~ん。この部屋凄い綺麗ですね。
こんなとこでお昼たべちゃっていいんですかねぇ」
「いいんだよ~」
「だよ~って、軽いなあ。真希ちゃんどうしたの」
「何でもないよーホントだよー」
「じゃあ、楽しい話をしましょうよ」
「楽しい話なんて無いですよ。あたしの人生下り坂だもん」
「そんなあ~いきなりどうしちゃったんですか」
「ぶ~~(渋い顔)」
なんで今すっぱいもの食べたみたいな顔したんだ?
相変わらず真希ちゃんの生態はつかめそうでつかめない。
大人なのか、子供なのか。
やれやれ・・・。
「そうだ、真希ちゃん。今日、夢とか見なかったの」
「夢、・・・見たよ」
「ほうほうどんなの。お兄さんに聞かせてよ」
「う~~ん、とね。あのね、あたし街中で高級なスポーツカーに乗った人に
轢かれそうになったの」
「ほう」
「あたしがギリギリで避けて、危ないわねっと怒ったら、
車から降りてきたその人は、なんと田中圭!!で」
「はあ」
「そしてあたしはその人と色々すったもんだして、
恋におちていくんだけど」
「田中圭と(半笑い)?」
「そう。でも、あるとき交際が週刊誌にすっぱ抜かれちゃって。」
「へえ」
鼻かゆ。
「でも、彼は製作者会見の席で交際のことを聞かれて、
あたしのことを「彼女は僕の大事な人です」とか言って、
堂々と交際宣言してくれてー」
「ふうん、田中圭が?」
「うん。そしてあたし達は、恋のライバルとか出てきたりして、その後も色々あったんだけど、様々な障害を乗り越えてハワイで挙式して、二人で世界中を旅行するの。
その後も更に色々困難もあったけど、彼がハリウッドデビューすることになって、
あたしは彼と一緒に豪華なドレスを着て、二人で手をつないで赤いカーテンを歩く・・・っていう夢を、朝見た(したり顔)」
「素敵ー(棒読み)」
「素敵でしょ。あたし朝起きたとき、凄いドキドキしちゃった。
やだ、あたしったら連続ドラマのヒロインみたいって。はあ・・・ホントにそんなドラマみたいな恋がさ、あたしにも転がってこないかなあ~。思い出したら気分良くなってきた」
「・・・真希ちゃん。あのさ、一言言っていい」
「うん、何?」
「バーーーーッカ」
「!!(驚きの表情)」
「25にもなって、馬鹿みたいな夢見てんじゃねえよ、バーカ。」
「ひっひど~い! 東矢君が今日見た夢の話しろっていうから話しただけなのに!
ひどい! そうやってあたしの見た夢を馬鹿にして。 凄い素敵な夢じゃない。ね、アミリン!!」
「そっそうですね~(作り笑顔)」
「ほらほら、お前さんの馬鹿さ加減に刑事のアミリンさんも引いておられるぞ。」
「!! そっそうなの、アミリン・・・(ショックを受けた表情)」
「引いてませんよ! ただちょっとイタいなこの人って思っただけです(必死)。
あっ・・・(しまった)」
「もっとひでえじゃねえか」
「・・・もう、やだ。この二人。もうやだ。更にテンションダウンした。
もう、この後仕事できん。お家帰る。一人になりたい。胡蝶蘭を育てたい(涙を流す)」
「何で胡蝶蘭なんですか?」
おいおい、なんだか泣き始めましたよこの人。安っい涙だな。ったくホントにめんどくせぇぞ、この女。
「御免、御免よ真希ちゃん。ただちょっとあまりにも安っぽいドラマみたいな
夢だったから、お兄さんちょっと馬鹿にしたくなっちゃったわけ」
「高視聴率取れる最高のドラマだと思うんですけど」
「取れねぇよ。車に轢かれる前にBSに変えられるわ」
「あたし役を有村架純にすればいけるって」
「いけねーーーよ。もらっても泣くだろ、そんな役」
「もう・・・じゃあやっぱり唐揚げ屋さんと結婚するー」
ふう。店員さんが来たので、メニューを告げておくか。
「二人とも、何にするの」
「・・・参」
「凜もそれで」
「以上です」
店員さんは戻っていったな。
「犬伏さんの夢はちょっと微妙ですけど、凜だって素敵な夢を見ることありますよ」
「どんな夢」
「え?」
「ねえ、どんな夢みたの(真剣な眼差し)」
「ええ・・・-とぉ(東矢の方を見る。)」
「(網浜と視線を逸らす)・・・あっそうだ。そういえば今日はフットサルだ。
頑張ろうっと。ガンガンゴール決めちゃうぞ。」
「ああ、・・・見ないんだ。ふ~ん。アミリンは、夢とか見ない人なんだ。
いいね 、大人っていいよね、あたし子供じみてるから。夢見がちで、・・・ごめんね。」
「みっ見ました。そうこの間、素敵な夢を見ましたぁっ(必死)」
「どんな夢(目を細めて網浜をじっと見つめる)」
「(うっ)こっ・・・コルトパイソンで、戦闘ヘリの燃料タンクを撃ちぬいて、
撃墜させる夢です! 凄いカッコよくて、素敵でしょう」
「・・・」
「あれ? 東矢さん、ほらツッコミを・・・凜の夢にもツッコミを」
「・・・ほらっ!! これならあたしの方が100倍マシじゃん!!」
「うむ。この勝負、真希ちゃんの勝ちだな」
「いよっしゃあ!!(ガッツポーズ)」
「これ勝負だったんですかぁ><!?」
「で。一体何があったのさ」
「凜は無視・・・」
「はあ・・・やっぱそういう話になりますか・・・」
「だって真希ちゃんのオチっぷり半端ねぇじゃん。
ちょっとお兄さんも心配してるわけさ」
「朝は楽しそうだったじゃないですか」
「実は・・・」
網浜:壇ノ浦 半個室 お昼
網浜です。
犬伏さんの口から飛び出したのは、牧野さんのバレッタがいつもと違うことから、
話の流れで牧野さんにお母さんがいないことを牧野さんの口から、言わせてしまったということでした。
そして牧野さんの付けていたバレッタは、
亡くなったお母さんが作った一品物であるという話も出ました。
・・・死・・・。
はっいけない。
・・・思い出したく無い事を、思い出しそうでした・・・。
「・・・うわあ、マジかよ」
「マジです」
「人の急所を見事にえぐったんですね、犬伏さんは(冷たい目)」
「(網浜の目に怯えつつ)はいエグリました」
「あのさあ、真希ちゃんさ。人の家庭環境っていうのはさ、
デリケートな部分とかあるからさ。たとえ仲良しでも気軽に踏み入ったりしたらいかんよ」
「ごめんなさい」
「そうですよ。牧野さん、可哀想ですよ!」
「すっすいません」
「俺も両親が離婚して、この苗字も母親のだけど。
親父ともたまに会って呑んだりするから人に聞かれても答えるし、
自分からもベラベラ話せる。牧野さんのことは昨日初めて会ったからよくわかんねえけど、少なくとも、そういうの、明るく話せるタイプの娘では、絶対に無いと思うぞ」
! ええ。
今、東矢さん。サラッとカミングアウトしたけど、
凜、聞いちゃったけどいいのかな。
「別に構わんよ」
「!? ひっ人を心を読まないで下さいよ。なんなんですか」
「いや、だってなんか凄い動揺してたから」
「動揺しますよ。どっちかと言ったら東矢さんの方が重たいですよ」
「そうか、すまんね(ニヤニヤ)」
「あたし、どうしよう。牧野ちゃんは気にしないでとか言うけど。
あたしの方が気にしちゃう」
「まあまあ、そこは普通に接してあげたらいいんじゃないの。
本人もそう言ってるんだし」
「でも・・・」
「真希ちゃんがショック受けてたら、牧野ちゃんも意識して、
どんどん微妙な関係になっていっちゃうよ。開き直れとは言わんけど、
本人が気にするなって言うんなら、そこはもう午後からは何事も無かったかのように接してあげなきゃ」
「うん、そうだね。東矢君、ありがとう(微笑み)」
「凜もいつもどおりタマちゃんとは接していきますよ」
「ありがと、アミリン」
・・・一品物(#`ε´#)
つまり、あのバレッタは世界に一つしかない。
大変だ( ̄□ ̄;)!!
きっと牧野さんは、とても大切にしているに違いない。
犬伏さん曰く、牧野さんはバレッタを家に置いてきたそうです。
犬伏さんはそれを信じているようですが・・・凜は違うと思ってます。
朝も少し思い出しましたが、以前お昼に屋上で牧野さんに会ったとき、
牧野さんのドクロのバレッタが太陽光にさらされて、かなり光ってました。
凜が反射的に顔の前に手を出すほどに・・・。
とても印象的な代物でした。
今、長畑さんの手の中にあるものと同じものだとしか、凜には思えません。
一体どうしよう・・・。
牧野さん。お母さん、いないんだぁ・・・・。
「? どうしたんだ、網浜。」
「(ハッとして)・・・なんでもないですよ」
「・・お前」
「はい・・」
「ちょっと鼻毛でてるぞ(真顔)」
「しっ失礼な事言わないでくださいよ!出てませんから!!」
もうダメだこの人。凜を完全にオチ要員にしてる(´_`。)
ああ、でもとりあえず鏡で見ておこう(*´Д`)=з
「チェックしてんじゃねえよ」
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