第4話Part5『降臨』

犬伏:エレベーター前


犬伏です。これから今夜のGAM会の件で秘書課に行きます。

GAM会とはたわいもない、幹事が一同に介して行う食事会の事です。 

お店が決まったらLINEで教えてもらう予定ですが、我慢できないので秘書課に行く事にしました。

あっ牧野ちゃんがやってきた。

そうだ、牧野ちゃんをGAM会に誘ってみよう。

「お疲れ牧野ちゃん」

「あ、犬伏さん。仕事の事で探してたんですよ」

「ホント? 何の話」

「ファイリングの件で少し」

「おっけい。じゃあ後で聞くよ。それより牧野ちゃん、今日のお昼も一緒に行かない?」

「今日はちょっと交番に行くので」

「え? どうして? 出頭するの?」

「しませんよっ。ちょっと落し物をしたので」

「そかそか、じゃあ今夜はどう? 奢るよ」 

「今夜何かあるんですか?」

「今日の夜、指野さん達とご飯行くの。よかったら牧野ちゃんも来ない」

「美咲ちゃんと?」


あたしが話しているとエレベーターが開きました。そこから出てきたのは、指野さんとあたしの天敵日下ルリ。

「あら、真希ちゃん。久しぶり」

「久しぶりです。どうしたんですか、ここに降りてくるなんて」

「旅行に行ってきたから、お土産を持ってきたのよ」

「北海道で一番有名な店のチーズケーキよ」

「チーズケーキ? わあ食べたい」

「じゃあ営業事務に行きましょう」

 そう言うと、指野さんはスタスタと歩いていきました。

途中で牧野さんの存在に気が付き、頭を撫でていきました。

「ところであんた、こんなところで何してるわけ?」

「今日のGAM会の場所を聞こうと思って」

「それなら後でメールするから来なくていいわよ」

「でも秘書課の空気を味わいたいし」

「秘書課は気安く立ち寄られる場所じゃないのよ、馬鹿ね」

「うう、そういうルリこそなんで降りてきたの」

「営業部長に用があって来たのよ」

言うだけ言って、ルリは指野さんの後についていきました。

牧野さんは指野さんと一緒に営業事務に戻ったみたいです。

あたしも営業事務に戻る事にしました。


牧野:営業事務所内 朝


牧野です。美咲ちゃんこと指野美咲さんが営業事務所にやってきました。

女性社員達からは黄色い歓声が聞こえてきます。美咲ちゃんは人気者だな。

「みなさん、秘書課の指野さんからチーズケーキの差し入れですよ」

沖田課長が弾んだ声でそう言うと、チーズケーキの入ったケースを指野さんに戻しました。

「指野さん、ありがとうございまーす」

アホネンさんが指野さんにお礼を言っています。

「じゃあ切り分けてきますので」

「一人じゃ大変でしょう。牧野さん、指野さんを手伝ってあげて」

「はい、わかりました」

美咲ちゃんは私の方を向いて笑顔を見せてくれました。


日下:レインバス社外通路 朝


 日下よ。

 全く本当に忙しいったらありゃしない。

 営業部長とコミュニケーションを取ってきた。

 秘書たる者、幹部達とは顔なじみになるべしよ。

 おっと、指野さんと牧野さんの二人が給湯室に入っていった。

 きっとチーズケーキを切り分けるのね。

 どんな会話をするんだろう、気になるわね。

 「仕事はどう?」

 「忙しいけど順調だよ」

 「そう、それはよかった。それよりあなた今日いつもと雰囲気違わない?」

 「え? そうかな」

 「いつも付けてるバレッタ、どうしたの?」

 「実は失くしちゃって。お昼休みに交番に届けに行こうと思ってるんだ」

 「そうだったのね。見つかるといいわね」

 「うん」

 バレッタ・・・やはり朝見た髪留めは牧野さんのものなのかしら。

 「それより今日の夜、空いてる?」

 「うん」

 「よかったら私達と食事しない?」

 「食事? うん、いいよ。」

 「うふふ。網浜さんも来るわよ。」

 「ホント、やったあ。楽しみにしてるね」

 「今日の夜はカタルーニャ料理よ」

 「カタルーニャ料理? う~ん・・・」 

 指野さん、牧野さんをGAM会に呼ぶなんで何を考えてるんだろう。 

 もしかして、彼女を幹事にするつもりなのかしら。 

「それじゃあチーズケーキを持っていきましょう。そうだ、その前に」

 「何?」

  ここは私も手伝っておくか。

 「私も手伝いますよ」

 「え? あらルリちゃん。助かるわ。」

 「あっお久しぶりです」

 「久しぶり、牧野さん」

 危ない霊感少女、牧野玉藻。彼女が幹事になれば私達も少しは楽できそうね。

 なんといってもGAM運営本部は深刻な人手不足だから。

 忙しいだけで見返りないから誰もやりたがらないのよね。

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