第4話Part2『可哀想な玉藻』
牧野:社宅384号室内 リビング 朝
牧野です。
さっき家に帰ってきました。
ショックです。大泣きしました。
「ウォーーーンウォーーーーン!
オジーオズボーーーンウォーーーン!!」
今日これから会社だというのに、お目目がウサギになっちゃった!
私は気分を紛らわせるためベースを取り出し、高速スラップを始めました。
フェンダープレシジョンベース、色はローズウッドです。けっこう高かったんです、これ。
さて、どんな音楽を作ろうか・・・。
半年間、ずっと悩んでいます。
基本はフレイみたいなポップロックで・・・
とか、考えてはいるのですが。
私にあんな風な音楽が作れるのでしょうか。
一つだけ、絶対にこれだけは譲れないことがあるとしたら、
メッセージ性の強い歌を作りたい、ということです。
]私は携帯を取り出して、
森羅さんのアドレスにメールを打ちました。
件名:朝からタマちゃんとーじょー(>w<)v♪
森羅さん、お久しぶりですヾ(@°▽°@)ノ
最近どうしてますか(≡^∇^≡)?
タマは今日も元気一杯ですよ( ´艸`)。
今、タマはミュージシャンになるために、
東京に単身乗り込んできちゃってるんですよо(ж>▽<)y ☆♪
今度秋田に戻るんで、そのときは、お店に来て下さいね(。-人-。)♪
一緒に歌いましょ~(^-^)ノ~~
・・・送信したら、すぐに戻ってきました。
メアドが変えられているのは知ってます。
もはや日課です。
届かないメールって、本当に切なくなりますね。
それでも私は、なんとなく送り続けたいんです。
それを止めたら、私の記憶の中から森羅さんが消えてしまう。
・・・そんな気がするから。
電話をかけたら、この番号は使われてませんと言われました。
どういうことなの??
・・・森羅さん。
今、どこで何してるのかな・・・。
んにゃ!!
いつのまにか7時過ぎてる。
ちなみに今日は5時に起きました。
ミュージシャン志望だって、朝は早いんです!
私は毎朝5時に起きてます。寝起きは良いんです。
中学、高校、秋田時代はもっと早かったんですよ。
お父さんがセリに行く関係で、毎朝たたき起こされてましたから。
東京に来てからは、これでも大分遅く起きてます。
・・・・TVでは、妹尾アナウンサーがスポーツニュースを読んでますね。
この人は、高校時代野球部のマネージャーだそうです。
私のお兄ちゃん、牧野魚雅が高校野球マニアで、
可愛いマネージャーがいると昔騒いでました。
今はアナウンサーかあ・・・。
私には考えられない世界。
私がメジャーデビューしたら、
この人、私の音楽を好きになってくれるかな。
さて。朝ご飯も食べたし、
昼食のサンドイッチもカバンに入れたし。
まだ早いけど家を出ようと思います。
・・・交番に遺失物届けを出しに行きます。
・・・っと思ったけど意外と手間取りそう。
帰りにしよう。でも定期も買わないと、ああ・・・。
会社か・・・。
私は、今日は普通の人でいられるのかな。
3日前は、長畑とかいう先輩に怒っちゃったし。
昨日はお昼にやっぱり長畑さんに対して
本音をぶちまけちゃいましたから。
しかも帰り道が一緒になって、
さらに夜には自分が歌っているところを・・・
後姿とはいえ、バッチリ見られてしまいましたから。
私だとばれなかったのが幸いです。
あの人、しっかりしてそうに見えるけど、
ちょっと抜けてるんですね。
本当に、気をつけないといけません。
・・・でもあの人、あのとき拍手してくれたな。
拍手されたのって、いつ以来だろう。
・・・私、実は高校時代、自宅のお店でお爺ちゃんお婆ちゃん相手に
演歌や民謡を歌って、お菓子とかもらってたんです。
そんでもって客を呼びつつ、
お兄ちゃんのバンド活動も平行していました。
音楽やりながら週5日でガッツリ働くのは正直大変だけど、
自分で決めたことだから、泣き言なんて言いません。
私は頑張る。
音楽も頑張る。
仕事も頑張る。
今の私には、休みなんて必要ないです。
バレッタのことは、考えないようにしましょう。
失くしたなんて、認めたくない。絶対に認めない。
絶対に見つかるはずです。探し出します。
今日は500円で買ったバレッタを付けていこう。
牧野「(鏡に映る自分を見て)はんかくしぇ~な・・・」
でも、よく考えたらドクロのバレッタなんて
オフィスに相応しいものじゃないですもの。
誰にも何も言われなかったのは奇跡です。
この後見つかっても、職場に付けていくのは自重します。
我慢して付けていこう。
さて、家を出よう。
牧野「行って来るね!」
私はペットのインコちゃんに声をかけて部屋を出ました。
網浜:品川 大通り(朝)
アミリンです。
さすが品川、職場へ行く社会人で溢れています。
今日は朝から騒々しい人たち四人と、凜の五人で仲良く出社です。
「あ~~働きたくないよ~。誰かお金だけくれないかなあ」
「朝から馬鹿みたいなこと言うなよ」
「言ってみただけですっ」
「俺も今日は働きたくねえな」
「東矢まで」
「凜、早くも存在を否定されてるんですけど」
「心配するな。俺が守ってやる!!」
「長畑さん、大好き」
「(声でかいわ)・・・ふん。
そんなこと言って、牧野ちゃんは無視するくせに」
「知らんけど、危なすぎる?美少女ってのも、
それはそれで魅力的かもね」
「牧野ちゃんは普通の子。れん坊が勘違いしているだけ」
「そうだね普通だね(超どうでもよさそうに棒読み)」
うわあ、全然感情が入ってないよこの人(iДi)
確かに、牧野ちゃんは真面目でちょっと大人しい娘だけど、
時々おかしな挙動をするときはありますね(・Θ・;)
一昨日の午後だったかなあ。
牧野さん、指サックをメリケンサックみたいに両手につけて、
手をグーパーグーパーしながらフロアを徘徊してました。
その後プリンターの前で格闘してました。
牧野さん、営業部の人に失笑されつつ操作方法を教わってましたね。
「まあちょっと天然さんかもしれないけど、良い娘ですよ」
「うむうむ。れん坊! 牧野ちゃんには謝りなさいよ」
「・・・ああ、分かったよ」
「そうだ! 今度あたしが飲み会をセッティングしてあげる。
そこであたしが二人の信頼関係を華麗にプロデュースしてあげるから」
「うぜぇ(舌打ちしつつ、小声)」
「そういうこと言わないで! あたし泣くよ!!」
「(ちっ聴こえたのかよ)ああはいはい御免ね、御免ね」
でた( ゚-゚)( ゚ロ゚)(( ロ゚)゚((( ロ)~゚ ゚
犬伏真希さんのプロデュース大作戦 笑
常に行動が裏目に出る犬伏真希プロデュース 笑
昨日のランチ会は悲惨だったそうなのに 笑
この人、本当に全然こりない人ですねぇ~
「そうか。じゃあそうしてくれ(真顔)」
「ふう・・・今日、お昼何食べようかな」
ええ~~いいんですか!?
もう、更に酷いことになっても・・・知りませんよ。
牧野:レインバス4F通路 給湯室(朝)
牧野です!!
もう会社に着いちゃった。
流石にまだ誰もいないので、
皆さんの使う食器類を洗っておこうと思います。
鼻歌を歌う元気も出てきました。
今日もテンション上げていこう!!!
「タマちゃん、おはよう」
ん? タマちゃん。
私は驚いて振り向きました。
ああ、網浜凜さんだ。
いつの間に。空手2段のこの私が、
声をかけられるまで気配を全く感じませんでした。
驚きです。
ちょっと馴れ馴れしいけど、
別にこの人は嫌いじゃありません。
むしろ刑事さんの彼女がいるおかげで、
今度の職場では孤立せずに済みそうです。
犬伏さんは仕事中は忙しそうで話かけられないし、
それに時々ちょっと怖いときもあるし・・・。
「うわ、おはよう。アミリン。」
「朝、早いんだねぇ」
「これが私の日常なので(微笑む)」
「(笑顔で)ジョーズか!!」
牧野:レインバス4F通路 給湯室(朝)
何ですか、いきなり。ちょっと唐突過ぎますよ。
会話の流れとか、ぶった切られたんですけど、
なんなんですか、これ?
「・・・え? ええ?? いきなり何?」
「いや、昨日電話かけたとき、着信音がジョーズだったから。
一応、突っ込んでおこうかな~とずっと思ってて♪」
「・・・! ああ。そういうことかあ。びっくりしたあ」
「もっと明るい曲に変えなよ。怖いよ~(笑)」
(そうか、じゃあ今度はモスラにでもしようっと。)
「うん。わかった。でもなぜ、今このタイミングで」
「昨日、明日の朝一番に言おうって決めてたから~」
「そう・・・なんだ(引き気味)」
やっぱり、彼女、ちょっと変。
距離をおきたいかも・・・。
あまり自分のことは話さないようにしておこう。
ん? アミリンが赤いトートバック持ってる。可愛い。
「・・・あ! そのバック、可愛いくない?」
「え、これ?」
「うんうん。」
「昨日犬伏さんにもらったんだ。正直、凜は赤嫌いなんだけどね」
「ええ~~なんで?」
「・・・特に理由はないけど、なんか嫌いなんだよね」
あれ、何だろう。
一瞬、アミリンの顔が曇った気がする。
気のせいかな。
「いいなあ。私もそういうの欲しい。可愛い~」
「犬伏さんがいいって言うならあげるよ」
「ホント、じゃあ後で聞いてみるね」
「うん。じゃあ凜は花を摘みに行ってきま~す」
? 花を? 摘みに? 今から? ・・・どこへ??
やっぱりアミリンは、ちょっと変です。
犬伏:レインバス 営業事務所内 (朝)
犬伏です。朝の日課、メールのチェックをしております。
お、噂の牧野ちゃんがやってきたぞ。
「グッモーニン!」
「あっおはようございます(発音いいなあ)」
・・・・。 あれ?
今日の牧野さん。いつもと違う・・・。
バレッタは付けてるけど・・・ドクロのやつじゃない。
これは・・・??
「あれ~~牧野ちゃん。今日付けてる飾り、いつもと違うね」
もしかして、まさか本当に・・
あのバレッタは、牧野ちゃんの・・・?
「え? ああ、そうですね。イメチェンです」
イメチェン? イメチェン??
・・・なぁんだ、イメチェンか。
あたしはてっきり公園で長畑煉次朗とこっそり会ってて、
その際に落としたとばかり思っていたのに。
見事に予想が外れたわけですよ。
まあ、いくらなんでも有り得ない話過ぎるでしょう。
「へえ~イメチェンなんだ」
「はい。ドクロのやつは職場に相応しくないと思ったので」
「・・・牧野ちゃん」
「はい」
「メッチャいい子!」
「・・・は・・・あっあ・・ありがとうございます」
「そうだよね! 牧野さんは部署内で働くけど、お偉いさんとかに会うときにあれはちょっと・・まずいね(苦笑)」
「やっぱり、そうですよね。すいませんでした」
「別にいいんだよ。でも、あたしあれ凄い好きだった」
「そうですか、ありがとうございます」
「一体どこで買ったの」
「あれは手作りの一品物なんです」
「えええええ~~そうなの。自作?」
「いいえ、私のお母さんが作ってくれたんです」
「そうなんだ。いいお母さんだね。」
「はい(笑顔)」
「今度あたしにも作ってもらおうかな」
「(顔がこわばる)・・・・それは、ちょっと・・・」
あれ? どうしたんだろう。
ちょっと変なこといっちゃったかな?
「あ・・・ごめんね、今、すごい図々しかったよね。
今すぐとかそういうんじゃないから。
機会があったら、お願いしたいな~みたいな、
そんな感じだったわけ。お母さん、大事にしなよ」
「・・・お母さん、私が小6のときに亡くなったので・・・
もう作れないんです。・・・だからその、・・・ごめんなさい」
・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!
やっちゃったあああああああああああああああああああ!!!
あたしったら、今、もの凄い地雷を踏んじゃった!!!!
うわああああああああああああ。
もう、だめだあああああああああああ。
ああ・・・・牧野ちゃんが・・・、牧野ちゃんが・・・凄いドンヨリしてる。
いままで見た中で、一番暗い顔してる。
この世の終わりのような顔してる。
見たくない、そんな牧野ちゃんの顔は、あたし見たくない・・・。
「ごめん。ごめんね牧野さん!!
あたし最低な事、聞いちゃったよね。本当にごめんね!!!」
「・・・いいんです。・・・気に・・・しないで下さい(引きつった笑顔)。」
あああ・・・牧野さん、ちょっと笑顔を見せてるけど、
目が全然笑っていないんですけどおおおおおおお。
あああ・・・・もう駄目、
あたし朝から最低なことしちゃった。
あたしは肘をついて両手を頬にあててPCを見た。
見れない。牧野ちゃんの顔が怖くて見れない。
ああ、なんだろう。ちょっと涙目になってきた。
気まずい。気まずすぎる。もう、この空気に耐えられない!!
「あ、犬伏さん。ホントに・・・気にしないで下さい。
どっかのお店で似たようなもの見つけたら、あげますよ。
だから今日もお仕事頑張りましょう。ねえ犬伏さん」
「うん・・・うん・・・」
「たまちゃん。やっほ~~い」
げっアミリン!!
「あっアミリン?! もう花摘み終わったの」
花を摘むっていうのは、化粧室に行くってことね。
「うん」
「花はどうしたの」
牧野ちゃんは、一体何を言っているのだろう。
は!!
さては、このよどんだ空気を和ませようと渾身のボケを・・・。
こんな18才の後輩に凄い気を使わせてしまっている・・・。
ああ、あたしって、最低だ・・・。
「何言ってるの? 牧野ちゃん、超天然だよね~~うける」
「ええ? どういうこと??」
「犬伏さんも、うけますよね~~?」
お願いだから、あたしに振らないで。
「って、あれ~。どうしたんですか、犬伏さん」
「・・・うん。うける、うける(擦れた声)」
「(聞き取れない)え? なんですか」
「もういいんだって、もういいんだって(棒読み&早口)」
「どうかしたんですか」
「・・・あの犬伏さん、本当に気にしないでください」
「?」
「うん。うん。」
「(牧野をじっと見る)・・・あっ牧野ちゃん、
そういえば、今日はいつものバレッタつけてないじゃん!!
どうしたの?」
「(うわぁ)・・・ああ、それは・・・」
あたしは顔を高速でアミリンに向けた。
「バレッタの話はもうやめてあげてえええ!」
「(仰天する表情)えええ~~いきなり何ですか、もう」
「牧野さんのバレッタには、もう触れないであげてえええ」
「・・・(うつむく)」
「(首をかしげる)はぁ。すみませ~~ん。
じゃあね、タマちゃん(手を振る)」
はあ・・・あたしは、本当になんて馬鹿な女なんだろう。
もう本当に、朝からテンションだだ下がりですわ。
でも、牧野ちゃんはもっと下がってると思います。
ああ、ごめんなさい、牧野さん。
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