第3話part15 『長畑煉次朗→大破』
犬伏:社宅 321号室 リビング(夜)
犬伏です。
私の尊い・・・友人、長畑煉次朗様の様子がおかしいんです。
「たまちゃんがどうかしたんですか」
おおっとアミリンがかぶせてきましたよ。
「いっいやその、今日のランチ会で真希ちゃんが暴走しちゃって、男子の中で好みは誰かとか聞いちゃったわけさ」
「ちょっと、まるであたしが悪いみたいじゃない!」
「いや実際悪いでしょうが。しかもすげえ唐突すぎるし、俺なんてうええって思ったさ」
「で、どんな空気になったんですか。」
あたしは下を向いたれん坊の顔を遠目から覗き込んでみた。
うう、表情が暗い。怖い。
「いや、それはまあ、ねえ。そんな大したことじゃあないんだけどねえ、ちょっとした、ハプニング的な? あはは、あははは」
あはは、もうここは笑って誤魔化そう。
誤魔化して話題を摩り替えてしまおう。
そうだ! アホネン!! 彼女を話題にしちゃおう。
「ところで、アホ」
「実は、今日帰り牧野さんと偶然会って、一緒に帰ったんだ」
・・・・・。
WHAT?
やばい。
あのときのれん坊は、確かに目が死んでた。
あしたのジョーみたいに燃え尽きてた感じもあった。
でもだからといって、空想の世界に逃げるのは良くないと思うの。
確かに辛かったし、あたしもちょっとだけ反省してるけど、まあ嘘だけど、悲しみから目を逸らしてはだめよ、れん坊。
「へえ。・・・そっそうなんだ。そいつは・・・すげぇや」
ほら、いつも気の利いた返しをしてくれる東矢君も、
ちょっと引いてるじゃない。
どうしよう、あたしは何を言ったらいいのか。
黙って長畑君の作り話に付き合ってあげるべきなのかしら。
いや、そうね。ここは長畑君の話に合わせてあげるべきよ。
そうすれば、きっと彼の心のキズも少しは癒えるはず。
あたしは東矢君とルリに視線を送った。
二人ともわかってるよっていう顔をしてくれた。
よし、いくぞ、犬伏真希。
「でっ・・で、どこで、どうして一緒になったのかなあ? 真希ちゃん気になるな~~! 気になる気になる~~」
「ある日、品川で、牧野さんに出会った」
そんな、森のくまさんみたく言わないで・・・!
笑えばいいのか、泣けばいいのか、どんな顔すればいいのかわからなくなっちゃうじゃない。
ほら、東矢君、なんとか、なんとか上手く話を広げてあげて。あたしには無理なの。もう無理なの・・・。
「なっなんだよそれ、森のくまさんじゃあるまいし・・・」
東矢君が顔を引きつらせながらも果敢に攻勢をしかけている!!
「ある日って、それ今日の話よね。本当なの?」
ダメ! ルリ!! そこは笑いに変えてあげてえええ。
「本当だよ、海岸通りにコンビニあるだろ? そこから突然飛び出してきたんだ。」
「そっか、で・・・マスターボールでゲットしたみたいな。つまりはそういうわけですかい。いやあお見事だぜ、ははは、ははは」
「お前、さては信じてないな! 本当なんだぞ!俺は驚いて、頭ちょっとパニくっちまったし」
お願いれん坊、もうやめて。もうこれ以上の自傷行為は・・・。
「・・・(納得した表情で)ああ、なるほど。そういうことだったんですね」
「!!! (この馬鹿っ)」
きゃああ!!
いっいいのよ、アミリン。
イエスマンにならなくてもいいのよ。
このままだと煉次朗の心が大破しちゃう!!
そろそろいいところで何とかしないといけない状況なわけですよ?
ん? そういうことってどういうこと?
アミリンは、まさかれん坊の妄想パラダイスを
裏付ける証拠でも持ってるわけ?
これは、ここは、あたしもアミリンにのっかるしかないじゃん。
「ん、ん? どういうことアミリン。」
まさか、そんなまさか。
「凜、今日たまちゃん、牧野さんを、ここに来るように誘ってみたんですよ。家近いから、よかったらどう?って」
「ええ? うそ、いつ」
「五時半ちょっと前ぐらいに電話して。そしたら、最初は声聞こえなかったんですけど、聞こえる場所に出てくれたみたいで。」
「・・・それだ!」
れん坊が立ち上がって、向かいのあたしの隣に座るアミリンを指差した。
「何がそれだ! なんですか?!」
「牧野さん、スマホでしゃべってた。そうか、あれはアミリンとしゃべってたのか。」
「すっすまん。話が、状況がまったくわからないんだけども」
「同じく!」
「だから、品川で牧野さんに」
東矢&犬伏「それはもういい!!」
「つまり、網浜が牧野さんに電話をかけたとき、牧野さんはコンビニにいた。そしてコンビニから出てきたところ、長畑君は道を歩いていてバッタリ出くわした。ということかしら」
「なっなるほど、よくわからん」
そうか。そこで牧野さんとれん坊は一緒になり、・・・一緒に洗足池まで二人で帰ったってこと??
「ん? じゃあ、そのあと、れん坊は牧野さんと一緒に帰ってきたんだね?よかったじゃん。牧野さんと仲良くなれて。何話したの? 教えて教えて?」
あたしがそう聞いた瞬間、れん坊は、まるで見てはいけないものを見てしまったかのような顔をして震えだした。
そして・・・
「俺・・牧野さんに嫌われてると思うけど、逆によかったよ」
「はあ? なんだそりゃ」
「牧野玉藻・・・彼女はまともじゃない・・・」
・・・だってさ。
牧野:洗足池公園 ベンチ(夜)
「フェックション。うう・・・寒い・・。でも、もうひと頑張り」
私は女の子と握手した右手を見つめました。
なんだかニヤニヤが止まらないんです。
犬伏:社宅 321号室 リビング(夜)
犬伏です。
れん坊が何やらとても深刻そうな表情で、牧野さんはマトモじゃないと言い放ちました。一体何を言っているのか?今時あんな良い娘いないのに。たしかに彼女はれん坊のことを快く思ってないみたいですがね。それもあたしにはよくわからないんですけど。
「ほうほう。タマちゃんはマトモじゃない。覚えときます、先輩」
「ああ、覚えておけ後輩」
「一体どの辺がマトモじゃないんだ。ねえ教育係の犬伏さん?」
「ええ?! あっあたし??」
「そうだよ。直に彼女と接してる真希ちゃんなら、マトモじゃないエピソード沢山もってるんじゃない」
「無茶振りしないでよ。牧野さんにそんなエピソードあるわけないじゃない。きっとれん坊の勘違い・・・(体を硬直させる犬伏)」
!!
そのときあたしは、牧野さんのマトモじゃないエピソードというか、多分れん坊を快く思っていないきっかけ的なエピソードを思い出した。いや、思い出したというのは嘘。あたしは、そのときのことを鮮明に覚えている。今日、牧野さんをランチに誘ったのも、あたしなりにあの二人の関係を何とかしたかった、という気持ちが心のどこかにあったから。
「どうしたの、真希」
「・・・牧野さんはマトモじゃない、というのは異論がある! れん坊は、牧野さんを勘違いしているのよ」
「(目を細めて正面の犬伏を見つめる)」
「あれは、確か三日前だったかな。長畑煉次朗! あなたは牧野さんを怒らせたでしょう」
「ほえ?」
「ほえ? じゃない!!東矢君、聞いて!この人ひどいの! 牧野さんの名前をマキタさんとか呼んだのよ。しかも何度も」
「(何かを思い出したように俯く長畑)」
「へえ。それでどうなったの」
「牧野さんが怒ったの! あたしの名前は牧野です!!
ま・き・の! た・ま・も!! ですって!
ちゃんと覚えてくださいって。営業事務全体に声が響いたわけ」
「あっその話知ってます。あたしそのとき休憩室にいたんですけど、後で他の社員さんから聞きました。なんか凄かったって」
「そうなの。あたしはプリントアウトした見積書を取りにいった帰り、ボーっとオフィスを歩いていたら怒声がして、何事かと牧野さんの方を見たら、れん坊がハニワみたいな顔して突っ立ってたのよ!
もうあたしビックリしちゃって、そのままその足で沖田さんに泣きついたんだから!!」
「・・・あっあれは・・・」
「あれは、何?」
「いや、なんか牧野さんが入ってきたとき、自分の名前をマキタって間違えて言ってて」
「それがなに!」
「(うう、怖い・・・)それが頭に残っていて・・・」
「人の名前を間違えるのはダメですよ長畑さんって。入社して直ぐ、研修の先生に言われたよね?」
「そういえば、俺のことも、会ったころはヒガシヤって何度も言ってたよな。
俺の名前はトーヤだから。 トーヤムネツグだからって何度も言ったけど、なっかなか直らなかったもんな。」
「あたしなんてヒシタよ。クサカだっつーの」
「そういえば、前、凜がオフィスを徘徊してたら、長畑さん、牧野さんのことエダノさんって呼んでましたよ」
「漢字の雰囲気は似てるけど、それはないわ」
「まあ、それはその・・・もはやネタというか・・・」
「職場で人の名前をネタにして遊ばないで! つまんないから!!」
「すいません」
「もう! れんじろうの馬鹿!!」
「パブロフ馬鹿!!」
「体育会系馬鹿!!」
「野球脳馬鹿!!」
「もう本当に馬鹿!!」
「営業に向かない馬鹿!!」
「デリカシー欠乏症馬鹿!!」
「多分死ぬまで馬鹿!!」
「後輩こきつかい馬鹿!!!」
「煉ちゃんは! ずばり人をイラつかせる馬鹿!!」
ふう・・・すっきりした。
「とりあえず牧野さんって娘には謝罪するべきね、今なら向かいにいるわよ」
お、長畑君が涙目で立ち上がりましたよ。
「どこ行くの?」
「公園に。夜風を浴びに行ってくる・・・(遠い目)」
そう言うと、れん坊は寂しい背中を見せながら、
家を出て行ってしまった。
「ちょっといいすぎたかな」
「いや、煉ちゃんにはアレぐらい言わないとダメだね」
「そうよね。あたし達、凄くいいことしたよね! しかもちょっとスッキリしたし!! なんか明日も頑張れそう!!」
「あの、凜、そろそろ帰りますね~」
「なんで? もう11時だし、今日は泊まっちゃいなよ」
「おい! 馬鹿なことを言うな!!」
「いいんですか? やった!!犬伏さんならそう言うと思って、お泊りセットもってきといたんですよね~(リンゴのお風呂セットを見せつける網浜)」
「おい! 俺は認めていないぞ!! (しかもなんだそのリンゴは)」
「いいよ。あたしが認めるから」
「じゃあさっそくお風呂沸かしてきますね」
「あたしシャワー浴びたいかも!! フェイスパックしたいし」
あたしはアミリンの肩を抱いて洗面所に向かった。
「無視かよオイ! お前ら!! いい加減にしろ!俺の方が先に住んでるのに!! 俺の意見は無視ですか!大体真希ちゃんは(略」
なんか東矢君がうるさいけど、気にしない。
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