第2話part最終『ご馳走様でした』

東矢:壇ノ浦 半個室の4人席


 「(何かを閃いて悪い顔になる)ところでねえ牧野ちゃん。

 すっごい関係ないこと聞いてもいい」

 「いいですよ(モグモグ)」

 「ちなみにこの二人の中で、彼氏にするならどっちがいい」

 俺の左頬に、何かの刺し身の切れ端とツマが三本程、張り付いた。どうやら牧野ちゃんが噴出させたものらしい。アホネンの顔にもご飯粒等が沢山付いているし。

まったく真希ちゃんは、突然何を言い出すかと思えば。そんなの俺に決まってるだろう、常識的にも空気的にも。そうか。これはあえて遅れてきた俺を持ち上げてくれる作戦かも。

 やるねえ真希ちゃん。

 さてと、お手拭で顔を牧野さんが傷つかないように拭こうかな。  

 「(あわてて)牧野ちゃん大丈夫?! ごめん大丈夫?!」

 「(笑顔で)ノープロブレム」

 「犬伏が突然くだらないこと言い出すからだぞ」

 「ごめん。だってどうしても聞いてみたかったんだもん」

 「そういうノリは飲み会でやれよな」

 全くだぜ。

 牧野さんが困った顔で俺の顔をハンカチで拭いてくれた。

 う~ん困り顔も可愛いな。これは久々のヒットかもしれぬ。 

 それにしてもアホネンの奴、とてもヒステリックにハンカチで顔を拭いてやがる。

 「そんなに拭かなくても大丈夫だよ」

 「でも・・・(アホネンの方を向き顔を硬直させ)ぶああああ」

 牧野さんが血相変えて立ち上がった。

 アホネンの過剰すぎる反応に気が付いたらしい。

 俺もそっと立ち上がって通り道を確保してあげた。

 彼女はアホネンに駆け寄って俺を拭いたハンカチとは違うハンカチで拭きはじめた。そのハンカチは、どうみても血痕にしか見えないデザインに髑髏の絵が多数。な7んちゅう趣味だ。そういえばバレッタもお洒落な骸骨マークだし。

 彼女はちょっと尖がった嗜好を持ってるんだな。色々と。メタラーか? 

 「ゴメンナサイ、汚かったですよね、ゴメンナサイ」

 「オッケーオッケー、ノープロブレム」

 顔に超しんどいマジありえないんだがって書いてあるぞアホネン。ったく、どうしようもねえなアイツ。レディにこれ以上恥かかせるな。

 表情一つ変えず笑顔で通した俺を見習えっつーの。

 張本人の真希ちゃんは何事もなかったかのようにパスタ食ってるし。

 煉ちゃんも飯食ってるし。本当にあの二人は・・・めでたいな。

 もう付き合っちゃえよ、糞が。

 牧野ちゃんがぜいぜい言いながら帰ってきたぞ。可愛そうに。。。

 「お帰り(さわやかに)」

 「たっただいま・・・」

 「で、牧野ちゃん、さっきの答えは」

 真希ちゃんも相当知りたいんだね。

 答えのわかっている質問に意味はないのにね。

 まあ、嬉しいからいいけど。

 「(怒気のこもった声で)さっきのってぇっ?」

 「(きゃあ怖い>_<)あっごめん。この二人の中で、って奴」

 「もう、犬伏さんひどいですよ~そんなの言えませんし」

 「そうだぞ、犬伏しつこいぞ」

 「れん坊は黙ってて。じゃあじゃあ、あたしだけに耳打ちして」

 「ええええ」

 「誰にも言わないから」

 「う・・・う~ん」

 「わかった! 長畑さんとかどう!? いいんじゃない、意外と。」

 「!」

 「あっでも、ダメだよ。長畑さんは今、彼女募集してないみたいだから(モジモジ)」

 真希ちゃんって時々おかしくなるよね。大抵そういうときは何かを探ろうとして墓穴を掘るのが彼女のパターン。。ってことは、その質問、よもや訳有りか?だとしたら答えは俺じゃなくなる可能性もあるな。まあどっちでもいいけど。

 「(怒りの形相で)それだけは、絶対に!! ないです!!」

  ・・・。

  あれ? 

  ここは東京だよな。

  しかも季節は十月の半ばに差し掛かりそう、生暖かい季節。

  にもかかわらず、この部屋、急に寒くなってきてないか。真希ちゃんと煉ちゃんが凍り付いているように見えるのは気のせい?

 まっどうでもいいけど、

 とりあえず、牧野さんは煉ちゃんが嫌いなのは、お兄さんわかっちゃった。 

 正直者って怖いね。本当に、ね。

 あっ飯来た。今日のランチはハンバーグか、よしよし。

「・・・はっ。そっそんなムキにならなくても、冗談よ、冗談」

「冗談でも嫌です。本当に嫌です」

「牧野さーん。どうしたのかな? ちょっと怖いかもーーお姉さん泣いちゃうかも~」

 「・・・(我に返って)! ごめんなさい! なんか、私・・・」

 「いいのよ、いいの。人間誰にでも好き嫌いはあるんだから! あたしだってれん坊なんてマジ勘弁って感じ、あはっはははっ」

 真希ちゃんフォローになってないよ真希ちゃん。

 ますます俺の斜め前に佇むかわいそうな青年の傷口を広げているだけだよ真希ちゃん。

 見てごらん、彼を。

 突然永久凍土に放り込まれたエチオピア人のように震えているじゃないか。

 「じゃっじゃあ東矢さんはどう? 会ったばかりだけど第一印象とか」

 真希ちゃんもう止めようよ真希ちゃん。これ以上はダメだって。

 「東矢さん・・・は、カッコいいなっとは思います(ポッ)」

 「あらやだ! もしかしてひとめぼれっ」

 前言撤回、真希ちゃんナイス。もっと言わせろ、言わせるんだ。

 「でも私は、・・・」

 「でも何?」

 「私は、・・・アホネンさんがいいなあって思います(ポッ)」

 「オーーーウ、タマーモ。私も玉藻が大好きでーす」

 前言撤回、犬伏死ね。

 こんなか弱い新人の女の子に気を使わせるとは、万死に値する。

 さすがに本気じゃないだろう。だとしたら「もののけ」すぎるしな。

 それにしてもこのハンバーグは美味い。

 俺は時計を見た。おやおや、もう12時53分ですな。

 このまま奈落に転がり落ちていく俺以外の4人を見るのも楽しいが、

 そろそろこの辺で幕引きさせるか。

 「え・・・まっ・・・」

 「(手を叩いて)はいそこまで!!」

 「(驚いたように東矢の方を向く)!!」

 「キミ達そろそろ会社に戻る時間ですよ。おあいそ、おあいそ」

 「(はっとして)げっ今何時?」

 「(時計をチラつかせ)もうすぐ1時でげす」

 「大変! 長居しすぎた。あたし午後から外行くのに!!」

 「はいはい、頑張って頑張って(モグモグ)」

 「れん坊お金、たの・・・」

 真希ちゃんの声が一瞬止まった。

 俺は長畑煉次朗の方を見た。


 真っ白に燃え尽きてやがる・・・・

 ・・・そして腐りはじめてやがる・・・

 

 早すぎたんだな。可愛そうに。全部真希ちゃんのせいだね。

 「あー、金はいい! アホネンが全員分奢ってくれるってさ。ねえ」

 「!! なっ何を」

 「いや本当にやさしい後輩だよね、俺っち涙が止まりませんぜ本当」

 「あなーたなんという棒読みで、全然泣いてないでしょうが!」

 「やだ! ありがとうアホネン。さあ行こう牧野さん(牧野の腕をつかむ)」

 「あっはい」

 「!! あっちょっ」

 「ごめん、アホネン。長畑さんお願いね」 

 そう言い残すと、真希ちゃんと可愛い娘は半個室を出て行った。

 アホネンは、しばし呆然と立ち尽くし、そして俺を睨んでいる。

 長畑はまだこっちの世界に帰って来ていない。こいつは重症だ。

 それにしてもハンバーグ美味し。午後も頑張ろうっと。

  今夜の夜会は煉ちゃんを慰めるのがメインになりそうだ。

 やれやれ。

 「ヘイ!アホネン」

 「!? なんですかっ(東矢の方を向く)」

俺は五千円札をアホネンに差し出した。 

結局この場を収めるのも俺の仕事だ。

「忘れ物だぜ(笑み)」

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