第令和part2『綺麗なものには棘がある』
犬伏真希:営業部 昼
あたしの辞書にはこう書いてある。人生でもっとも大切なものは恋愛であると。あたしは今、恋をしている。相手は向かいの席の男前君、長畑煉次朗。大学の就職活動中に知り合って、早四年。ずっと片思いをしたままです。親の教育で女からの告白は駄目と教わってきたからずっとそのときがくるのを待っていますが、あたしだって年頃の女。自分からも仕掛けました。女友達と一緒に暮らしてたんですがけんかしてしまい、煉次朗と他名の社宅に転がり込み、ルームメイトになることに成功したのです。他の3名は不満そうだったけど、煉次朗は歓迎してくれました。嬉しい。
でも新しく入ってくる女の子。指野さんの従姉妹らしいけど、さっき横顔をチラ見したらめちゃくちゃ可愛かった。彼女があたしの恋のライバルになる未来は想像したくない。なんとかその前に煉次朗を自分の手中に収めないといけないな。
でも仕事は猛烈に忙しいし、社会人サークルGAMの活動もあるし、中々恋にまで頭が回らないのが現実です。あ、ちなみにGAMというのは、近年社内で問題になっている若手社員の離職率低下を目的に若い社員を中心に色んなイベントを通して交流を深めようという趣旨のサークルよ。けっして悪の秘密結社とかそんなんじゃないから。よく偏見で誤解されがちだけど。あたしはそこの運営本部で幹事の仕事をしている。指野美咲さんをサポートしているの。彼女はあたしの憧れ、秘書課でも指折りの美人さん。芸能人みたいにキラキラしている。
あたしの社内での目標は秘書課に異動することなんだけど、それは去年ライバルの日下ルリ《くさか》に先を越されてしまったから、今はやきもきしている状態。ああ、あたしも秘書課に行きたいな。
と、まあこんなあたしですがこれから先よろしくお願いいたします。
それにしても面接遅いな、もう終わっても良い頃合いなんだけど。
あたしはこっそりとお茶をもって行くフリをして面接室に聞き耳を立てました。
どうやら沖田課長の笑い声が聞こえる。和やかに進んでいるみたい。
まあ指野さんのコネで入るわけだから落ちるわけがないんだけど、それにしてもすこし不安だったのです。
だって彼女まだ18歳らしいじゃないですか。この職場は戦場のように忙しいのに、社会人経験の乏しい彼女がやっていけるのでしょうか? 正直不安です。しかもあたしのサポート役らしいし。最初のうちはあたしが色々仕事の仕方を教えてあげないといけなくなる。そう考えたら憂鬱です。
自分の仕事すら満足に出来ないのに、人に上手く教えられるかな。彼女はちゃんと理解してくれるかな。
気になる。
面接が終わったのか、沖田課長と新人の子が部屋から出てきた。
め、めちゃくちゃかわいい。ショートカットに髑髏のバレッタが可愛らしい。
しかもこれでまだ18歳、最高に素敵なライバルになりそう。まあ煉次朗は仕事人間だから牧野さんには見向きもしないだろうけども、それでも万が一ということもある。あたしの恋も進展させなければいけない状況に追い込まれた。
多忙を極める仕事、GAMの活動、そして恋愛。その三つを平行して上手く行っていかなければいけないのに、不器用なあたしにはそれがができそうにない。ああ、神様、手を増やしてくださいお願いします。
長畑「犬伏、何ぼーっとしてるんだ」
煉次朗に声をかけられ、あたしは正気にもどった。
犬伏「おう、なんでもない」
長畑「そうか、しっかりしろよ」
犬伏「うん。それにしても新しい人、凄い可愛かったね、煉次朗」
長畑「そっそうか、よく見てなかったからわからなかったよ」
犬伏「可愛いはずだよ、だって指野さんの従姉妹だもん」
長畑「従姉妹、指野さんの?」
犬伏「うん、さっきルリから全部聞いちゃったもんね」
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