第2話part15『もののけ娘。①』
牧野:壇ノ浦 半個室の4人席
牧野です。長畑さんのこと、一瞬良い人なのかも、と思った私がバカでした。後輩に奢らせてるなんて。。。あやうく心を許すところでした。アホネンさん可愛そう。あんな男臭い人に体育会系的なノリでこき使われて。。
話は変わりますが、、犬伏さんと長畑さんの話は面白いです。なんだか夫婦漫才みたいで、本当に仲がいいんだなあって思います。食べるのも忘れておしゃべりしています。それにしても、壇ノ浦のランチ定食は全て日替わりなんですね。壇ノ浦・壱は刺し身とは聞いたけど、大ぶりのハマチ6切れとは。スーパーのものとは明らかに鮮度が違います。私は上品にハマチを一切れ箸で取り上げました。醤油にちょっとわさびをつけて、左手を口の下に添えつつ自分の口に運んでみました。
「(ハマチ)あっこれ美味しい。すごいプリプリしてて、新鮮です」
「ホント? いいなあ。」
わさびを付けすぎたのか、思わずちょっと涙が出てきました。
東京で、こんなに美味しい刺し身を食べたのは、初めてで。
地元の魚と変わらない、この鮮度、身のしまり方。
「この店って産地直送なんだろ。どういうルートがあるんだろうな」
「なんか親戚の卸業者と漁師さんから直接買い付けしてるらしいよ」
「マジで? 安いわけだな。というかお前どこで聞いたんだその情報」
「前に店長さんと話したとき教えてくれたのよ(モグモグ)。HPにも掲載されてたよ」
「へえ。ちょっと見てみよう(スマホを取り出しイジリながら)。
馴染みということで・・・夜の席確保できないかな。あっ・・・ほんとだ」
「ここに一番来てるのは東矢君だからね。夜聞いてみたら」
夜の席、というのは飲み会とかのことでしょうか。
私はお酒飲めないからわかんないけど。
二人の会話を聞いていたら、突然、前方から何だか悲しげな空気が漂ってきました。私はアホネンさんの方を見ました。
どうしたんでしょうか? 箸で掴んだ刺し身をじっと見つめています。
口元がパクパク動いています。魚? 会話でもしているんでしょうか?
私はアホネンさんがまだ醤油を使っていないのを確認したので取ってあげることにしました。
「アホネンさん」
「おう、たまーも。どうしました?」
「お醤油、使いますよね」
「・・・」
「ごめんなさい。生で身を味わいたかったですか」
「いえ・・・使わせていただきまっす」
アホネンさんは何故か叫び口調で両手で私から醤油を奪うと、小皿に醤油かけ、その後わさびを大量にのせました。私が思わずウッと眉毛をしかめるぐらいの量で、見てるだけで鼻がツンとしてきます。
その後もアホネンさんは信じられない速さで刺し身を口に入れ、ご飯をかきこみました。なんと豪快な食べっぷり。長畑さんと犬伏さんは相変わらず楽しそうに会話をしています。本当に二人は仲がいいんですね。私は、話している二人を横目にアホネンさんと一緒にがっつり食べ続けました。
しかしそれから二分も経たないうちに、犬伏さんが物欲しそうな顔で私の刺し身を見てきます。右手の人差し指だけ少し立てて私の刺し身に向けています。犬伏さんってペルシャ猫のような優雅な髪型と醸し出す雰囲気は裏腹に、ちょっとした卑しさがあるようです。しかもよく見ると女爪だし、羨ましい。私の最大のコンプレックス、それは男爪ということです。
ミュージシャンとしてギターとベースを巧みに弾き分ける私には理想的ですが、爪のお洒落は似合いません。普段は考えないようしています。今日は家に帰ったら、ひたすらスラップでもしようかしら。
そうだ! 久しぶりに外でベースを弾こう!
「・・・牧野さん、どうかしたの」
「! いえ、ちょっと」
いけない。ちょっと異次元にワープしてた。その場をしのぐために、私は犬伏さんに刺し身を一切れあげました。
「きゃあああ! ありがとう」
「いえいえ、どうぞどうぞ」
「じゃああたしもブロッコリー半分あげるね」
「ちょっと待て、自分は嫌いなものと交換するのかよ」
「うるさいな、等価交換でしょうが。」
「全然違う! 等価交換言いたいだけだろっそもそもお前は等価交換を根本的に勘違いしている。それは等価交換とはいわない。一般的に等価交換とはぶつぶつ」
「れん坊は黙っててくれないかな」
「(引きつり笑い)はは、ブロッコリー、嫌いなんですか 」
「嫌いじゃなくて、好きと嫌いの中間ぐらいだぞ?」
・・・一体、この人は何を言ってるんだろう。
しかも疑問系で、首をかしげてきて。
とりあえず、私は聞かなかったことにしました。
お前は何を言ってるんだ、ってきっと長畑さんなら言うんだろうな。
「・・・お前は一体何を言ってるんだ(呆れ顔)」
あ、言った。わかりやすいよ長畑さん。
「はあ・・・そうですか。」
「ぐはっ美味い。脂超のってるし~~」
「まじかよ、俺も壱にすればよかったな」
刺し身の壱が大人気ですね。
でも私はサバミソにすれば良かったなあと思っていたりします。
「うわああああああああん」
突然アホネンが騒ぎ出しました。どうしたのでしょう。
「どうしたの? アホネン」
「日本語難しいです、お二人の話してる内容、半分も理解できませーん。これでは私は置物でーす」
「あはは、アホネン面白い」
犬伏さん、そこは笑うところじゃないと思いますよ。。。
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