第2話part11『修羅場、修羅場の壇ノ浦(前編)』

犬伏:旧海岸通り(昼)


外は良い天気。近隣のビル群も輝いて見えるっていうのに、実は、さっきから・・・れん坊の様子がおかしいんです。

彼の表情が暗いんです。 というか、挙動不審?

あたしと牧野さんと距離を取って後方を歩いている。そして何故かアホネンがあたしの右隣を歩いている。

「いやあ、今日は良い天気ですねえ」

「そうだね、天気良いよね」

なんであたしがアホネンの相手をしなければいけないの!あたしは後ろを向いて、れん坊に憎しみのこもった視線を送った。

長畑煉次朗 は 視線を 逸らした 

れん坊は歩道の植込みの葉っぱをいじって西田敏行風に微笑んでいる。。。

 ・・・・危ない奴。。放っておこう。

一方の牧野さんは午前中と変わらず、普通に前を向いて歩いている。右隣のアホネンはあたしを見つめてニヤニヤしている。


 なにこれ、一体どういう状況。 


「犬伏さん、今日は修羅場が見れそうですよ」

 「え? 修羅場?」

 「ふふん、らーらららー」

 そう言って、アホネンは先頭を歩き始めた。一体どういうこと?

 よし、ここは気分を変えて、犬伏真希のファッションチェック!

今日の牧野さんの服装は、オレンジチェックのストール風ポンチョに 

バルーンスカートかな?  何とも可愛らしい服装。

肌の白さも相まって思わず抱きしめたくなるわね。これに帽子でも被っていれば、街のお洒落さんとして雑誌のカメラマンに声でもかけられるんじゃないかしら。

それに比べて、今日の私はパンツスーツなわけです!はあああああ・・・。

白いシャツをベルトの内に入れてちょっとカッコいい女を装ってみたけど、

今日は一日社内だし、もっと可愛い感じに服装を変えようかな。うちの会社って、ドレスコード緩いところがいい。

でも取引先に行くことが多い私にはあまり関係ないわけで・・・。しかも今日はこの後、外出なのです。会社でずっとヌクヌクしていたいのにいいいいいい。午後だけ牧野さんと魂を入れ替えたいわ。あたしが牧野で私が犬伏で。

女同士の魂がいれかわって彼氏とっかえでやりたい放題でドロ沼になる。

いい! これは流行る!! 

 一度でいいからドラマみたいな恋したい!!!

複雑に入り乱れる男性関係、複雑に絡みあう過去、重厚な人間ドラマ!

金曜ロードショ ー~INUHUSIプレゼンツ~、こうご期待!

 ちなみにあたしの苗字って、「いぬふし」って読むんだよ。よく「いぬぶし」と間違えられるけど、

 そっちの方が一般的だから仕方ないよねん。

あたしは再び後ろを向いた。

長畑煉次朗はクツの裏についたガムを気にしながら歩いている。。。

もう、やだ。今は他人の振りしよう。


犬伏:品川駅付近雑居ビル地下1階 壇ノ浦前


壇ノ浦。


 最近あたし達がハマっている和風ダイニングバーだ。

昼はランチを提供しているので、サラリーマンやOLで賑わう店。

夜は仕事帰りのサラリーマン達で賑わうお洒落な居酒屋。

産地直送の新鮮な魚介類と、熊本の馬刺しを全面に押し出したお店だ。

熊本・・・と聞くと、故郷を思い出す。と言ってもあたしは大分だけど。

お店自体は名物の品川丼も手軽な値段で食べられるので、一人客が多いな。

店内はロートレックなどのポスター画家の絵がふんだんに飾られ、

店の中央部分には円形の水槽がデンと構えている。

基本的なアルコール飲料は勿論のこと、

年代物のワインや地酒も豊富に取り揃えており、

酒好きの営業部長等も行きつけにしているらしい。

雰囲気のある店内と,出される刺身の皿盛りのギャップに多くの人が虜になるそうだ。値段も良心的なため、ランチタイムは問題ないけど、夜は飲み会等で常に満席になるから、事前に予約が無いと入れない人気店。

それが壇ノ浦だ。

ちなみに最初にこの店を見つけてきたのは東矢君。初めてあたしが来たのは去年同期と一緒に行ったときだったかなあ。

ゆっくりと地下への階段を下りる。入り口は薄暗い雰囲気だけど、顔馴染みの店員が直ぐに笑顔で出てくれるから嬉しい。

あたしの笑顔で答えようと思ったそのとき、


長畑「今日は4名ですけど大きめな席お願いします!」

っと体育会馬鹿が、後ろから大きな声を出しやがった。

あたしはとっさに耳をふさいだけど、隣にいた牧野さんの目の焦点が定まっていない・・・!  明らかにグラッときて額を押えている。

・・・ああ、なんてことを。

はいはいどうぞと店員に誘導され、長畑はあたし達を押しのけて我先にと店内に入っていった。まったく、女の子がいるのに少しは気をつかいなさいよね・・・。

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