第2話part7『ランチなう(死語)』
犬伏:営業部オフィスルーム内(昼)
犬伏です!お昼だ!!ひさびさに12時にランチなう。
そうだ、ツイートしておこう。
え・・~っと、ランチなう。
はー、やっぱiphone欲しいなあ。
でもそうするとスマホ2機種持ちになっちゃうんだよね。
困るわあ。
「犬伏さん、私ちょっとトイレ!行ってきますね」
「あっうん。じゃあ一階で待ってるね」
「(立ち上がる)はい」
牧野さんって、化粧室のこと、トイレって言うんだよね。意外と豪快・・・。
トイレなんて言葉、恥ずかしくて同性にも使えないんだけど、あたし。
「(横切り様に)さようなら、また逢う日まで」
!
れん坊!!
「(長畑の腕をつかむ)ちょっと待って!」
「なんだよ、触らないでよっ」
あたしは一旦れん坊の腕を放して、PCの電源を切った。
牧野さんの端末の電源が切れているかを確認した
・・・切れてる、OK。
「先にお昼いただきます」
と沖田さん達に挨拶をして立ち上がった。
れん坊は怪訝そうな表情であたしを見ている。
あたしはれん坊の腕を再びつかんで歩き出した。
「あのさ、手を放してくれないかな」
「可愛い子と腕組みしたくないの?」
「自分で言う? そういうこと」
「そんなことはともかく、今日は絶対ゴチだからね」
「ほう」
「こんなストレスの多い職場で、せめてお昼ぐらい羽を伸ばしたいわけです」
「ふむふむ」
男性社員数名が、あたし達の方を見てる。ここは素の自分を出すわけにはいかない。美しく上品で可憐でけなげで涙の綺麗な犬伏真希を演じなくては!
「あたし、”長畑さん”と食べるランチ、いつも凄く楽しみなんですよね」
「あはは、それはよかった。でも今日は折半ですよ、お嬢さん」
「ぐぬぬ」
Fuck You!!
コノヤロウモウガマンデキネェ
「じゃあ、仕方ない。今日”も”あたしは我慢させられるわけね」
「…そっそうですね」
「我慢させられるあたしに、何か見返り的なものはないわけ」
「(! きた)はあ…そんなにタダで飯した けりゃ、奢ってくれる奴と行けばいいだろうに」
「ちょっと! 人をタカってるみたいに言わないの! 他の人と行くときは普通に自腹だしっ」
「だったら俺のときも自腹にしろよっ」
「れん坊は別にいいじゃん。その分あたしが夕食作ってるでしょ」
「それとこれとは話は別!」
「別じゃないっ」
「別! そもそも、お前が家に突入してきたときに決めただろ!
家賃、生活費、光熱費は均等に四分割することって」
うぐっ。この男、また痛いところを突いてきやがって。まさに犬伏の泣き所。ここを攻められると正直苦しいっちゃん。
「(涼しげな笑顔)へえ、そうだったかな~」
「流そうとしても無駄だぞ。お前が来たときに念書も東矢が取ってるしな」
「え! 何それ! そんなの聞いてないんだけど」
「お前はベロンベロンだったから知らないかもしれないが、ちゃんとこいつ(スマホを見せる)にも押さえてあるんだ」
なんという悪夢・・・。
初耳よ。
あたしとしたことが、大失態だわ。
しょうがない、今回はあきらめるか。
・・・なんてあたしが考えると思うなよ、長畑煉次朗
「酷い、長畑さんは新人さんに飯を奢らない薄情な人だったなんて」
「新人さんは奢ってあげるよ。でもお前の分はお前が出せ」
「ぐぎぎぎっあっあたしは今手持ちに余裕がないんです。この時間はATMも混んでるし。誰か懐の深いところを見せてくれる、
素敵な同僚はいないか・・な~」
あたしは振り向きざまにれん坊を見た。
歪んでいる・・・長畑煉次朗の顔が歪んでいる。
勝った。
あたしは確信した。
やはりこの男、長畑煉次朗は体育会系バカ!
義理とか人情とか縦社会とか、そういうのをやけに持ち出す脳筋!
東矢君とは大違い!
「…くっそう…そういうことなら、仕方ないな」
YOU WIN!
「じゃあ、そういうことであたしもゴチになります!」」
細かいことを聞かれる前に、あたしはその場を退散した。れん坊はまだ何かを言いたそうだったけど、それは後でいくらでも聞いてあげる。
長畑:レインバス本社ビル6F 通路(昼)
犬伏の奴…、俺が断れない状況を作ってきやがったな。というかゲストって誰だよ。何人だよ。 ・・・まあ、俺、犬伏、新人の三人で行くよりは会話も弾むかな。
ほぼ犬伏の部屋に俺ゲスト状態だし・・・。とりあえず、トイレ行こう。最近、近くなってきた。年かな。
長畑:6F 男子トイレ(昼)
このビルのトイレはきれいだな。
そこらのショッピングモールと同等か、下手すりゃそれ以上。
「よう、れん坊」
? 俺をそのあだ名で呼ぶ、このイケメンボイスは・・・。
東矢宗継25才。
「東矢っ」
「これからお昼か? よろしゅうござんすねえ」
東矢宗継。俺と同期で営業マンだ。大学時代からの付き合いもある。
初めて会った時は話し方とかがチャラくてあんまり好きじゃなかったけど、
色々あって、今は親友になって社宅でルームシェアして暮 らしている。
「驚いた。お前まだ会社にいたのか」
「あいにく今日の午前中はミーティングでね。午後から回るんすよ」
そうだったのか。
・・・待てよ、ってことは…?
とりあえず、俺は東矢の隣で用を足すことにした。
「お前、お昼今日どうすんの」
「ぬ?飯か。どうすっべなあ。適当(笑)」
「よかったら、俺たちと一緒に行かない」
「ほう、いいね。たまには昼からいちゃつくかい」
「そうそう昼からラブラブ…って、気持ち悪いこと言うなっ」
「ははは。・・・ワリィ。一緒に行きてぇのは山々なんだが、ちょいと仕事が残ってるんだよね」
「そうか、残念だ」
「でも30分ぐらいで抜けられるかもだから、途中からでもよければ」
「マジで? じゃあ、これたら来いよ」
「うい。どこ」
「壇ノ浦。場所わかるよな」
「おう、あそこだろ。以前真希ちゃんが吐いっちゃった店だろ」
「そういう覚え方やめろって」
「じゃあ、行けたらいくわ」
よし、ここは俺と東矢で、犬伏と人数不明分のゲストの飯代を折半するチャンスだ。
「・・・折半させる気?」
「(ギクッ)…うん」
「ぷは~、真希ちゃんって相変わらずえげつないね。泣けちゃうねえ」
「だろ? ホント泣けちゃうよな」
「(笑顔で)わかったわかった。ここは俺っちに任せろよ」
「悪いな」
すまない、東矢。お前の方がインセンティブもらってるもんな。と、先に小便を済ませ、手を洗い髪型をチェックしていた東矢が、ふと何かを思い出した感じで俺に話かけてきた。
「あっそうだ。ところで今日俺達の家でから揚げパーティやるらしいぜ。れん坊ご存知」
「ああ知ってるよ。じゃあ酒買っとくわ」
「いつも悪いね(笑)」
こいつ…。やはり、そう上手くはいかないか。
東矢は口調は軽いが、頭は重い?、というか回る奴だからな。
なんで俺の周りは癖のある奴が多いんだろう。
牧野さんといい、犬伏といい…。
なんか最近、俺にどんどん負担かかってる気がするんだが。
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