第1話Part最終 『そしてレインバスへ・・・』
第1話Part最終 『そしてレインバスへ・・・』
牧野:指野のマンション401号室内 リビング 夜遅く
牧野です。東京に上京してきてから5ヶ月間、全く音楽も森羅さんのことも全くの成果無しです。
今は美咲ちゃんと自分の洗濯物をたたんでいます。すっかり主婦になってます。
美咲ちゃんは油絵が趣味だそうで、部屋には美咲ちゃんの描いた絵がいくつも飾られています。とても上手いです。
そんな室内をカツレツがウロチョロしています。部屋とカツレツと私、なんだかなあ。
「ただいまーーー」
美咲ちゃんが帰ってきました。
「あら、いつもありがとう。あなたは本当に気が効く子ね」
「えへへ、美咲ちゃんには敵わないよ」
「そんなこと言ってもお小遣いは出ないわよ」
「ちぇ。森羅さんならくれるのになあ」
「ふふふ、玉藻の頭の中は森羅さんで一杯ね」
「まあね。森羅さんと再会したときのために毎日メールを打ってるんだ。森羅さんに話したいこと、沢山あるから」
「うふふ、早く会えるといいわね」
「うん」
それからしばらく時間が経過して、美咲ちゃんがお風呂から出てきたとき、私は自分のうまく行っていない現状を
正直に美咲ちゃんに話してみようと思いました。そのとき、美咲ちゃんが私にこう語りかけてくれたんです。
「玉藻、元芸能人の私が、少しだけアドバイスしてあげるわ」
「アドバイス? どんなこと?」
「あなたが行こうとする世界はね、努力や才能だけでは超えられない壁があるの。一番大切なのは、運と人脈。だから、ライバルは見つけてもいいけれど、敵は作らないようにしなさい。常に人に感謝して、謙虚さを忘れないようにね」
「わかったよ、美咲ちゃん」
「頑張りなさい、玉藻」
「あの、美咲ちゃん、ちょっといい?」
「うん、何?」
美咲ちゃんはバスローブ姿で片手にはビールを持っています。
「タマね、最初は高校卒業したら、米農家の男性とお見合い結婚する予定だったんだ。
それを受け入れていたけど、森羅さんに会って考えが変わったの。本気で音楽にのめりこみたくなったんだ。
その夢が、たとえ誰かを傷つけることになっても構わないってぐらい、今、情熱に満ち溢れているんだよ。
でも東京に来て、空回りばっかりで、正直これからどうなるか、凄く不安なんだ。」
「玉藻・・・」
「ねえ美咲ちゃん、タマ、どうしたらいい?」
「そうね。この5ヶ月間、全く成果なしだと正直助言をするのも厳しいわね。
私も昔モデルやってて、芸能界のことはそれなりに知ってるつもりだけど、今は空前の音楽不況だから、ミュージシャンになってもご飯が食べられるようになるかは分からない。大事なのは玉藻がどういうミュージシャンになりたいのか、そしてどういう人になりたいのかよ。」
「美咲ちゃん・・・」
「ネット社会の現代では上っ面の仮面を被った芸能人は即潰される世の中になってる。ありのままのあなたの人柄、人間性が評価されて人気になる時代になっていると思うの。」
「ありのままのタマの人間性?」
「そう、でもあなたはまだ未熟。家でずっと家事してベースを弾いてるだけじゃ、良い音楽は思いつかないわよ。」
「そうだね」
「そこで私、指野美咲から提案があります」
「何?」
「レインバスで働いてみない?」
「え」
「今のあなたに一番必要なのは社会性を身に付けること。そして人と触れ合うこと。人との出会いこそがあなたの財産になるのよ。だからキチンと働いて、働きながら夢を追うの。できる? 玉藻」
「働きながら、夢を追う・・・」
「あなたのライバル達は多かれ少なかれ皆やってることよ。でもあなたはしていない。それじゃライバルに差を付けられるだけ。
本気でミュージシャンになりたいなら、地獄のような苦労が必要なのよ」
「でっでも、タマ、まだ18歳だよ。そんな大企業で雇ってもらえるの?」
「それは私が何とかしてあげる。どう、やってみない?」
「うん。タマ、頑張ってみるよ」
こうして、9月、私は株式会社レインバスに入社することになりました。
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