第1話Part3『サヨナラは突然に』



牧野:花火会場 夜


 森羅さんとの一番の想い出は兄と三人で花火大会に行ったことです。

 私は森羅さんとお兄ちゃんが付き合って欲しいと思っていたのでこの時は色々やりました。

 二人だけになるように仕向けたり、恋の話をしてみたり。

 ちなみに私は恋人はできませんでした。怖い兄が後ろに控えていると男の人が寄ってこないんです。

 クラスメイトの男子も私には余所余所しかったですし。

 でもいいんです。こうして森羅さんに出会えて、一緒にカキ氷を食べながら花火を観られる幸せはプライスレスですからね。

 お兄ちゃんも森羅さんにまんざらでもない様子だし、私の計画はうまく行っていました。


牧野:ライブ会場 夜


 私と森羅さんとの関係の終わりは唐突に訪れました。

 夏の終わりの野外フェスで森羅さんが登場することになり、私は大喜びしました。

 そして勢い勇んで会場に行き、私は森羅さんの曲を聴くことになりました。

 曲が始まる前、森羅さんが発した言葉は今でも忘れられません

「真夏の太陽の日差しを浴びすぎると火傷するから、

私は日影に隠れて生きていくことにしました。サヨウナラ」

 その後、森羅さんは透き通るような美しい声で持ち歌の『蜘蛛の糸』を歌い上げました。

 決して報われない恋をカンダタに例えたミディアムバラードで、聴かせる楽曲でした。

 そしてその曲を最後に、森羅さんは私達の前から姿を消してしまったのです。

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