第令和Part11「痴漢って最低」

網浜:警視庁品川署内 夜


 皆さんにどうしても伝えておかなければいけないことがあります。

 それは牧野さんが入居した事故物件、小野木佳代についてです。

 彼女は社会人サークルGAMの元代表で、とても広い交友関係を持っていました。

 そのため容疑者が絞り込めない状況に陥っています。

 彼女の死体は首を吊っていたのですが、腹部には自傷行為とは思えぬほどの傷があり、そのため現在他殺の線で慎重な捜査が進められているのです。

 ところで凜は有力な容疑者に辿り着きました。それはGAM運営本部の人間、

 指野美咲さんの盟友、狩川亜美奈さんの知人、朝稲小弦という女性です。

 どうやら音楽をやっているようで、六本木のクラブハウスで日夜ライブをしているようです。

 なぜ彼女が捜査線上に浮かんできたのかはまだ明かせませんが、凜は今事件解決に燃えています。

 と思ったら犬伏さんからLINEが来ていました。

犬伏『今日夜会やるけどアミリン来ない?』

 凜は行くと即答しました。

 どうやら事故物件に新しい入居者が入ったようですし、顔を見ておきたいですからね。


犬伏:社宅384号室内。


 犬伏です。アミリンにLINEで連絡をしておきました。早くこないかな。

犬伏「始めまして、牧野玉藻ちゃん。あたしの名前は犬伏真希っていうんだ。

 職場では一緒に仕事することになると思うから仲良くしようね」

牧野「はい、こちらこそよろしくお願いします」

犬伏「それにしても指野さんの従姉妹か、そう言われると面影あるね」

牧野「そうですか。美咲ちゃんが言うには全然共通点がないらしいですけど」

犬伏「そんなことない。よく似てるよ。髪の毛の質感とか、肌質とか」

牧野「そういわれるとそうなのかもしれませんね」

東矢「おい二人とも、口より手を動かせ、手を。開国しちゃうぞ」

犬伏「あ、ごめん、そうだった。それにしても結構な荷物だね」

牧野「ほとんどは洋服と楽譜です」

犬伏「楽譜?」

牧野「あ、それは人の荷物を預かったんです」

犬伏「そうなんだ」

 あたしは荷解きをしながら牧野さんとの会話を楽しんでいました。彼女は話しやすい子なので

 職場でも上手くやっていけそうです。問題はどのぐらい仕事ができるかですが。

 指野さんいわく、即戦力らしいです。

 確かに商業高校卒業しているって事は簿記は最低でも2級、噂では実家の手伝いをしていたそうですから

 経理関係のスキルもちかもしれません。そうなるとあたしとしては非常に助かります。

 なんといっても今回の新人加入はこのあたしの仕事の負担軽減が目的ですから。

 あたしは帰国子女で英語がペラペラ。そのため通常業務の他に海外への受発注や英文書作成も行っています。

 その上GAMの活動まで。はっきりいって激務です。でもその日々ももうすぐ終わる。

 牧野ちゃんがあたしの救世主になってくれる。

犬伏「ねーねー、引越し作業終わったらから揚げパーティーしない」

東矢「いいね、引越しそばも忘れずにな」

 煉次朗は黙々とダンボールを空けて、荷物を出しています。そしてダンボールを潰しています。

 残り十箱ぐらい。よーし、真希ちゃん頑張るぞ。


日下:東急池上線・電車内 夜


 日下です。今日もやっと長い一日が終わり、ただいま帰宅中。時刻は九時を回っている。

 新人の牧野さんの引越し作業は終わっている頃かしら。それにしても今日のGAM会の指野さんのアイデアには脱帽した。きっと聞いたら驚くわよ。

 運動会が今から楽しみになってきた。

 ところでさっきからあたしは痴漢を受けている。

 お尻をまさぐられているのだ。まったく汚らわしい。

 日下「おい」

 あたしは痴漢の腕をつかんだ。

 日下「あんたはそれでいいかもしれないけど、あたしはそうじゃない。我慢しないから」

 痴漢はメガネをかけた細身の男だった。スーツ姿だったからどこかの社員かもしれない。

 日下「今日はつかれているから大事にはしたくない。あなたが辞めるなら不問にしてあげる」

 あたしの言葉に痴漢はうなづき、別の車両に行った。

 それにしても、痴漢って最低。 

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