第令和Part9『犬伏真希ちゃんは友達が少ない』

犬伏:GAM運営本部 夕刻


犬伏「えーーー! 今日から入居するんですか」


なんとあの噂の新入社員が本日付で事故物件に入居するようです。


指野「そうよ、善は急げって言うでしょ」

犬伏「こうしちゃいられない、あたしも帰って手伝いますよ」

指野「そう? ありがとう。私は今度の運動会の競技決め会議があるから」

犬伏「分かりました。任せてください」

日下「じゃ、あとよろしく」

犬伏「ルリは手伝ってくれないわけ?」

日下「あたしがいなくなったら誰がプレゼンするのよ。いっぱいアイデア考えてきたんだから」

犬伏「そか、じゃあまた後でね」


長畑:エレベーターホール 夕刻


エレベーターホールは閑散としていたが、顔なじみに出会った。

彼女の名前は

長畑「網浜」

網浜「長畑さん」

本庁の捜査一課の若い女刑事さんだ。例の小野木佳代殺人事件の担当刑事をしている。

社内に出入りして聞き取りなどをされてるうちに仲良くなり、今は友達に近い関係になっている。

長畑「どうしたんだ、今日は。」

網浜「GAM会議に呼ばれたんですよ。凜も行こうと思って」

長畑「そか、大変だな。頑張れよ」

網浜「長畑さんはご帰宅ですか」

長畑「ああ、今日は何もない一日だった」

網浜「そういう一日が貴重なんですよ」

長畑「そうだな」

 エレベーターが着たので、俺は網浜と別れてエレベーターに乗った。よし、帰るぞ。



犬伏:東急池上線・電車内 夜


犬伏です。

 端っこの席に座ることが出来ました。電車内は静かです。

目の前では、ブ男と酷いメイクをした女がイチャついてます。

はっきり言って全然羨ましくない! ダメなカップルほど見せ付けたがるものですよね。

馬鹿と馬鹿は惹かれあうものなんでしょう。

 どうぞ末永くお幸せに。

なんて、あたしが言うと思ったら大間違い!!!

相手の女は何なの?! 

 アイマスクをして見れば、何とか鑑賞に耐えられるぐらいの容姿よ!

そして男の方は、ホストくずれ? 

 眉毛書いてるし、キモい!! キモい!!! キモい!!!!

あたし、ああいう人無理だわ・・。

はあ・・・・。羨ましくないと言いつつも、イライラが止まらないのは何故でしょう。 

もしあたしが恋愛ドラマの主人公だったら、そろそろ素敵な出会い的なものがあるんでしょうが。

残念ながら、あたしの毎日はアホみたいに普通に過ぎていきます。

そして今日も、新しい我が家へ帰ります。

本当は数日だけお世話になるつもりだったのですが、

居心地が良いのと、会社から近かったので、居座るつもりです。

あたしはまともに一人暮らしをした経験がありません。

上京した当初は部屋を借りてウキウキしていましたが、

一週間でホームシックになり、親友の真琴ちゃんの家に押しかけました。

彼女は高校時代からの付き合いで、同じ大学に入学した仲です。 

そして一ヶ月前まで寝食を供にしていたわけですが、

 大喧嘩をして家を飛び出してしまいました。

喧嘩の理由は男です。

真琴ちゃんの彼氏があたしに言い寄ってきたんです。

 本当に信じられなくって、あたしは全力で拒絶しました。

その後、その男が何を思ったのか、

あたしに好きだと言われて困っている、俺は真琴の方が好きだ!

 と真琴ちゃんに大嘘を言い放ったらしく、そして喧嘩になりました。

あの男のせいで、全部無茶苦茶ですよ。

 真琴はあたしが彼氏に色目を使ったことを非難してきて、

勿論あたしは全否定し、勢いでその彼を批判したんです。

そうしたら、真琴は更にエスカレートして・・・。


犬伏(回想):真琴の部屋 510号室(夜)


1ヶ月前 

真琴「あたしから大切なものを奪うなんて、真希って最低だよね。」

犬伏「だからそれは誤解だよ。あたしは何もしてないし、

 あいつが勝手に妄想爆発させてるだけ。どうしようもない奴だよ!」

真琴「人の彼氏を悪く言わないでよ! この・・・ブタ野郎!」

 そう言って、真琴はあたしにヌイグルミをぶつけてきた。

 ブタ野郎・・・? 

 そんなこと、親にも言われたことない酷い言葉・・・!

犬伏「痛い・・・っざけんな! あんたなんて! 

 あたしがブタなら! ブタですらねーよ!

 ちっこぃ生物だろがよ! このっ・・・栗きんとんっ」

 あたしはムキになって、無意識にヌイグルミを投げ返してた。


犬伏:東急池上線・電車内 夜


それからあたしと真琴は1時間ぐらい叩きあい、

互いに互いを口汚く罵りあったのです。

あんなに人を罵ったの、生まれてかもしれないぐらい酷い喧嘩だった。

次々と汚い台詞が湯水のように溢れてきて、

最後はひたすら泣く真琴をあたしが一方的に罵倒し続けて・・・。

もう止めなきゃ。

早くなんとかしなきゃ。思ってたけど、もう止まらなかったんですよ。

完全に、頭の中の何かが吹き飛んでしまって、

自分ひとりではもう止められなかったんですよ。

あたしはこんなに汚い言葉で、平気で人をやり込める人間なんだと理解したことが、

あの日、一番ショックだったこと。

・・・。

そのあとあたしは必要な荷物をボストンバックに詰め込んで家を出て・・・。

そして夜の街をさ迷って、ショットバーで酒を飲みまくり、れん坊を頼って行きました。

家を出てからのことはあまり覚えていなくって、朝起きたられん坊の家で目が覚めたっていう感じですよ。もしかしたらエッチなことされたかもって思ったけど、特にそのような痕跡はなかったわけで。

翌日には鍵のついた部屋をあてがわれたので助かりました。

新しい家が決まるまで、とは言われてるけど、

一人で暮らすのは寂しいし。二人には悪いけど、定住させてもらおうかと考えてるわけです。

・・・でも本当は、真琴ちゃんのところに帰りたい。 

電話は着信拒否されてるし、メアドも変えられているけど何とか仲直りしたい。

だって真琴は・・・

あたしの数少ない、何でも話せる親友だから。

高校入学時、周りの人があたしをお嬢様扱いするなか、

真琴だけは、あたしに普通に接してくれたから。

・・・あたしにとって、大切な人だから・・・。

何だか昔のこととか色々思い出して、ちょっと涙が出てきちゃった。

だめだな、あたしは。とりあえず、今日は新人さんの引越しを手伝って、

夜会でパーッと盛り上がって!明日への活力を得てやろう。

うん、そうしよう。

アナウンス「次は~洗足池~洗足池」



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