第令和Part7「指野さん登場」

日下ルリ:秘書課 午後


 日下です。皆さんが気になっている噂の御仁、指野美咲さんが秘書課に戻ってきました。

相変わらず凄まじい芸能人オーラを全身から放出しています。長い髪を編みこみして、長い前髪を少しだけ垂らしています。

大きくて澄んだ茶色い瞳に美しい造形の鼻と唇。レインバスにいる多くの女性社員の憧れの人、それが指野美咲ゆびのみさきさんです。

ちなみに指野と書いて、ゆびの、と読みます。

日下「指野さん、ご苦労様です」

指野「お疲れ様、ルリちゃん。例の件、どんな感じ」

 指野さんが言う例の件とは自分の従姉妹、牧野玉藻の合否のことです。

日下「さっき沖田課長から連絡があって、採用することに決まったそうです」

指野「そう、よかった。教えてくれてありがとうルリちゃん」

日下「どういたしまして、それより彼女、本当にあの部屋に入居するんですか」

指野「私はずっと一緒に暮らそうと言ったんだけど、このままじゃあ自分が駄目になりそうだからって言い始めて、

 事故物件だけど本人は気にしてないみたい。むしろ安くて喜んでいるみたいよ」

日下「年の割には肝が座ってそうですね。当然GAMに参加させるんですよね」

指野「うーん、本人の希望があればね。なんといっても夢をもって東京に来た子だから。

 仕事以外の時間はその夢を叶える為にあてたいみたいなのよね」

日下「そうですか、でも一応加入は打診するんですよね」

指野「そうね、運営本部は常に人手不足だから、彼女が参加してくれたら役に立つでしょうね」

 私と指野さんが話をしていると、狩川亜美奈さんが秘書課にやってきました。

 彼女は広報部のエースで社内のYOUTUBE番組の司会進行をしている、まさにレインバスの顔といった人です。

指野さんとは同期で盟友。GAM運営本部では幹事長としてイベントの調整などを行ってくれています。

 ちなみに私はGAM運営本部本部長です。

狩川「みさきち、例の従姉妹の件、合格だよ」

指野「教えてくれてありがとう。さっきルリちゃんから聞いたところよ」

狩川「そかー、それでいつ頃入居するの」

指野「既に荷造りしてるから、来週中には入居するでしょうね」

狩川「真希ちゃんの部屋の向かいだよね。大丈夫かな。念のためお祓いしとく?」

指野「そうね、念のため、お祓いは必要かもしれないわね」

 指野さんと狩川さんが二人だけで喋り始めたので、私はこっそりその場を抜け出し、自分のデスクに座って仕事に戻りました。

 牧野玉藻か。一体どんな子かしら。気になるわね。

事前情報では指野さんとはあまり似てないけど凄い可愛いらしい。指野さんの話によればベーシストでミュージシャンを目指しているとか。

ミュージシャンか。CDが売れなくなったこの時代に目指すにはつらい夢よね。でも可愛ければ芸能人にはなれるかもしれない。いや、なんといっても指野さんの従姉妹だもの。凄まじいスターのオーラを持っているはず。夢を見るのが厳しい時代に大きな夢を持って頑張る子。応援してあげないとね。


網浜凛:GAM運営本部 午後


 小野木佳代さんが殺されたのは今から半年前の四月。

 それから半年の月日がたっても未だ犯人逮捕に繋がる有力情報は得られていません。

 彼女は人に恨まれる性格の人ではないという多くのGAMメンバーの証言から男女関係のもつれの線を洗いましたが、

小野木さんには当時彼氏がいなかったのです。

 では元彼が恨みを持っていて殺したのか? と考え聞き込み調査をしましたが、小野木さんが死亡したとされる日は

仕事で会社にいました。完璧すぎるアリバイがあるのです。

 はっきりいって迷宮入り一歩手前の状況です。でも絶対に犯人がいるはず。必ずこの手で捕まえてみせます。

犬伏「アミリン、顔怖いよ」

網浜「へ? あはは、つい仕事のことを考えてました」

犬伏「刑事さんは大変だね。小野木さんの件、少しは進展した?」

網浜「いえ、全く」

犬伏「小野木さんは指野さんみたいに綺麗じゃなかったけど、人当たりがよくて優しい人だったから

 ファンが多かったんだよね。彼女を恨む人なんてこの世にいないよ」

網浜「でもその割には殺され方が残忍でした。怨恨の線が考えられるぐらいに」

犬伏「怨恨ねえ・・・」

網浜「犬伏さんは最期に小野木さんと何を話したんですか」

犬伏「別に、特に変わったことは話さなかったよ。世間話とGAMの今後について。小野木さん真面目だから

 GAMの影響力を大きくすることを第一に考えていたみたい。」

網浜「GAMの理念に批判的な人も当然いたんですよね」

犬伏「そりゃあまあね。現状維持でもよいと考えてるメンバーもいたわ。でも小野木さんの目標は大きくて、

 GAMを他社の社会人を巻き込んだ総合サークルにすることだった。あたしはその壮大な計画には興味はなかったけど、

 指野さん達は感銘を受けて一緒になって頑張ってた」

網浜「特に感銘を受けてたのは?」

犬伏「指野さん、狩川さん、あと日下ルリ。今の運営本部の中心メンバーだね。彼女達が小野木さんの意思を継いで

 GAMの活動規模を大きくしてる」

網浜「GAMでは色々な催し物を社員達がすることで協調性や部署間の連携を深めて離職率の低下や生産効率を上げるのが

 主な目的ですよね」

犬伏「うん。最近は会社に掛け合って男性社員の育休を取りやすくするように動いたり、社内に託児所を設けさせたり、

 会社の働き方改革にも力を入れてるんだよね」

網浜「それもこれも小野木さんの遺志を継いでのことですよね」

犬伏「まあね。あたしは現在のイベントで他部署や他の会社の人達と交流できるのが楽しいからGAMの活動も頑張ってるんだ」

網浜「犬伏さんは小野木さんの遺志には賛同していないんですか?」

犬伏「賛同して無いというか、そこまでGAMの活動に入れ込んでないんだよ。自分の仕事も忙しいし、GAMの活動は給料がでないしね。完全なサービス残業。運営本部は常に人手不足なわけなのです。だからアミリンに参加してもらえてこっつは大助かりだよ」

網浜「どういたしまして。凛はGAMの現在の活動内容には好感を持ってるんですよ」

犬伏「ありがとう、アミリン。こっちも刑事さんがいると安心だよ」

 小野木佳代殺人事件とGAM。何か関連があるのでしょうか。それを探るためGAMに潜入しましたが、普通に活動を楽しんでしまっています。

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