第11話 魔王 アルフ・レックス

 第11話 魔王 アルフ・レックス


 我は魔王である。魔王であることは生まれてからすでに決まっていたこと…。


 生まれて15までは普通の剣士の家で育った。

 父親と一緒で剣の道へ進み、極め、ゆくゆくは王宮に仕える聖騎士になることが夢であり剣の修行も毎日欠かさなかった。



「父上!今日こそは、一本取らせていただきます!」


 父上は、剣士とはいえ宮使いまでは行かず剣士としての腕は中の上レベルであった。しかしそれでも、僕は14歳までは1本も取れずに本気で切り込んでも簡単にかわされていた。



「アルフよ!今日で15歳。成人となった!

 今日こそ、俺から見事1本とって見せよ!」


 両者とも木刀を正中に構え、父は上段、アルフは中段に…。


「はあっ!!」


「せいっ!」


 お互い切っ先を突き出した瞬間


 …!


 …!!


 …!!!


 激しい光が一瞬起こった後、深く黒い光が俺の体の周りを包んでいく。


「ばっ…ばけもの!?」


 父上が、俺を見ながらとんでもないことを言い出す。

 いや、ばけものって…。

 自分の手を見て…気が遠くなるかと思った。


「ガァ!?ガガガゴワァ!!」

(なに!?手が怪物の手に!!)


 父上は必死にがくがく震えながらも辺りを見回し、息子であるアルスを探し、手に持った木刀は一応ばけものと呼ぶものに向けていた。


 悲しくなってきたが、その感情は喜びに代わっていく。


 寂しさを感じたが、その感情は喜びに代わっていく。


 我は何かと尋ねてみる。


 誰も答えは示してくれない。


 手を下に向けてみる。


 地面から魑魅魍魎がわいてくる。


 愛しさを感じる。


 父上であった人を見てみる。


 踏みつぶしたくなる衝動が沸き起こる。


 そして、僕であったもの、父上の息子であったもの、母上のいる家、庭に咲いたきれいな花、仲の良かった友人たち、僕が住んでいる町、15歳を迎えるまでの平穏であった日々。



 そのすべてのものを、喜びに浸されたまま踏みつぶし、叩き壊し、引き裂き、貪りつくし、咀嚼し飲み込む。

 一瞬悲しい気持ちになったが、それもまた喜びに補充されその補充された勢いのまま、ほんの数十分前まで町であったものを漆黒の炎で焼き尽くすと背中に羽を出し飛び立っていった。



 飛び立った姿の目撃情報や、見るも無残に焼き尽くされた町を宮廷騎士団が調査した結果、魔王級の生き物が誕生したと結論付けられた。

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