第63話 サガドの町
その日、
「……とにかく無事で何よりでした。ホントに
「すみませんでした。僕らも状況がよく分からなかったんで……相手に従うしか無かったから……」
「それで? その『
レイラがエシャーに
「……なんか……法力を
エルグレドはクスッと笑いながら火に
「まあ、失礼ね! その時に呼んでくだされば、そんな恐ろしい相手ではないと分かってくださったかも知れないのに」
「人は見た目で判断するより、データで判断したほうが間違えない場合もある……ってことでしょう」
エルグレドは長めの枝をポキポキと折っていく。
「それで? ドラゴンライダーまで扱うような『山賊』から、よくお2人だけで脱出出来たものですね?」
エルグレドは2人が何かを隠しているという事に、早い段階から気づいているようだ。しかし篤樹とエシャーの証言を「嘘」と断じる事はせず、さまざまな情報を聞き出しながら自身の中で「事実整理」を進めている。
「閉じ込められてた倉庫の土を掘って……壁を抜けて、山の中に逃げ込んだんです。で……道に出たから……道に沿って歩いてたら、後ろから三体のドラゴンライダーが追いかけて来たんです。橋を渡った後にエシャーの魔法で橋を壊したんですけど、谷間を飛び越えて来て……無我夢中で1体と山賊1人は倒したんですけど、残りの2体には勝てないって思った時に近くの盗……えっと、村の人達が助けに来てくれたんです。ね? エシャー」
篤樹は「この話で合わせて!」という感じでエシャーに同意を求めた。
「え? あ……うん。そうそう! すごく優しい『村』の人達だったよ。だけど山賊からいつも
エシャーは「ゴメン! 言い過ぎた?」と聞くように篤樹をみる。篤樹は首を軽く振り話を合わせた。
「そうそう! そう言ってたよね。山賊共には困ってるって!」
「そうですか……。いや、確かにあの地域ではかなり
エルグレドの提案に篤樹とエシャーは顔を見合わせて
「ところで、あの近辺での被害報告は独特でしてね……」
エルグレドは「ついでに」という感じで話し始めた。
「被害状況が
明らかに確信をもって探りを入れて来たエルグレドの言葉に、エシャーは「私知らなーい」というように横を向く。篤樹は「もう無理」と観念した。
「えっと……僕らを助けてくれた村なんですけど……実はその村の人達が『盗賊』だったんです……。って言うか!……山賊達から無理矢理に盗賊をやらされていたんです!……そりゃ、悪い事をやってしまってるのは事実だと思います。だけど、あの村の人達は
篤樹はエルグレドに向きなおり、正座のまま頭を下げた。
「大丈夫ですよ。私は『北の山の山賊』の件だけしか軍部には通報しません。山賊共に無理矢理やらされていたのであれば、山賊がいなくなればその村の人々も盗賊の真似事などせず、これからは
「……すみません。ホントに……お世話になった人達なんで……。お願いします!」
エルグレドは大体の「事実確認」は終わった、というように満足の笑みを向ける。
「さて……もうそろそろ休みましょうか? 明日は何とか陽がある内にサガドの町に着きたいと考えています。日の出と共に出発しますよ」
話を終えると、エルグレドから始まる夜番の順を決め、篤樹とエシャーとレイラはほろの荷台に乗り込み床を整えた。
亮、高木さん……軍部が山賊の討伐に行くまで無事に過ごしてくれよ!
篤樹は「あの頃」の姿の2人をまぶたに思い浮かべながら眠りについた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「そろそろサガドに着きますわよ!」
御者台からレイラの声が聞こえた。エルグレドはほろの荷台で座ったまま眠っていたが、スッと目を開くと、向かい合って座っている篤樹に声をかけた。
「アツキ君、そろそろだそうですよ。起きて下さい」
野宿明けの旅の前半は、エルグレドと篤樹が御者台に座っていたが、昼を過ぎたあたりに「
「どの辺りですか?」
エルグレドは立ち上がると、前方のほろの開きに近づき場所を確認する。
「もう見えてますわ」
前方に大きな建物が建ち並ぶ町の姿が見えた。
「うわぁ……人がいっぱい!」
エシャーは前方に見える人々や馬車の往来に驚きの声をあげる。篤樹も御者台
道の端や草地を歩く人々。道は馬車が3~4台並んで走れそうな広さになっている。一応の交通ルールはあるようで、基本「左側通行」のようだ。馬車は前を追い抜きたい時だけ中央に寄って追い抜く、という感じの流れになっている。
「あの……あれって……さっきからなんて書いてあるんですか?」
篤樹は通りの左右の草地に時々立てられている看板を指差し尋ねた。
「ほとんどが『ガラス練成魔法法術士募集』の広告ですわ。後はガラス製品の紹介や広告……さすが『ガラス練成の町』ですわね」
レイラが楽しそうな口調で答える。
そうか……ここが……
篤樹はテリペ村の老人、自称ガラス練成魔法の発明者であるベルクデじいさんを思い出した。
ミッツバンとかいう弟子に術を奪われたって言ってたけど……
「アツキ君、この道……」
ちょうど差し掛かった交差点で、エルグレドが篤樹に声をかけた。
「この交差している道が『王都への街道』です。右に……つまり東に向かって真っ直ぐ行けば王都につながっています。西に向かえば大陸の西海岸沿いに大陸を南下しています。この国の主要街道ですよ」
篤樹は「街道」と言われてもピンと来なかった。そこはまるで大きな広場のようで、人も馬車も
「何かのお祭りなんですか?」
「いや、いつもこうですよ、ここは。『ガラス練成魔法』が確立して以来、大陸中の商人や法術士が集まるようになりましたから。昔は『主要都市』とは言え、ここまで人はいなかったはずです」
エルグレドは、外の
「宿はどこなの? 隊長さん」
レイラが
「町の西街区に在る法暦省庁舎に向かって下さい!」
「はーい」
エシャーが応じると、レイラは
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
もう陽も
「きれい……」
エシャーは初めて見る「夜でも明るい街並み」に感動して声が
「いやぁ……さすがに……すごいですねぇ。以前立ち寄った時以上だ……」
エルグレドも
馬車は町に入ると西街区方向を目指し、中心街から離れていった。次第に辺りも暗くなって来る。
「中心街を離れたら急に暗く感じますわ。道が見辛くって……」
レイラは馬車の速度を
「あ、レイラさん。次を右に……」
エルグレドがレイラの背後から法暦省庁舎への道を指示し始めた。もう近くのようだ。ほどなくしてエルグレドが声をかける。
「そこです。その建物の前に
馬車は3階建てのレンガ造りの建物の前に止まった。
「何かの手続きですの? 時間がかかるのでしたら、先に私達だけでも宿に行っておきたいのですけど……」
馬車から降り立とうとするエルグレドにレイラが
「今夜はここの
「え? お役所の……宿舎……」
レイラが
「良い宿も考えていたんですけどね。予算が
篤樹とエシャーは「乗降り時用荷物セット」を手早く
「レイラぁ、行くよぉ?」
御者台に座ったままのレイラにエシャーが声をかけた。レイラは仕方無いとでも言うように、ノロノロと御者台を降りながら「はぁ……」とタメ息をつく。
「……ここは良い宿に泊まって観光するってのがフツーでしょ……。なんで行政宿舎なんかに……何よあのケチんぼは……。男がチマチマとお金の
ブツブツと聞こえるレイラの
「……エシャー。ここってお酒は置いてないよね?」
「お役所だから大丈夫じゃない?」
「有っても絶対に飲まれないようにしような」
2人は
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