第52話 誘拐
エルグレドは林道脇に、少し開けた場所を見つけて馬車を乗り入れた。道として使われている場所とは
「
エルグレドの注意に従い、ほろの中の3人は
「馬の
エルグレドの
「アツキくん、そちらの木に
篤樹は受け取ったロープの
……えっとぉ、木に登って? ロープを結ぶ? 篤樹は指示された木の
やるべき事は理解しているがやり方が分からない。
「アッキー! 木登り
防水布を広げながら
「
エシャーは篤樹に
「この
5mほど離れた木に登っているエルグレドに確認する。エルグレドから次の指示が響いた。
「アツキくん! ハトメにロープを通してこちらに渡して下さい!」
ハトメ? 何だそれは?
篤樹は予測を立てながら、広げられている防水布を見る。布の角に
「間違ってたらどうしよう……」と思いながら、篤樹はおずおずとその穴にロープを通し、端をエルグレドに返す。
「アッキー! こっちも!」
エルグレドからの「ダメ出し」が無いのをみて、自分の作業が間違っていない事を確認した篤樹は、急いでエシャーの下に駆け寄る。ロープの端を受け取ると、先ほどと同じように防水布のハトメ穴にロープを通し、端をエシャーに投げ渡す。エルグレドとエシャーはそれぞれの木の幹にロープを巻くと下りて来た。
「アツキくんはエシャーさんを手伝って!」
エルグレドの指示を受け、エシャーと一緒にロープを引っ張る。一端を引くと、防水布はズルズルと木に向かって引きずられていく。エシャーとエルグレドはそれぞれでロープを
「反対側は馬車に!」
篤樹は意図を理解しロープを1本持つと、垂れ下がった布の角のハトメに通し、ロープの両端を
引き馬の
「よし! 何とか間に合いましたね」
馬車と木の間に防水布の「
「レイラさん! 馬を中へ!」
レイラは食事中の馬の
馬は
「ほろの中に! 前後の『フタ』も下ろして下さい!」
4人は
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……いつ
エシャーはウンザリしたように、荷台後部の「フタ」を少しめくり外の様子を
林の中に馬車を移動し、高い木の
「……この調子だと一晩中降り続けそうですね。まあ、あの
ほろの荷台に4人が駆け込んで最初の1時間は激しい雷雨だった。篤樹は元の世界でも、あれほどの雷鳴と落雷の
確か中1の理科でも同じような話を聞いたなぁ……音は1秒間に340m位進むんだっけか? 光ってから音が聞こえるまでの秒数かける340って計算だったっけ? そんな事を考えながらその雷雨の時を過ごした。
初めの内こそピカッ! と光る度、心の中で「1…2…3…」と数えていたが……30分後には数える
荷台の中央に4人で身を寄せ合い、互いに抱きしめあいながら落雷の恐怖と戦い続けた1時間……空気全体が
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あれはさすがにすごかったですわねぇ。屋外であれだけの雷雨を体験したのは生まれて初めてかも知れませんわ」
レイラが言うんだからよほど「大物」の雷雲だったんだろう。何せ220年での初体験なんだから……
「どの道、このままここで野宿になりますから……雨が落ち着いている内に食事を済ませ、交代で休むことにしましょう。引き馬の見張りを十分にお願いしますね。この辺りは野獣やサーガだけでなく『
彼女? あの馬ってメスだったんだ……
篤樹は「盗賊」よりも、引馬が「
馬の世界でも「女」のほうが強いのかなぁ?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「エシャー……エシャー!」
御者台側の「フタ」の隙間から外の様子を見張っていていた篤樹は、毛布に
「う…うーん…」
エシャーは両腕を伸ばして「のび」をすると、再び毛布をつかんで頭までかぶってしまう。
「……ったくぅ。エシャー、エシャーってば! 交代だよ。時間!」
篤樹がエシャーの毛布を開く。毛布の中の「
「エシャー、見張り。交代の時間だよ」
そう言いながら、エルグレドの
エシャーが目をこすりながら毛布から
「……おはよう……アッキー……そっか……交代だったね……」
エシャーは、もう一度大きく
「俺、ちょっと出てくるから……」
ほろの「フタ」を上げ、篤樹は御者台に出る。
「え……? アッキー、どこに行くの?」
だから……ちょっと外に、ってニュアンスで分かれよぉ……
「トイレだよ、トイレ」
雨はもう完全に上がってるみたいだ。篤樹は御者台の横の足台を使い、静かに地面へ降り立つ。あれだけの大雨だった
「アッキー、待って!」
ほろの中から、エシャーも毛布を頭からすっぽりかぶり出てくる。
「私も行く」
えっと……女の子と「連れション」なんて……
篤樹は返事に
「んじゃ……ちょっと離れて、な?」
「当たり前でしょ?」
エシャーは
用を足し終えた篤樹は振り返り、エシャーが進んで行った木々の合間を確認する。まだ出て来ないか……篤樹はゆっくり馬車に向かって歩き始めた。
突然、何者かに背後から布で口を押さえつけられる。慌てて振りほどこうとした両手を、他の誰かに押さえつけられた。
1人じゃない! クソッ! じゃあ、足で……
「静かにしろ!……あれを見てみな!」
耳元で囁かれた言葉に従い、目の前にチラつくナイフが示す方向に目を向ける。
グッ……エシャー!?
押さえられている口では「ウグググ……」としか声が出ない。
こいつら……エルグレドさんが言ってた『盗賊』か!
林の中から連れ出されて来たエシャーも、2人の盗賊に
「
エシャーにも同じような
エシャーに2人……こっちには……3人か……
篤樹は盗賊たちの人数をざっと確認した。5人……いや、まだいるぞ? 馬車の近くから1人の影が篤樹たちのほうへゆっくり近づいて来る。
「どうだ?」
篤樹の背後から
「
「マジか……何でこんな
篤樹の背後ろの男が
「レベル計は?……ありゃりゃ、無理だわ、これは……」
「どうするよ? 気づかれたら
「
え? 諦めるの?
篤樹はこの「盗賊たち」が、予想外に安全第一なグループっぽいことを感じとる。何と言うか……全然殺気を感じないというか……
暴れだせば、きっとエルグレドとレイラが騒ぎに気づいて対応してくれるだろう。コイツら自身が何かで
篤樹はエシャーのほうを見る。向こうがどうなってるか分からない。下手に暴れて向こうでエシャーが
「よし……とりあえずこの2人は連れて行こう!
盗賊たちは篤樹の首筋にナイフを押し当てたまま、両腕を後ろ手に
えっと……これって……「誘拐」されたの? 俺たち……
あまりにも現実感の無い深夜の誘拐劇に、篤樹はまるで夢でも見ているのかと思いつつ、とにかく、盗賊を
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