第53話 盗賊の村
「無理だわ。これ以上は追えない……」
レイラは振り返りエルグレドに告げる。
「クッ!……そうですか……仕方ありません。一旦、馬車に戻りましょう……」
エルグレドとレイラは、朝日も昇らない薄暗い道を、ここまで歩いて来た方角へ戻り始めた。
夜中の二時過ぎ―――再び
その後、
雨の中、残されていた足跡を
「うかつでした……私のミスです……」
エルグレドは
「誰に何をおっしゃっておられますの? 今の言葉……私に?」
「……いや、別にそういうわけでは……」
レイラは「ハンッ!」と鼻で笑う。
「
「いや……だから別に……そういうつもりで言ったわけではないです!」
エルグレドは「つい」うっかり口を
「
エルグレドは立ち止まって振り返り、レイラの顔を見た。涙? 雨? これまで見た事の無い悔しさを
そうだ、冷静に考えなければ……
「すみませんでした……レイラさん。おっしゃる通り、あの子たちを危険な目に合わせたのは私たち2人の大人の共同責任です。とにかく馬車に戻り対策を考えましょう。雨も……今度こそ完全に上がりそうです。
2人はさっきよりも足早に、目的を持って行動する力強い
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「エシャー? エシャー! 大丈夫?」
物置のような「監禁室」に、両腕と両足を
篤樹は口を塞がれていた「くつわ」を何とか外すことが出来ていた。
そこは窓の無い小屋だった。床も無い。地面に直接、壁と屋根だけを組んだ倉庫のような場所だ。壁の板の
篤樹は
「エシャー?」
地面を転がりながら荷物の山を
「ウガウガ……フン、ウガ……」
見るからに「しっかりと」結ばれてるくつわでエシャーの顔は縛り上げられている。篤樹はエシャーのそばまで移動し、うまく
「くつわを何とか
エシャーはうなずくと、なんとか後頭部を篤樹に向けようとする。篤樹は積み上げられている袋に倒れ掛かるように体重を預け、エシャーと袋の隙間に入り込み「くつわ」の結び目を確認する。
結び目に顔を近づけ、歯を使って結び目を解こうと試みるがどうにも上手く行かない。姿勢を変え、縛られている後ろ手を使って試してみる。
かなり強く結ばれているが、指先の爪まで使って少しずつ結び目を緩めていくと、数分で一番外側の結び目が解けた。指先で残りの「結び玉」を確認する。
もう一つ……
同じ要領で次の結び目を解くと、くつわ自体が急に緩くなったのか、エシャーが頭を振りながらくつわを口元からずらしはじめた。
「エシャー、もう少し緩めるから待って……」
よし!
完全に解けた感覚を確認し、くつわ
「アッキー! あひがとー」
エシャーは涙目で礼を言うが、
「エシャー、よく
篤樹はせっかく取り戻した「口の自由」を、再び
「エシャー、これ解けそう?」
篤樹は自分の後ろ手の結び目が見えるように立ち上がり、エシャーの目の前に見せた。
「どう?」
「両手が使えないと無理っぽい……この状態じゃ魔法も使えないし……」
「エシャーのも見せて」
篤樹は
「さてと……」
一旦気持ちを落ち着かせるため、篤樹はエシャーの横にズルズルと腰を下ろした。
―・―・―・―・―・―
馬車の場所から連れ出されて1時間以上は歩かされた気がする。そこで荷馬車に乗せられて……しばらく移動した後、さらに大雨の中の山道を10分ほど歩かされた。
「集落」に入ると、すぐにこの小屋の中に叩き込まれた。篤樹は黙っていたがエシャーは「ここはどこ?」「どうするつもり!」「アッキーに何かしたら許さない!」と叫び続けていた。その時、真っ暗だった集落の何軒かにあかりが
結果として「うるさい」エシャーは強めのくつわ、篤樹には緩めのくつわが結ばれ、両足も結ばれての監禁となった。
「何だって?!
小屋の入口で
「だって、お
「こりゃ……仕方ねぇな。
「女はクリングを持ってたんで取り上げてます。男のほうは特に武器は持って無かったみたいです。馬車の中にでも置いてたんでしょう」
「そうか……
「あの雨ですから、
「ん? なんだい?」
「男は人間ですけど、女のほうは『エルフ』ですぜ。まだ若い。北の山の連中もこれなら見逃してくれるんじゃないかと……」
一瞬の間が有った後、「お頭」の声が続く。
「しゃあねぇな……『エルフの誘拐』なんて大それた
そう言うと、松明を持った男は小屋の扉を開けて中に入って来る。中を見回し篤樹とエシャーを
「すまねぇな……人助けと思って
そう言い残し小屋から出て行くと、扉を閉め、外から錠をかける音が聞こえた。
―・―・―・―・―・―
「今、何時くらいかなぁ?」
小屋に洩れ入る明かりを見ながら、篤樹はエシャーに
「多分、7時か……8時くらい。ね、アッキー?」
篤樹とエシャーは積み上げられた袋を背もたれにし、並んで座っている。後ろ手に縛られた腕が痛い。
「何?」
「アイツら、盗賊?」
「多分……」
篤樹は夜中からの一連の流れの中で感じた『この盗賊たち』の自分なりの印象を整理してエシャーに伝えた。
「……ってことは『北の山のヤツラ』ってのに
「ありがち」な
「とにかく、ここの連中にしてみれば、俺もエシャーもここにある物も『取引のための大事なモノ』だろうから……そう簡単に殺されたりする事は無いと思うんだ。ただ『北の山のヤツラ』ってとこまで行けばどうなるか分からない。だから逃げるチャンスは、ここの連中しかいない今の内しかないんじゃないかなぁ……」
「どうやって逃げ出すの? 何か作戦はある?」
エシャーが期待を込めた目で篤樹を見つめる。そんな目で見るなよぉ……縛り上げられてて、戦える武器だって無くって、俺だって……あ!
「エシャー! 俺の上着の中のポケットに『
「アッキー、横になって! うつ伏せで!」
エシャーは何か考えついたようだ。
「それ、私だって持てないけど、アッキーの『服』なら私でも持てる。上着のポケットから下に落とせば、あとはアッキーが後ろ手で拾えるでしょ? とにかくアッキーの服を私が
まるで「ヘタクソなヨガ」でもやってるような、とても人には見せられない変な姿勢を篤樹は繰り返し、エシャーは篤樹の服を後ろ手や口を使って
十分ほどの
成者の剣は……「アイスバーの棒」から、まるで「カッターナイフ」のような形に「成長」していた。
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