第44話 初使用!成者の剣
「なんだぁ? アイツは」
2体のワーウルフが顔を見合わせる。
「どした、どした?」
ワーウルフの足元付近の草むらがガサゴソと
「やめろ! このバケモノ共が! 俺が相手だ! かかって来い!」
うわっ! ダッセーセリフ!
こんな
何だよこの
それでも、サーガを呼び集めるには十分効果があったようだ。
「おい! 人間だ! もう一匹いたぞ!」
篤樹を「人間」だと確認したワーウルフが大声で叫ぶ。
「何! よし! 任せろ!」
草むらの中から声が聞こえる。
「回り込め!」
「逃がすなよ!」
エルグレドが「小型の個体」と呼んでた連中が、草むらの中を進み向かって来ているようだ。ワーウルフも2体並びで近づいてくる。2体とも大型の
えっと……この後は?
篤樹はどうしようかと迷う。挑発しておいて逃げ出すってのは……カッコ悪いだけでなく、一箇所にヤツラを集めるという計画からズレてしまう。でも、だからと言ってこのままここに突っ立っていたら……
迫り来る「草むらの音」に、篤樹は
「エイッ!」
広場中央付近の草むらから突然エシャーが顔を出すと、1体のワーウルフ目がけ攻撃魔法を
「エシャー!」
「アッキー! 逃げて!」
いや……逃げると作戦が……
「なんだなんだ!」
「エルフがいやがる! 攻撃されたぞ!」
草むらの中のざわつく声に、残っていたワーウルフが答えた。
「広場の真ん中付近だ!」
篤樹に向かって来ていた草の波が、ワーウルフの指示を受けエシャーに向きを変え移動し始める。
「エシャー! そっちに何かが向かって行った! 気を付けて! 小さい奴だ!」
慌てて叫んだ篤樹の声を聞き、エシャーも草むらに
「コウリャー!」
突然、篤樹の目の前の草むらから何かが飛び出して来る。
え? 何、コイツ……
篤樹の目の前に出て来たのは小人族……エシャーの祖父シャルロと同じくらいの身長の小人型サーガだった。しかしシャルロのような文明らしさは感じられない。
小人型のサーガは両手で
「ゲシャラファラァ……ニク、ニク」
ソイツは篤樹に向かって槍を突いて来る。
「うわっ! ちょっと! 待って!」
次々に突き出される槍の
ちょ、ちょっと! ヤバイって!
ワーウルフが
ピシュー! ピシュー!
聞き慣れない音が2回、篤樹の耳に聞こえた。
「大丈夫ですか? アツキくん!」
エルグレドが木の上からストンッ! と飛び降り駆けて来る。篤樹は放心状態で
「すみません! 想定外でした。あそこでエシャーさんが出て来るとは……小型はあと3体です! 確認しました。ここで待っていて下さい!」
エルグレドはエシャーが倒したワーウルフのそばへ駆け行き「とどめ」を刺すと、エシャーたちの居る草むら中央へ向かって行く。放心状態だった篤樹は、エルグレドの言葉をかなり時間をかけ理解し始めていた。
えっとぉ……エルグレドさんが草むらの中に入っていってるのは……3体の小型サーガを倒すため? じゃあ……俺はもう……助かったのかな?
篤樹は目の前に倒れている小型のサーガと、少し離れて倒れている大型のワーウルフのサーガを、恐怖に見開いたままの目で確認した。
倒れてる……動いてない……助かった?
倒された2体のサーガの体が、ユラユラと
そこまでを見届け、ようやく篤樹は「今、どこにいて、何をしているのか」を認識する思考が回復してきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
草むらに飛び込んでいったエルグレドは、木の上から確認した小型の個体の動きを頭の中でシミュレーションしながら、広場中央へ駆け寄って行く。
「エシャーさん、左手10mを警戒! レイラさんは?」
「ここよ!」
エシャーの背後に少し離れ、背中合わせに立つレイラの姿をエルグレドは確認した。
「さすが! そちらに2体回り込んでます!」
エルグレドは2人のもとに駆け付け、自分もレイラと同じ向きで3人背中合わせに立つ。
「エシャーは
「だって、アッキーが!」
「来ます!」
エルグレドが声をかけるとほぼ同時に、目の前の草むらから槍の
エルグレドはそれを
一瞬の事で手を離し
「あら? 隊長さんって腕力タイプでしたの?」
「タイミングです。本来は腕力を使わない攻撃のほうが得意なんですけどね……あなたも、思ってた以上に
2人は互いに口元に笑みを浮かべる。
「『小型』はホビット系だったみたいですね」
エルグレドの言葉にエシャーが反応し振り返った。
「え! ホビットって……小人属の? そんな……」
「小人でもエルフでもサーガは生まれますよ。集中して!」
そんな……ひいおじい様のお仲間にもサーガが……
エシャーは一瞬シャルロの笑顔を思い出していた。あの「可愛らしい笑顔」を……おかげで反応が遅れてしまう。
「危ない!」
背後からレイラの手が伸び、エシャーを右横に押した。左目のすぐ横を何かがかすめ、背後に飛んで行く。
「しゃがんで!」
今度は考えるよりも先に身体が動いた。エシャーは「サッ!」と身を
「大丈夫?」
レイラが辺りの
「……あ、うん、少し……かすっただけ……レイラ!?」
エシャーはレイラの右腕から血が
「大丈夫よ。私もかすっただけだから」
レイラは右腕をだらんと下ろし、左手で右の
「2人共、大丈………夫では無さそうですね」
エルグレドが辺りを警戒しつつ2人の様子を確認し、息を飲む。
「右腕の出血さえ止まれば大丈夫ですわ。ただ私……自己
レイラは悪びれる感じでもなく、事実をありのままに伝えるトーンでエルグレドに答えた。エルグレドがレイラに手を伸ばす。
「危ない!」
その差し出した手を目がけて飛んできた「それ」に気付き、エシャーが叫んだ。エルグレドは即座に手を引き、
「クリングです!」
エルグレドの声に反応し、エシャーは自分の左腕のクリングを右手で
「あらあら、良いオモチャを持ってるみたいね、小型のサーガさんたちは……」
レイラは草むらを
「いっそ全部焼き払って、姿を現していただきましょうか?」
「だめです! これだけの草むらを焼き払えば、こちらにも被害が生じます!」
エルグレドが
「冗談よ、隊長さん。そのくらいうっとうしい攻撃ってことですわ……草むらからのクリング攻撃は……」
3人は再び近づき、背中合わせの警戒態勢を取ろうとした。しかし、その合流を阻む「クリング攻撃」が続く。
「ほら! もう……面倒ね!」
再び飛んできたクリングをかわし、レイラが抗議の声を上げた。
「止血魔法を使いたいんですが……」
エルグレドがレイラをチラッと見て声をかける。
「『小型』さんたちは攻撃方法を変えたみたいですわ。私たちを一定距離以上近づけさせずにいるところを見ると……どこかのタイミングで2対1の攻撃を仕掛けてくるおつもりでは?」
「『小型』なだけに、これだけの背丈の草むらなら姿を隠すのもお手のもの……ですか」
エルグレドは周囲警戒を
「あ! そうだ!」
エシャーは自分の左腕からクリングを外し、法力を
「レイラ、しゃがんで!」
レイラの正面の草むらに向かい、エシャーはクリングを投げる。草むらの中をきれいに楕円軌道で回ったクリングは、しっかりとエシャーの手元に戻って来た。
「エシャーさん! クリングはそんな風に
エルグレドが注意するが、エシャーは
「エシャー!
頭上を何度も行きかうクリングに、レイラもウンザリした声で注意をする。しばらくすると、レイラの目の前の草むらはエシャーのクリングによって刈られ、まるで大風になぎ倒された麦畑のようになっていた。
「エルグレドさん! 止血を!」
エシャーはエルグレドにレイラの止血を指示する。エルグレドはエシャーに何か考えがあると察し、その指示に従う。
「レイラさん、こっちへ!」
エルグレドが手を伸ばした。次の瞬間……
「いた!」
エシャーは叫ぶと、刈り倒された草むら目がけクリングを投げる。
「ギャブッ!」
草むらの奥10mほどの所から、小型サーガの断末魔が聞こえた。エルグレドはレイラの右腕出血点に自分の右手の平をしっかり乗せ止血魔法を施しながら、やわらかな笑みをエシャーに向ける。
「なるほど……『敵』は草むらそのもの、というわけですか?」
「だって、
エシャーは自分の「作戦」が上手くいった事に
「さて……あと一体いるはずですけど……」
エルグレドはそう言って周りを確認する。止血が終わったレイラも地面に手の平をついて気配を探る。
「近くにはいませんわ……」
「いったいどこに……」
3人は辺りを見渡した。
「おや?」
広場の
「アッキー……?」
「何かあったんでしょうか?」
3人は周囲を警戒しながら篤樹に近づき、その手に握っているモノに気付いた。
「『
エルグレドはハッキリ「それ」と分かる距離まで近づくと、篤樹の足元に小型のホビット系サーガが倒れている事にも気付いた。
「え? 残りの1体? これ、アッキーが?」
「あら、こんな所で
篤樹は引きつった笑顔でレイラの問いに
「3人とも、無事でよかった……です。……とりあえず、僕も……勝てました……」
そう言うと篤樹は、「アイスバーの棒」のような成者の剣を握り締め、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。
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