第12話 思いがけない決闘
「アッ…キー……?」
「『
エシャーの
「え?」
「アツキが
エシャーは
「……じゃあ……アッキーは……アッキーは1人であのサーガと? アッキーはアイツと1人で戦うってことなの?!」
「それは……分からん……」
シャルロはヨロヨロと立ち上がり答えた。
「なぜあのような姿になってしまったのか……
シャルロも
シャルロは「戻された記憶」と今の状況から、世界が大きな
「エシャー! 父上!」
ルロエが橋の上に
「早くこの場から立ち去りましょう! ガザルがいつ戻るやも知れません。それにあれを……」
ルロエは
「はっ?!」
「
湖神様からの「伝心」が、ルエルフの村人へ
『ルエルフの住民たち、よく聞きなさい。ガザルによって開かれた穴は、段々広がっています。もはや私の力で
伝心が終わると同時に、湖上の光球は南の森へ飛び去って行った。
「お父さん!」
エシャーはルロエの胸に飛び込む。
「アッキーがまだ戻って来ないの! 湖神様は私に、アッキーを連れて外界へ逃げるようにってお願いされたわ! どうしよう!」
「とにかく……とにかくここから移動しよう! 父さんは母さんを連れに行く! 父上!」
ルロエは娘を
「おじいさま、どうすれば……」
エシャーはシャルロの左腕を取り、体を支えながら
「とにかく、奴らは南の森から来る。皆に北の森へ逃げるように伝えねば……」
シャルロは右手の指を合わせ目を閉じ、村人全体への伝心を
「ダメじゃ……届かぬ……」
しかし、伝心が上手く操れない。シャルロは南の森、今は湖神様の光球に包まれている方角を見ながら、
「エシャー、村人たちに北の森から逃げるよう伝えておくれ……グ……ン……伝心は……使えぬ。奴らの開いた『穴』のせいで……村の空気が変わってしまったよう……グボッ!」
シャルロは右手で腹部を押さえた。そのまま口から大量の血を
「おじいさま!」
「ウグ……だ……大丈夫じゃ……早く!……大声で……皆に呼びかけてくれ!」
エシャーは
「みんなー! 北よ! 北の森に逃げてー! 北の森から
エシャーの声を聞いた村人たちが、一斉に伝心を使おうと試みる。
「伝心は使えなくなってるわ! みんなで直接声を
エシャーは再び叫んだ。
「さあ……お前も行きなさい……」
苦しそうに息をしながら、シャルロがエシャーに語りかける。
「いや! おじい様も一緒に!」
エシャーは首を横に振りながらシャルロを抱きしめた。シャルロは自分を抱きしめる孫の手を、トントンと
「ウグッ……この状態では……ワシは走ることも出来ん……一刻を争う。とにかく行くのじゃ。皆が……逃げ切れれば……奴らもここから出て行くじゃろう。それまで、ワシは……近くの家に隠れてヤツラをやり過ごす。じゃから……もう行くのじゃ……」
シャルロはそう言うと、エシャーの腕から
「おじいさま!」
「行くのじゃ!」
エシャーは南の森に目を向けた。湖神様の光球がいくつかの球に
涙を
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うわっ!」「ぬおっ!」
「
先に起き上がったのはガザルだった。ガザルは篤樹から数歩離れた場所に立ち、まだ橋の上に
「死ね!」
「あっ!」
篤樹はエシャーが森の中で腐れトロルを倒した光景を思い出す。殺される!
「ん? 何だ! クソッ、クソッ!」
しかし攻撃を受けることなく、ガザルの
「貴様! 何をしやがった!」
ガザルはズカズカと篤樹に近づくと、いきなり顔を
痛い! え? なんで?……ってか、痛い!
篤樹は突然の「暴力」に対し、痛みよりも先に驚く。
なんで? こいつはなんでいきなり俺を蹴ったんだ? 俺が何をしたっていうんだ!
「痛ッ! クソ! 何するんですか!」
篤樹は突然目の前に現れた「若者」、エシャーや自分よりは年上だろうが、
「あ、耳……その耳って……エルフ? あの……村の方ですか?」
「はぁ?」
ガザルは再び篤樹に近づくと、今度は立ち上がったばかりの篤樹の腹に思いっきり右の
息が……出来ない!
「おい、貴様! 俺をあんな
膝をついている篤樹の上半身に、
痛い! くそ! なんで俺がこんな目に! 篤樹はふと考えた。そう言えば「リアル」で
「クソッ! どうなってんだ……ん?」
ガザルは辺りを見渡し、自分が「どこ」にいるのかを理解した。
「ここは……
お腹を押さえ、ゲホゲホと
「そうか……おい! 貴様!『例の首飾り』を出せ!」
え? 何? こいつ、俺に何を要求してんの?
「持ってんだろうが!
ガザルが
篤樹は自分が立っている場所を確認した。さっきまでいた橋の上、湖神様の橋にまた戻ってしまったのか……「
ガザルの背後に見える、橋の「先端ステージ」を篤樹は見つめた。さっきまで先生と話をしていたあそこまで行けば……
「よう、人間のクソガキ。なに生意気に俺の手をかわしてやがんだ? 殺さねぇように
アイツとの
「なんだ? その格好は? 情け無ぇ人間のガキが。
篤樹は
位置について……
心の中で呟く。両手を橋の上に乗せ、橋につけていた片膝を上げる。
ヨーイ……
スターティングブロックが無いのは不安だが、大丈夫だろう……篤樹はクラウチングスタートの格好で「合図」を待った。
「……許しゃしねえよ!」 ドン!
ガザルが篤樹目がけて
「なっ! クソがッ!」
すぐにガザルは起き上がって態勢を
「ああ? おいおい、テメェは一体、何がしたいんだ?」
橋端の「ステージ」の上で行き場を失い、キョロキョロと辺りを見渡す篤樹の姿をみて、ガザルは
「先生ー! 先生ー!」
篤樹は湖神様……クラス担任の小宮直子に助けを求めて叫ぶ。しかし湖面には何も変化は起こらない。ガザルが橋端までやってきた。
「おい、人間。湖神を呼んでるのか?
篤樹はビクッと肩をすくめる。また殴られる! また蹴られる! 痛いのは もう
「な、なんで……」
「湖神はさっき俺がぶっ飛ばした。しばらくは湖の上でお
ガザルは、まるで
「
ガザルは左腕で篤樹の首を
「グッ!」
「どこだぁ?」
篤樹の
バンッ!
「グワッ!」
渡橋の証しにガザルの右手が
何だ? どうした? 篤樹は咳き込みながら右手で渡橋の証しを探った。大丈夫、取られてはいない。
「クソ! あの
ステージの端まで
「もう……もう、絶対に許さねぇ……永遠の苦しみにテメェをつないでやる!」
恐ろしい
ダメだ、殺される! 逃げなきゃ! でも、どこに……
チラッと後ろを確認する。橋がどこまでもどこまでも続いている。どこまで走っても……いつかは
篤樹は正面に向き直った。ガザルを
「どうした、人間? 怖いのか?
ガザルはニヤニヤとした
「あ、あなたは……あなたは一体誰なんですか!」
篤樹は勇気を振り
「はぁ? テメェに教えてやる義理は無ぇよ。それより、早くその
まだだ……まだダメだ。
「で、でも、さっきこれを
「うるせぇ!」
ガザルの口元から
「ガキが!」
ガザルが一瞬目を閉じる。だが、次に開いた時、ガザルの右目は「小人の
しかし、小人の咆眼で篤樹を
「あの女ぁーー……!」
篤樹の胸、首から下げていた「渡橋の証し」から何本もの白い光の線が、まるで無数の矢のようにガザル目がけて飛び出し突き刺さっていく。篤樹はそのまま後ずさった。
13…14…15!
ガザルの叫び声が不意に消え、篤樹の目の前が急に明るくなる。
目の前に……アイツはいない! 湖へ続く橋があるだけだ。良かった! 成功だ! でも……
篤樹は足が橋から「地面」に着いたのを感じつつ、湖の対岸、村の南方に見える景色を見つめた。なんだ? あれは……
すり
最初に橋を渡る前に見た村の光景から一変したその姿に目が
「急げ! 北の森へ!」
「男たちは残って戦え! みんなが逃げる時間を
な、何が……一体……
篤樹は自分が立っている湖岸側に
篤樹はゆっくりと
「あ!」
湖岸の道の脇に座り込んでいる「小人のルエルフの姿」が篤樹の視界に入る。
「
「……お、おお! アッキー……戻ったか……ヤツは?……ガザルは?」
シャルロは、息も絶え絶えになりながらも、篤樹に
「ヤツは橋の上……湖神様の臨会の地に置き去りにして来ました。あ、あの、大丈夫ですか?」
大丈夫なワケがない! こんなに血を吐き出しているなんて……絶対に「命にかかわる大怪我」に違いない! 篤樹はどうすれば良いのか分からなかった。こんな重傷者を目の前にする経験なんか生まれて一度もない。
テレビや映画でしか見たことの無い「大量出血・吐血の場面」だ。どうすりゃいいんだ? とりあえず救急車……いやいや、だからこの世界にそんなのないだろ? お医者さん……お医者さんとか病院は? とにかく誰か……誰かに助けてもらわないと……
「誰か……誰かー! 助けてくださーい!」
篤樹は周囲に大声で叫んだ。しかし、
「誰かー! 大怪我なんです! 助けてくださーい! 村の長が大怪我でーす!」
もう一度、篤樹は声の限りに叫んだ。
ヒーッ……
シャルロから
篤樹は
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