第9話 再会?
村の
道中、エシャーはまるでピクニックにでも出かけているかのように長に話しかけ、篤樹にちょっかいをかけたりと楽しそうだ。
なんだかのんびりした気分だなぁ……
篤樹も、さきほどまでたかぶっていた
道中、何人かのルエルフ村人と出会ったが、どうやら皆「伝心」とやらである程度の事情を理解してくれているようだ。昨日のように「
半時も経たず、一行は湖岸の中ほどにある
「
シャルロが声をかけると、若いルエルフもにこやかに応じた。
「こんにちは長、ルロエさん……もう行かれますか?」
若いエルフは篤樹をチラッと見た後、シャルロに
「もうぼちぼち良い
シャルロは右手を
「さてアツキ、こちらへ」
篤樹は言われるままシャルロの前に進み出た。
「これは『
シャルロはそう言うと篤樹に「ウインク」をして見せた。
黒い
そうだ……今から俺は下手すりゃ死ぬかも知れない場所に1人で行くんだった!
篤樹は湖神様について聞いた話を思い出した。ビビったら負け。質問
「良いな、アツキよ。
お伺いしたいこと? そんなの決まってる!
「どうすれば元の世界……自分の家に帰れるかです」
「ウム……ではその事だけを考え、そのお伺いのみを心からの言葉で発せよ。さすれば何らかの答えを受けられようぞ! ……さあ、行くが良い」
篤樹は右手で「渡橋の証し」を強く握り締め、桟橋の
そこには、たった今離れた湖岸は無く、長い長い橋がどこまでも続いていた……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あっ!」
エシャーは息を
「エシャー!」
ルロエが
「……戻っておいでエシャー。大丈夫じゃ」
シャルロが投げかけた言葉に応えるように、エシャーは一歩、二歩と桟橋を戻り始めた。
「アッキーは……?」
岸に戻ると、涙を一杯に浮かべた
「ねえ……アッキーは? いなくなっちゃった! 帰ってしまったの? どこに行ったの?」
動揺する孫娘に、シャルロが答える。
「湖神様の元へ行ったのは確かじゃ。しかし、その後どうなるのかは……ワシらには分からん」
「ここに帰ってくるの? もう帰ってこないの? どっちなのおじいさま!」
エシャーは
「普通の臨会ならば、ひと時もせずに戻ってくるはずじゃ……普通の……ルエルフのお伺いならのぉ。今回は、本当にワシにも全く予想は出来ん。待つしかないのじゃ」
エシャーは
「大丈夫じゃ。きっとアッキーは湖神様とお会いして、何らかの答えをいただいて戻ってくる。しばらく待とうなぁ……」
シャルロは
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
篤樹は振り返ったまま、しばらく
一瞬の出来事……遠くで聞こえていた鳥や動物の鳴き声も、
首からぶら下っている「
そうだ……ここは別の世界……不思議な事が
篤樹は目を閉じ、
―――・―――・―――・―――
2年生の秋季大会代表選手選考の校内レース。1年生の後半から急に身長が伸びたせいか、篤樹は2年の夏には手足のリーチも伸び、
面白いと思ってなかった部活も楽しめるようになっていた。タイムが
校内選考レースの結果
「じゃあ、アップが終わったら1年から順に短距離タイム
「ど緊張じゃのう、若いの!」
「あ? なんだよ遥ぁ。茶化すな……」
遥は篤樹の横にしゃがみ、顔を覗き込む。
「朝から顔色悪かったぞ、おぬし」
「んな事ねぇよ!」
「ハハ! バレバレだってぇの。なに、賀川? 今回はマジレースやるんすか?」
「いっつもマジでやってるよ!」
遥が立ち上がる。
「良いなぁ、男子は! 胸が
「はぁ? お前、何言ってんの?」
「女子は結構大変なんだぞぉ。ほら、ウチは顧問がアレ1人だけだからさ。色々と女の子ならではの悩みも相談できないんよぉ」
篤樹は遥とは何となく馬が合う。ただ、マイペースというか天然というか、不思議な子なので
「んでなぁ……」
「ん? なに?」
「こうやるのだよ! 1回目、過去の自分を考える!」
遥は大きく深呼吸をして見せた。
「はあ?」
「2回目、今の自分を考える!」
遥はまた大きく深呼吸をして見せる。
「で、3回目な。何を考えるでしょ?」
え? 1回目が過去? 2回目が今……じゃあ、3回目は……
「……未来?」
篤樹の答えを聞くと遥は吹き出し、本当に楽しそうに声を出して笑った。
「
そう言うと、遥は大きく3回目の深呼吸をした。
「考えたってしょうがない! 当たって
篤樹は遥の
何だか、今まで変に緊張してたのが馬鹿らしくなり、気持ちが楽になる。遥は「よっしゃ! 緊張はほぐれたな? ではまたな!」と言葉を残し、
その直後の100m計測走で、篤樹は創部以来最高の選考タイムを出したということを、後から知ることになった。
―――・―――・―――・―――
よし……行くか!
篤樹は、どこまでも終わり無く続いて見える「橋の後方」を見るのをやめ、湖神様のもとへ向かう橋の
湖面にはボンヤリとした
木製の
篤樹はもう一度「渡橋の証し」を
「は? 何だ……これ?」
篤樹はせっかく落ち着いた思考が、再び混乱し始めていることを理性的に感じていた。「まったく……次から次に……」という理性的な思考と「え? なんで学ランのボタンが? それにこの古び方? なんなんだ!」という混乱。
とにかく、もう……いちいち考えてたってしょうがない!
篤樹は何も分からない状況に腹が立ちながらも、とにかく湖神様に会って話を聞くという目的に支えられ、ずんずん30mほど先にある「桟橋の端」に向かい進んで行った。
桟橋の端は
あ、そう言えば湖神様の「呼び出し方」って聞いてないけど……
篤樹は「ステージ」の手前で立ち止まった。
この後「湖神様」に会うんだ……とにかく落ち着こう。ビビッたら負け、ビビッたら負け。尋ねるべき事だけを考えて……
高山遥から以前教わった深呼吸を始める。
1回目。スー!
過去の自分……楽しみにしていた修学旅行……。バスの「事故」……転落して……「この世界」に自分一人だけが投げ出された……
フー……
2回目。スー!
今の自分……
フー……
3回目。スー!
とにかく聞くべきことだけ考える。後の事なんか考えない。当たって
フー……
篤樹は「ステージ」へ足を
いや……ホントに何か「呼び出しの
だが、篤樹の心配は湖面に起こった変化ですぐに消え去った。まるで空から
湖の底から何か浮き上がって来るのが見えた。光の
弱まった光の中に
「は? あ、あれ?」
篤樹は、よく知っているその人物に向かって驚きの声を洩らす。
「せ、
光に包まれて現れた「湖神様」は、篤樹のクラス担任、
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