第4話 シャルロとの出会い
「ここが長の家よ!」
エシャーは篤樹と
「さあ、どうぞ。怖がらなくても大丈夫だから!」
そう言うとエシャーは玄関と思われる大きな木の扉を叩いた。多分、あれがドアだよなぁ? でもなんだか
「おじい様ー、お客様でーす!」
「え? おじいさま?」
「そうよ。おじいさまが今はこの村の
「長」の家の扉が音も無く外側に開くと、エシャーはさっさと中に姿を消す。篤樹はまるでお化け屋敷にでも足を踏み入れるような緊張を覚えつつ階段を上り、扉の内側を恐る恐る
「早く入って!」
エシャーの声に引っ張られるように長の家の中へと入ろうとした時、篤樹は扉の違和感の正体に気がついた。ドアノブが無いのだ。扉の内側にも外側にもドアノブが無い。だから外から見た時に扉が何となく「ただの板」のように感じたのか……。どうやって閉めるんだろう?
「中に入って。扉は『ルー』……えっと……マフーで閉まるから」
マホウだけどね。篤樹は心の中でエシャーに突っ込みを入れながらも、慎重に家の中へ足を
「何やってるの? 早く!」
エシャーの声が奥から聞こえた。扉が閉まり、ますます室内の
落ち着け、落ち着け、殺されることは……多分無いだろうし……
目を開くと、先ほどよりも暗さに目が慣れたのか、中の様子を見分けられるようになっている。5メートルほど真っ直ぐに
「この部屋よ」
エシャーが顔を
引き込まれるまま部屋に入った篤樹は初め、部屋の中に誰もいないのかとキョロキョロ見回した。
石造りの壁の
暖炉の前、テーブルの一番奥には「サンタクロースの帽子」のような三角帽子が置いてある……。いや? 置いてあるのではなくテーブルの向こうに……
「さあさあ客人よ、こちらへお出でなさい」
三角帽子がユラユラと
「おいで、アッキー! こっちよ」
アッキー? 両親と姉妹からは今でも「アッキー」と呼ばれることがたまにあるが、家族以外から愛称で呼ばれるのは久し振りだった。小学校の低学年以来かな?……ってか、さっき会ったばかりなのに
そう思いながらも篤樹は、とにかく招かれるままテーブルを回り込み、エシャーと「三角帽子」に近寄って行く。
ああ、三角帽子はテーブルの上じゃなくて「向こう」にあったのか……。ん、と……
エシャーと「三角帽子」に
ルエルフ村の長……それは
「あの……おじゃまします」
「いらっしゃい、少年よ!」
村の長シャルロはニコニコ
「さて……それじゃあ、まずはあんたの話を聞こうかのぉ」
シャルロはまるで、絵本を読んでもらう幼い子どものようにキラキラした
―――・―――・―――・―――
「ふぅむ……」
篤樹の話を聞き終わったシャルロは、自分の太ももにまで伸びた立派な白いあごひげを左右の手で交互に
「あの……だから、僕……ホントに何がなんだか分からないし……」
「腐れトロルに追いかけられて、たまたま飛び込んだのが『ルエルフの森』だった……と言うんじゃな?」
「はい! そうです。とにかく逃げなきゃって……」
「いやいや、それは分かった」
シャルロは話しをさえぎるように手を篤樹に向けると、足元に座っているエシャーに視線を落とす。
「森の『定め』は……どこも何も変わってはおらなんだな?」
「うん! ……あ、ええ、おじいさま。『ルー』に破損は起きていません」
「そうか……。内容は理解した。
え? おじいさんまでアッキー呼ばわり? やめてくれよ、恥ずかしい。
「ホントにお
「……はい」
「あの『結びの広場』におったのはわずかな時間で、その前はその『バス』とやらの乗り物の中におったのじゃな?」
篤樹は答えに困ってしまった。落ちていくバスから
「そうか……バスとやらの『外』に弾かれたと……。ではその『バス』に乗っていた者たちよりを後に……『最後に落ちた』……ということで間違いないのじゃな?」
「最後に落ちたって言うか……。僕はバスの後ろの窓から飛び出しちゃってたので……結果的には『最後』に地面に落ちたんじゃないかと……」
篤樹はどんな返事をすれば良いのか、相手がどんな返事を望んでいるのか分からず、とにかく思いつくままに答える。
「まあ、しかし……森の定めに異常が出ていないのであれば大丈夫じゃろう」
「あの、それより……」
篤樹は
「それより……僕がここに……この『世界』にいる理由を教えて下さい。どうやったら家に帰れるんですか? みんなとは会えるんですか!」
尋ねながら篤樹の声は段々と大きくなっていった。状況が分からない不安と、村の「長」という特別な「大人」に出会えた安心感から、とにかく疑問をぶつけてしまう。
シャルロは何か言いたげに椅子の前に身を乗り出し口を開こうとしたが、思い直したようにまた背中を背もたれにつけ目を閉じ、落ち着かない様子であごひげを左右の手で交互に撫でた。
「お願いです! 何でも良いから教えて下さい!」
食って
生まれて一度も味わった事のない恐怖……さっきの腐れトロルに追いかけられた恐怖とはまた
「おじいちゃん!?」
異変に気づいたエシャーの叫び声でシャルロと篤樹は「ハッ!」と
「いや……いやスマン、スマン。どうしたんじゃろうなぁ……」
シャルロは何かを
「うん、ホントにスマンなアッキー……。いや、アツキよ」
シャルロは優しい声で篤樹に語りかけたが、篤樹はもう「
さきほどの
「もう! どうしたのおじいさま! アッキーが
エシャーは、心配そうにガタガタ震える篤樹の膝に手を置くと、シャルロを
「人間に『小人の
篤樹はまだ放心状態だ。エシャーは立ち上がり、篤樹に顔を近づけ自分の
エシャーの目が
「うわっ!」
「痛ッ!」「あっツ!」
床の上に倒れた篤樹に、まるで「
「ほ!? 大丈夫か!」
シャルロは
「
エシャーはペタンと床に座り、額に右の手を当てる。篤樹も左手で額、右手で後頭部を押さえながら床に座り直した。
「イッつぅ……。あ、ゴメン……」
「あ、ゴメンね。私こそ……小人の
「ホッホッホッ!」
2人が特に大怪我も無いのを確認すると、シャルロは安心したように笑った。
「もう! おじいちゃんのせいだからね!」
「いやいや、スマンかったスマンかった。で、2人とも大丈夫かの?」
「あ、はい。大丈夫です……」
篤樹は起き上がると椅子を立て座り直す。しかし倒れる前より、シャルロから椅子を少しだけ遠ざていた。
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