第11話 願い
その時、アクノリッジの頭に拳がさく裂した。あまりの痛さに、アクノリッジは頭を抱えてうずくまった。
拳の主は、フェクトだ。彼女は顔色を変えた状態で、魔王の前に跪き頭を下げた。
「魔王様!! 申し訳ございません!! 礼儀を弁えぬこの人間を、どうぞお許しください!!」
必死な声で謝罪をしながら、後頭部を抱えて蹲っているアクノリッジの頭も無理やり下げさせた。勢い余って、額から地面にダイブするアクノリッジ。
その様子を見て、ジェネラルは慌てて首を横に振った。
「だっ、大丈夫ですよ! えっと……あなたは……」
「フェクトだ。倒れてた俺を助けてくれ、この村で面倒を見てくれていた命の恩人だよ」
頭を地につけた状態で、アクノリッジがフェクトを紹介する。多少フゴフゴして、聞き取りにくい言葉ではあったが……。
命の恩人と言う言葉を聞き、ジェネラルの表情に一瞬の驚きと、優しい笑みを浮かんだ。そして頭を垂れたままのフェクトの前に跪くと、彼女に顔を上げるよう促した。
「顔を上げてください、フェクトさん。あなたが、アクノリッジさんを助けてくれたんですね。本当にありがとうございます」
「あっ……、いえ……」
自分の世話する人間が、超失礼な事を言ったのにも関わらず、優しい笑みと礼を言われ、フェクトの顔が真っ赤になった。驚きと恥ずかしさで、それ以上言葉が出ないようだ。アクノリッジの頭を抑えていた手にも、力が入っていない。
魔王の横から、白い手がフェクトの手を握った。手の出所は、アクノリッジがミディと呼んでいた美しすぎる女性だ。
女性である自分ですら、瞳を捉えて離さない美貌が、さらに全てを魅了する笑みを添えて彼女に向けられている。
「私からも礼を言います。アクノリッジを助けてくれて、本当にありがとう。彼、ああいう性格だから、あなたや村の人々に迷惑をかけなかったかしら?」
「あ……、いえ……。迷惑なんてそんな……」
彼女の笑顔に魅了されながら、フェクトは何とか答えを口にした。本当は、色々とやらかされていたりするのだが、今の彼女にはそこまで過去を思い返す余裕はない。
フェクトの答えをそのままとったミディは、
「そう。それなら良かったわ」
温かい笑みを浮かべながら、フェクトをゆっくりと立たせた。それに合わせて、フェクトの手から解放されたアクノリッジも、頭を抑えながら立ち上がった。
立ち上がったアクノリッジ、そして魔王とミディに視線を移動させると、少しためらいがちに3人の関係を尋ねた。
「あの……、魔王様。失礼ながら、こいつ……、いえ、アクノリッジとどういうご関係なのですか? それに、隣の女性は……」
「ああ、アクノリッジさんは、僕の友人です。僕がプロトコルに行った時、色々とお世話になったんですよ。で、こちらの女性が……」
「ミディローズ・エルザ、プロトコルにあるエルザ王国の王女よ。アクノリッジとの関係は……、幼馴染ね。あなたたちの魔王との関係は、攫われ……」
「彼女は事情があって、客人として魔界に招いたんです!!」
慌てた様子で、ジェネラルはミディの言葉を遮った。
自分がミディを攫ったことは事実ではあるのだが、言葉のままフェクトが受け取って誤解をされたくなかったためである。ミディが何か言いたそうにジェネラルを睨んでいるが、気が付かない振りをする。
魔王の説明を聞き、フェクトは言葉が出なかった。
道の真ん中で倒れていた変な奴が、この世界を統べる魔王の友人であり、滅茶苦茶美しいプロトコルの王女と幼馴染という、凄い繋がりを持っていたからだ。
そして、今までアクノリッジが本当にプロトコルから来た人間なのか、という魔族たちの疑問も解決した。魔王自らがそう言っているのだ。疑う余地はない。
ぎこちない様子で、フェクトは隣にいるアクノリッジに視線を向けた。その視線を受け、アクノリッジはめっちゃいい笑顔で答えた。その顔には、
”ほら、全部言った通りだろ?”
と書いてあった。
恐らく、魔王の事をめっちゃフレンドリーに呼び捨てして怒られた事、魔王がプロトコルに行った事実を疑った事を指しているのだろう。
そこがなんだかフェクトには悔しい。
ジェネラルは改めてアクノリッジに向き直った。
「どうしますか、アクノリッジさん。このまま城まで来られますか? もしプロトコルに帰るなら、『道』までお送りしますけど」
とは言いつつ、ジェネラルの顔には、『是非城に来て欲しい』という気持ちが現れている。アクノリッジは、その申し出を受けることにした。
「ああ、そうさせて貰おうかな? でもその前に、ちょっとやらねえといけねえ事があるから、少し待ってもらえるか、ジェネラル?」
「えっ……、はい、大丈夫ですけど」
少し戸惑いの表情を浮かべる魔王を後目に、アクノリッジは村の魔族たちに向かって、大声で問いかけた。
「皆、本当に世話になったな!! 色々と迷惑も掛けたと思うが……、迷惑ついでに一つお願いがあるんだ」
ここで言葉を区切った。魔族たちは何事かと、金髪の青年に注目する。
アクノリッジは一つ大きく呼吸をすると、そのお願い事を口にした。
「フェクトをプロトコルに連れていきたい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます