第8話 能力
アクノリッジは結局、日が傾き始めるころまで、修理に没頭していた。
仕事を終えた魔族たちが再び集まり、修理と改造をされた物を引き取りにやって来た。
「わー! 凄い!! ありがとう!!」
そう言いながら、修理されたものを持って満面の笑みでお礼を言う魔族たち。そんな彼らに、簡単な仕組みと不調が起こった時の修理方法などを伝える。
その辺のアフターケアーも忘れないのが、普段は適当な彼が、この仕事に対し真剣でいると感じられるところだ。
「おお、やっておるな、青年よ」
最後の魔族に修理物を返した時、彼の後ろから声がした。誰かと思い視線を向けると、フェクトの祖母が立っていた。
どうやら帰りが遅いアクノリッジを、迎えに来たらしい。
「おー、ばーちゃん。遅くなってすまんな」
「いやいや、別にわしは気にしておらんぞ。フェクトは、飯が冷めたと怒っておったが」
「あー……、そっか……。そりゃ悪い事したな」
「そんな気にせんでええぞ。あの子もお前が遊んでいたと思っているわけじゃないからな、本気で怒ってるわけじゃない」
祖母は小さく笑うと、必要以上に罪悪感を感じる必要はないことを告げる。その言葉に、少しほっとするアクノリッジ。
彼から修理物を受けとった中年女性の魔族が、チャンネの姿を見つけ声を掛けた。
「おー、チャンネさんじゃないか。もう腰の調子はいいのか?」
どうやらチャンネとこの女性は、親しい関係のようだ。
彼女の言葉に、老婆は腰に手を当て、元気なところを見せる。
「ああ、このとおりじゃ。あんたからもらった薬が良く効いてな。悪かったのう、あの薬は結構高価なものじゃったんだろ?」
「何言ってんの、困ってる時はお互いさまじゃないか! それにフェクトちゃんには、いつも凄い世話になってんだから。これくらいはさせておくれ」
豪快な笑いと共に、女性はチャンネの肩を叩いた。
アクノリッジは、女性の言葉に引っかかるものを感じた。その疑問を解消する為、迷わず質問を女性に投げかけた。
「ちょっといいか? フェクトにいつも世話になってるって……、どういうことだ?」
「ん? あー、あんたは知らないんだっけ?」
そう言って女性は、アクノリッジの質問に答えてくれた。
フェクトの仕事場である物資管理所は、この村、いやこの付近では一番重要な施設なのだという。しかし、日々膨大な荷物が流れるこの巨大な施設を管理するのは、複数人係でも並大抵の労力ではないらしい。
その苦労を全て引き受け、改善したのがフェクトだった。
フェクトが管理者となってから、建物内の配置が大幅に変わった。彼女が管理しやすくするだけではなく、村人たちが使いやすいように設備や決まり事を整えていったのだ。
「数人がかりで何日もかけてしてた仕事が、今じゃフェクトちゃんが、たった一人でやってくれるんだからね。この村や物資管理所を使う魔族たちは、皆あの子に感謝してるよ」
女性はありがたそうに目を細めて言った。それを傍で聞いていたチャンネも、
「そうじゃろそうじゃろ、あの子はわしに似て天才じゃからな」
と孫を自慢している。女性は、どこがあんたに似てるんだよ、と笑いながら突っ込んでいるが、フェクトが天才という部分は否定しなかった。
豪快に笑いあっている二人に割り込むように、アクノリッジは質問を重ねた。
「物資管理所の管理は、魔法が使える魔族でも難しいってことなのか?」
アクノリッジは、フェクトが執拗に主張し続けてきた事が本当なのか確認したかった。魔法が使えない自分には判断がつかなかったため、他の魔族の意見が欲しかったのだ。
この言葉に、女性が自分のことでは無いのに得意そうに答える。
「そうだよ。元々管理は、魔法が使える魔族が数人がかりでやってたんだ。確かにフェクトちゃんは魔法が使えないけれど……、あの子にはね、魔法では出来ない凄い能力がある。それは村の皆が認めてるところだよ」
「そう……、そうだよな」
女性の言葉に、アクノリッジは安心した表情を浮かべた。
村人たちは、フェクトが魔法を使えないことより、彼女の能力の高さを評価し、感謝している事が分かったからだ。
“あいつ……、勝手に自分ができそこないとか決めつけて、魔法が使える魔族の方が凄いとか言って……。自分で自分を苦しめて、ほんっっと、馬鹿だな……”
修理に使った道具をしまいながら、アクノリッジはぼんやりそんな事を考えていた。
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