第152話 涙4

 泣いていたミディが静かになるまで、ジェネラルは彼女の想いを聞き続けていた。

 ただ抱きしめ、彼女の髪を撫でながら、小さく頷き言葉をかけた。


 ミディの言葉と嗚咽が次第に小さくなっていく。気がつくと、王女は再び眠りに落ちていた。泣きつかれ、本人も知らないうちに眠ってしまったのだろう。


 ジェネラルは、そっとミディをベッドに横たえると、彼女の額に左手を当てた。

 魔力が集まり、ミディの中へ入っていくのが感じられる。彼女がゆっくり眠れるように、眠りの魔法をかけたのだ。


 深い眠りに入り、しばらくは目を覚まさないだろう。このまま、心も体も癒される事を祈る。


 ミディの寝顔を見ながら、ジェネラルは彼女の頬に残る涙をふき取った。そして思う。


“……僕は甘いのだろうか? この気持ちは、全てを捨てて、彼女を手に入れようとしたメディアに、負けているのだろうか? 想いが叶わなくとも、好きな人が幸せでいれば良いという想いは……、綺麗事なのだろうか?”


 メディアとの事を語るミディの話ですら、激しい嫉妬心に駆られたのだ。もし、ミディが他の誰かを伴侶として選ぶことになった時、果たして自分は心穏やかにいられるだろうか。


 自分が、死者の世界でメディアに告げた決心は、本当は彼の魂が言う通り、ただの綺麗事ではないか。


 不安が魔王の心を支配する。

 しかし魔法のおかげで少し穏やかな表情を浮かべて眠るミディを見ながら、己の考えを否定した。


“違う。その想いは強さだ。自分の想いが叶わなくとも、愛する人の幸せを願う。この気持ちが強さでなければ、何だというのか。もしメディアと同じような立場になっても……、決して僕は、身勝手で一方的な気持ちでミディを傷つけたりしない。決して”


 愛する人を傷つけ、悲しませてまで自分の傍におく事が、ジェネラルにはどうしても正しいとは思えなかった。

 

“僕も……、もっと強くならなければ。いつか、この気持ちをミディに伝えられるように”


 これから先、ミディが何を選んでも、それを祝福出来るように。

 

 ジェネラルは、眠るミディの手を優しくとった。

 彼女の寝顔を見ていると、今まで感じていた嫉妬心や対抗心などが、不思議と消えていく。

 かつて自分の手を包んだ彼女の温もりに、自然と魔王の顔が綻んだ。


 溢れた愛しさが、自然と唇から言葉を紡ぎ出す。


「ミディ、僕は君の事が……」


 その続きを口にする事はなかった。


 しかし言葉の代わりに、握った手をそっと両手で包み込んだ。

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