第128話 姿2

「いやいや、変身じゃないです。こっちが、本来の姿なんですよ」


「えっ? マジ?」


「そうなんですよ~、めちゃくちゃかっこいいでしょう~!? 普段からこのお姿でいて欲しいんですけどね~。まあ、あの小さいお姿でも、もう十分愛らしいですけどね!」


 シンクの反応に、ユニが見えないハートをちりばめながら、ジェネラルの姿を賞賛する。が、


「お前は……、黙っているという言葉を知らんのか!」


「はうう~痛いっ! 痛いいいい~~! エクス、痛いってええ~!」

 

と、再びエクスに頭をつかまれ悲鳴をあげた。


 ユニの暴走モードにはもう慣れたのか、エクスたちの茶番を尻目に、アクノリッジが尋ねる。


「そっちが本来の姿って……、じゃあ何であんなガキの姿をしてたんだよ?」


「いや……、あの姿って凄く楽なんですよ。着心地のいい楽な服を着てるって言ったら、感覚が分かりますかね? でも小さい姿だと、大きな魔法が使えないんです。今回は、大きな力を使わないといけなかったので、この姿に戻ったんですよ」


 プロトコルは、魔法世界の影響が少ない。その為、魔族たちがプロトコルに来ても、魔法の効果はかなり弱くなってしまう。魔族たちに本来の力を発揮させるため、ジェネラルの力でエルザ王国全体に魔力を満たし、一時的に魔界と同じような環境にしたのだ。


 だが本来魔力の少ない場所に魔力を満たすなど、並大抵の力ではない。小さな姿では許容範囲を超えてしまったため、本来の姿に戻ったというわけだ。


 過去、この世界に死者の魂を召喚した際、力尽きて倒れた事を思い出す。あの時、青年の姿であれば、倒れる事もなかっただろう。


 まあこんな事をアクノリッジたちに、かなり省略して伝えた。


 人間たちにも何となく伝わったようだ。元の姿に戻った理由が分かると、新たな疑問が生まれて来る。その疑問を、シンクが恐る恐る口にした。

 

「でさ……、お前本当は一体いくつなわけ?」


 姿を自由に変えられるのだ。本来の姿が青年だとは言え、それがイコール年齢とは限らない。


 ジェネラルは、右手の指を折って少し考えると、


「ええっと……、もう途中で数えるの辞めましたけど、多分120年ぐらいは生きてるかと」


と、まるでその生きた年数が一般的かのような軽い口調で答えた。回答と、それに対する口調のギャップが酷い。


 今まで散々、ジェネラルの行動を見て大笑いしていたアクノリッジが、気の毒そうに彼の肩に手を置いた。


「ジェネラル……。悪りぃが、お前、今までの言動みても、100年以上生きてるような落ち着きが見られないぜ……」


 そう言いながら金髪の青年の脳裏に、ミディに泣かされまくっていた情けない魔王の姿が浮かぶ。

 

 人間の100歳など、この世を悟り、何があっても動じない隠者のようなイメージだが、目の前の青年、いや過去に会った少年からは、全くと言っていいほどそれは感じられない。


 この言葉にジェネラルは、苦笑いをした。


「まあ、そうですよね。あまりに長い間、あの姿でいすぎましたから、すっかり精神も子ども寄りになってしまって。そのせいか魔族たちも僕の事を子ども扱いして、お菓子くれたりしますし」


「お菓子って…。完全に子ども扱いじゃねえか。仮にも魔界の王なんだろ、お前……」


 仮ではなく正真正銘の魔王なのだが。


 呆れた様子でシンクが言葉を返すが、この少年もかつてジェネラルの事を、超魔王感ない、と超失礼な事を言っていたのだが忘れているようだ。


 ついでに超寿命なのは魔王だけで、他の魔族たちは人間と大して変わらない。魔王の寿命が長く、青年期から歳をとらないのは、魔法世界との繋がりとアディズの瞳が関わっているのだが、長くなりそうなのでそれ以上の説明は割愛することにした。


 結婚式場とは違い、和やかに会話を交わすモジュール家の兄弟と魔王を見、メディアは悟った。


「お前達も……、この男とグルだったんだな」


「気づくの遅えから。途中、ジェネラルがあんな姿で来たときは、俺たちの反応でばれないか心配したけど、杞憂に過ぎなかったな」


「……お前の自動人形が、エルザの兵士達を襲ったのも、意図的か」


「もちろん」


 遅ればせながら魔王とモジュール家の繋がり、そして自動人形の小細工に気づいたメディアを、見下すようにアクノリッジが嗤う。


 本当であれば、もっと早くミディ達の救出に向かいたかった。しかし相手は慎重に物事を進めている。その為、メディアが一番気を抜くであろう結婚式当日を、救出作戦決行日としたのだ。


 そのまま護衛たちに両腕を抑えられているメディアに近づくと、その首元に掴みかかった。笑みを消し、敵意をむき出しにした鋭い視線でメディアを見据える。


「ライザー様とキャリア様は、どこにいる」


「……エルザ王は、地下に閉じ込めている。王妃は、この城の最上階の一番左端の部屋だ」


 何の抵抗もせず、メディアは問いに答えた。

 王妃については、別邸で休んでいるという噂があったが、どこかのタイミングで監禁場所を変えたのだろう。


 彼の言葉を聞き、シンクが弾かれたように駆け出した。


「俺、ライザー様たちを見てくるよ!」


「ああ頼んだ、シンク」


 頷き、兄は王と王妃を弟に託した。

 シンクはにこっと笑い、幻花の解毒薬の入った小さな黒いカバンを掴むと、部屋から出て行った。


「エクス、ユニ、二人もシンクさんと一緒にエルザ王たちの救出を」


 ジェネラルは、自分の後ろに控えている二人に、シンクと共にいくように指示を出した。


 エクスは頭を下げ、ユニはハイテンションに返事をすると、シンクの後について部屋を出て行った。


 部屋には、ジェネラルとアクノリッジ、そしてメディアと彼を拘束する護衛たちが残った。

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