第147話 消滅

「俺がミディローズに抱いていた思いは、もっと綺麗で……、美しいものだと思っていた。それを抱く自分に、誇りを持っていた。しかし、レージュによって踏みにじられ残ったのは、自分でも直視したくない程の……どす黒い欲望に塗れた感情だけだった」


 メディアは言葉を切った。そして、自虐的に口を歪める。


「その心の暗くドロドロしたものを抑えることは出来なかった。結局飲み込まれ、あいつらと手を組んだ。自分の欲望を叶える為に」


「……今まで積み上げ来たものを、全て捨ててでもか」


「そうだ」


 ジェネラルの問いに、メディアは即答する。答える彼に、全く迷いはない。

 馬鹿な事を聞いてしまったと、ジェネラルは思う。


“この男はあらゆる名声も権力も、興味がなかった。エルザ王国で高い地位にいたのも、ミディの為に力を尽くした結果に過ぎない”


 しかしレージュに堕ちた後は、全てが歪み、自らがエルザ王国に害を成す者と成り下がってしまった。


 ミディを手に入れる、ただそれだけの為に。


 自分を睨む魔王の視線を真っ向から受けながら、メディアの話が続く。


「後は、ここ数年かけて、エルザ城内の掌握に時間をかけた。決して悟られぬようにな。準備は整っていたが、ミディローズの力だけが脅威だった。しかし……、あれはお前に会うために城を抜け出した」


「だから、ミディ不在時に計画を実行に移したのか」


「絶好の機会だと思ったよ。王と王妃には少しずつ薬を盛り、娘の身を案じ体調を崩したように見せかけて動きを封じていった。俺に捕えられるまで、本人たちもそう思って疑わなかったようだが」


「ミディの事を心配する親の気持ちを利用して……、卑怯なやり方だな」


「利用できるものを利用したまでだ」


 ジェネラルの言葉を、くだらないと言った様子で一蹴するメディア。親の愛情が得られず生きてきたメディアには、親の愛もただの利用価値のある感情としか思っていないのだろう。


 その後は、ヌルの町でミディを薬で捕え、目覚める前にボロアの葉で思考と感情を封じ監禁した。


 モジュール家からの探りもかわし、全て計画通りのはずだった。

 ジェネラルがミディに会うため、エルザ城に訪れるまでは。


 魔王は思い出す。

 ミディの部屋で彼女の手を取り逃げようとした時の、殺気に満ちた声で発されたメディアの声を。容赦なく振り下ろされた刃を。

 

 少年の彼に対してすら、ミディに触れる事に強烈な怒りを感じていたのだ。メディアのミディに対する執着は、ジェネラルが想像した以上に強い。


 全てを捧げ、全てを捨て、命を失った今ですら、この男は後悔していないのだ。

 ミディを手に入れる為に、自分が犯した罪を。


“……エルザ王国を危機に晒してまでミディを手に入れようとしたんだ。並大抵の執着じゃない”


 強い想いに、魔王は黙ってメディアを睨むことしかできなかった。


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