第124話 魔族

「我は魔界を統べる者――、魔王ジェネラル」 


 黒髪の青年は、自らをそう名乗った。


 彼の言葉に、その場にいる全ての者達が、驚きの表情を浮かべ彼を見る。

 驚きに動けなくなっている人間達を見、可笑しそうに魔王は唇の端をあげた。


 そして一歩、メディアたちの前に踏み出す。


 慌てて護衛の兵士たちが、メディアたちを守るために、両者の間に割って入った。剣を突きつけ、魔王の行く道を塞ぐ。

 

「まっ、魔王だと……? 冗談もほどほどにしろ!」


 一人の兵士が、黒髪の青年に向かって怒鳴り声をあげた。ドラゴンから降りてきた奴にこんな言葉を言えるなど、中々度胸のある奴だが、むしろドラゴンから出てきた者が人の姿をしていたからこそ、言えたのかもしれない。

 

 魔王は、剣を突きつけられながらも余裕の表情を浮かべ、兵士を見た。

 強大な力を秘めた黒い瞳に見据えられ、兵士は固まり、それ以上言葉を発することが出来ない。


「信じられないのなら、それでも構わない。だが我が魔王である事実は……」


 すっと黒い瞳が細められる。


「変わらない」


 魔王の髪が、風もないのに舞い上がった。


 魔法を使えない人間たちにも、得体の知れない力が場を支配しようとしているのが感じられる。人間たちもそれを感じられるのは、それ程彼の魔力が大きい事を、暗に示している。


 親しみのない感覚に、鳥肌が立った。


「まずい、お前達逃げろ!」


 危険を察知したのか、シンクが兵士達に向かって叫んだ。

 魔王の口元に、意地の悪い笑みが浮かぶ。


「もう遅い」 


 彼が身に着けている黒いマントが大きくたなびいたかと思うと、地面が魔王を中心に、円状に輝きだした。まばゆい光に、誰もが思わず瞳を閉じる。


 光は兵士達を取り囲み、彼らの足にまとわりついたと思うと、すぐに消えた。


「何が、起こったんだ……?」


 来賓の中から声が起こった。

 魔法を受けた兵士達も、何が自分達の身に起こったのか分からない様子で、周りを見回している。


 光った事以外、何もなっていないことが分かると、


「……驚かせやがって」


「ただ光っただけか!」


 兵士達は急に元気になり、再び魔王に剣を突きつけた。大した事がないと判断したのだろう。


 彼を捕まえようと一歩踏み出した時。


 シュウウウウウッ……


 空気が抜ける音がしたと思うと、


「うっ、うわあああああああ!!」


 兵士達の悲鳴が響き渡った。

 兵士以外の人々も、彼らの身に起こっている事を目の前にし、悲鳴をあげている。


 透明な石が兵士達の足元から這い上がり、その身を包み込んでいったのだ。


 みるみるうちに光の範囲に入っていた兵士達が、透明な石像と化していく。が、閉じ込められた兵士達がパチパチと瞬きをし、口元が動いているのを見ると声は聞こえないが、中で生きているようだ。


「先程動き出した像の代わりに、この場を飾る装飾としては十分だろう?」


 兵士が中に入った透明な象に触れ、魔王は楽しそうに、この場にいるの者たちに同意を求めた。しかし視線を向けられ、人々は小さな叫びをあげて後ろに引く。


 魔王の力を見せ付けられ、人々の心が動揺と恐怖に支配された。


「なっ、何だ……! 何が起こっているんだ!!」


 恐怖の為に混乱した男が、近くにいる者に掴みかかった。掴みかかられた者は、ガクガク揺さぶられながらも、言葉なく恐怖を顔に張り付けている。


 その声に、魔王は不快そうに眉根を寄せ、呟いた。

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