第73話 行方
ジェネラルを乗せた馬車は一度、小さな家の前に止まった。
そこでジェネラルは濡れた服から、布の良い高級な服に着替えさせられた。
同時に髪も整えられ、始めに付けていた髪飾りよりも高級な飾りを施された。
そして再び馬車に乗せられ、しばし経ったのち。
「おう、降りろ」
目隠しを取られ、ジェネラルは痛む体を我慢しながら馬車から降りた。
周りには覆い茂る木々しかなく、人影も見られない。
しかし馬車が通ってきた道はきちんと舗装されており、人の手が加えられているのが分かる。
こんな人の気配を感じない場所なのに、いったいなぜこのような立派な道があるのだろう。
自然豊かな場所と人工的な道の不自然な組み合わせに、ジェネラルは眉根を寄せた。
後ろを向き、じっと道と周囲をみているジェネラルに、男が声をかける。
「こっちだ、ついてこい」
男に促され、ジェネラルが振り向き目の前に飛び込んできたものを見た時、なぜこのような立派な道が作られたのか理解できた。
そこには屋敷があったのだ。
屋敷の様子から、かなりの金持ちがここに住んでいるようだ。
ジェネラルが黙って建物を見ているのを、驚いていると勘違いしたらしい。男はにやりと笑うと、ジェネラルの肩に馴れ馴れしく手を置いた。
「ま、せいぜいチャンク様に気に入られるよう、そのふて腐れた顔を直しておくことだな」
「……チャンク?」
「かなりの金持ちだぜ? 俺たちの商売に、色々と協力してくれてる。その代わり、いい娘は1番に連れてくるように言われているが」
「おい、そんなことまで話すなよ。この間捕まえた女みたいに、逃げ出したらどうするんだよ」
「大丈夫だって。こんなガキだぜ? 何にも出来ねえよ。それに、逃げた女もすぐに見つかるさ」
彼らの会話に、ジェネラルの心臓が跳ね上がった。
恐る恐る、男たちに尋ねる。
「この間捕まえた女って、もしかして長い青髪の女性…? 青い瞳で、すらっとした…?」
初めて長い言葉を口にしたジェネラルに、男たちが意外そうにお互いの顔を見合わせた。
「多分…、そんな感じ………だったか? 髪は長かったよな?」
「結構な美人だと思ったが……、何でだ? はっきりと思い出せないぞ?」
捕まえた女の容姿が思い出せなく、お互い首をかしげる男たちを見、ジェネラルは心の中で確信した。
ミディはいつも、顔を外に出すときは、その美貌を隠す為に自分の姿が印象に残らないように魔法をかけている。
その為人々は、ミディに会ったことは覚えていても、詳しくその容姿などは記憶に残らないのだ。
“ミディは捕まった後、彼らから逃げたんだ…。ここにいないなら…、いったいどこへ……?”
しかし、川に流されて…という最悪の結果にはなっていないようなので、ほっとする。
しばらく考えていた男たちだが、別にたいした問題ではないと考えたのだろう。
「で、その女がどうしたんだ? 知り合いか?」
この問いに一言、姉だと答えると再び口を閉ざす。
そして、チャンクと呼ばれる者の屋敷を見上げ、ジェネラルはどこにいるか分からないミディの事を考えていた。
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