第33話 勝負

「…………………………」


 ジェネラルは、無言でドアと壁の間に挟まれた物体を見つめていた。


 それは白い粉にまみれた白墨消しだった。


 誰かが仕掛けない限り、こんな場所に白墨消しが出現する訳がない。

 

 とりあえずドアを開け、その挟まっている物体を地面に落とす。


 ぽすっ…


「…………………………」


 白い粉を巻き上げながら地面に落ちた白墨消し。


 落ちた物体を、無言で見つめるジェネラル。


 気づかず外に出ようとしたなら、少年の黒い髪は今ごろ白く粉まみれになっていただろう。まあ粉まみれになっても、この屋敷の手厚いお世話によって、すぐに綺麗に整えられるだろうが。


 よくよく見ると白墨消しには穴が開いており、そこに一枚の紙切れが突っ込まれてあった。とりあえず手に取り、中を見る。


『ミディ様との結婚を、諦めろ。さもなく#ば・・%&#』


 さもなくば以後、ミミズが踊り狂ったような、模様といった方がよい文字らしきものが羅列している。


“……アクノリッジさん……、半分、寝ぼけて書いたんだろうね”


 この罠も、眠くなるまで一生懸命考えたのだろう。そう思うと、ひっかかってあげた方がよかったかなと、同情まで覚えてしまう。


 ジェネラルは、丁寧に脅迫文らしきものを折りたたむと、元の場所へ戻した。ついでに汚れた床と白墨消しを魔法で綺麗に掃除し、テーブルの上に置いておく。

 

 こうしておけば、部屋を掃除しにきた侍女が、持って行ってくれるだろう。


「はあ~…。 昨日は、食事の時、ナイフとフォークの位置が逆になってて、ベッドの中に猫が5匹ぐらい放り込まれてて、寝巻きにやたら派手なリボンがつけられてて、脱衣所は石鹸まみれでよく滑るようにされてて…、今日は朝から白墨消しか……。元気な人だなあ…、アクノリッジさん」


 昨日の出来事を思い出しつつ、ジェネラルは今まで仕掛けられた罠を指折り数え、何とも言えず大きな溜息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る