第29話 戦闘

 光り輝く建物-モジュール家の城の前についた二人。


 城の門から見える庭には、見るからに高価そうな彫刻が、これまた丁寧に手入れされた芝生の上に並んでいる。


 その彫刻もたくさんの宝石が使われ、太陽の光を弾き様々な輝きを放っていた。


 ケースに入れられるわけでもなく無造作に並べられている様子は、まるで野外展覧会のようである。


 もちろん、庭に置いているのは彫刻だけではなく、芸術的にカットされた木々や花々たちが訪問者を華やかに迎え入れ、足元には丁寧に手入れされ艶を放つ真っ白い石を敷き詰めた道が通っている。


 これだけでも、モジュール家がどれだけの財力と権力を持っているのかが分かる。


 そんな宝石箱とも例えられそうな城の前に来た2人だが、目の前にそびえ立つ門を見てジェネラルは不自然さを感じた。


「あれ……ミディ? 何でここの城は、こんなにも警備が薄いの?」


 少年の指摘どおり、モジュール家の門には門番一人いない。


 門自体も『泥棒さん、ご案内っ☆』と言っているかのように大きく口を開いている。


 普通ならこのような高価な物が大量に置いてあるのだ。

 盗まれないように警備は厳重にするものである。


 が、見たところ、誰もいない。犬一匹もいない。


 静かなものだ。無用心にも程がある。


 ジェネラルの指摘に、ミディの瞳がすっと細くなる。


「すぐに分かるわ。何故、こんなにも無用心なのか。何故、誰も盗みに入らないのか……」


 何か高まってくるものを無理やり押さえつけているかのような、どこか楽しそうな声に、ジェネラルは胸騒ぎを覚えた。


「ミディ……?何で剣を抜いてるの? 一体何をしようと?」


 徐に剣を抜き、素振りを始めたミディに、不安一杯な表情でジェネラルが尋ねる。


 しかし、ミディはその問いには答えなかった。素振りを終えると、剣先をジェネラルの額に向ける。


「ジェネ。あなたはここにいなさい。私がいいと言うまで、絶対にこの門から先に入っては駄目よ。いい? そして何があっても、魔法は使わない事」


「魔法を使うなって……、いっ、一体どういう……、ちょ、ちょっとミディ!!」


 ジェネラルの言葉を聞かず、ミディは城の庭へ入っていった。


 王女のただならぬ様子に、少年の背中に冷たい汗が流れる。


“ミディ…?どうしたっていうの…?”


 魔法を使わない事、というのだから、ジェネラルが思わず魔法を使ってしまうような危険な場面があるという事だ。


 彼の心配を他所にミディは剣を構えた。久しぶりに感じるこの場所の空気に、ミディの心は躍っていた。


 その時、


 ガシャン……

 ガシャン……


「なっ、何!?」


 突如現れた謎の物体に、門の陰から覗いていたジェネラルは驚きの声を上げた。


 ミディの背の2倍はあるだろう巨体。


 手には、どんな大木でも切り倒す事が出来るであろう、斧。

 体には、どんな攻撃も防ぐ銀色の鎧。


 鎧に覆われていない部分には、金属やら螺子やら、人間の体にどう考えても備わっていない部品が飛び出ている。


 それは人間ではなかった。


「モジュール家の誇る、対人用自動人形よ」


「じっ、自動人形!?」


 門の陰から顔を出している少年の問いに、ミディが振り返らずに答えた。


 魔界で一度も聞いたことのない単語に、半分叫びに近い声で聞き返すジェネラル。


「まあ、簡単に言ってみれば勝手に動く人形ね」


「いや……、言葉の通りだけどさ……」


 淡々とミディが説明してくれたが、あまりに簡潔すぎて説明になっていない。


 恐らく、ミディも『勝手に動く人形』としか知らないのだろう、とジェネラルは勝手に結論付け、それ以上の説明は求めず、別の質問を続ける。


「あ、もしかして、警備が薄いのは、自動人形が庭を守っているから?」


「そう。入れるのは、モジュール家の関係者か、彼らが許した者だけよ」


「そうなんだね。で、ミディは関係者か許された者なの?」


「違うわよ」


「そっか、だから自動人形たちが出てきたんだね。なるほど」


 一つ疑問が解決し、つっかえていたものが取れたような爽快さを味わうジェネラル。


 だが、次の瞬間、物凄く重要な事を思い出し、絶叫した。


「てかミディ! 早くそこから出なよ!! めちゃくちゃ敵として標的にされてるじゃないか!!」


 ジェネラルの言うとおり、ミディの周りには4体の自動人形が取り囲んでいる。


 今にも攻撃されそうな雰囲気だ。


 だがミディは、その自動人形たちを値踏みするかのように、視線を上へ下へと移動させながら、小さく呟いている。


「ふ~ん……、前回とは違った防具をつけたのね。でも素材は変わっていないわ。歩く速度が上がってたから、足の強化は済んだわけね。とりあえず、前回よりも性能は上がっているようね……、でも」


 形の良い唇の端が、くっと持ち上げられる。


 自動人形たちを見上げ、ミディは高らかに叫んだ。


「まだまだ詰めが甘いわね。アクノリッジ!」


 次の瞬間、自動人形たちは侵入者に制裁を与えようと、斧を振りかざした。

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