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佐世保 悟

第1話2019月6月2日 旅立


「屋上まで来て何のよう?」


そう言うとアカシは電子シガレットを口に含み風にそよぐ煙をぼんやりと眺める。

青空にボンヤリと電子煙が雲のようにそよぐ。この一点は、あちらもこちらも変わらない。


「それは俺が先生だからな。」


先生は申し訳なさそうに微笑む。


「取り敢えず泉谷が教室に戻ってくれたなら、問題は解決するだけどな」


「やなこった」

アカシは、即答し、身体を先生と反対方向に向け寝転がる。


「全くコイツは…」


うんざりした表情でため息を漏らした刹那、突如校門から爆発音が轟。それを先生は横目で見た。

爆発は校門の方向。矮躯で緑色の怪物ゴブリンの死骸が3体。警備の異世界召喚者が8人、各々魔法を使い校庭を逃げ回る生き残りのゴブリンを掃討している。


「毎日毎日よくやる。無駄だってわかんないのかね」


電子シガレットの灰のグラフイックが地面に落ちた瞬間ピッシャリと消え去る。


「さて、アカシくん。ゴブリンは通常何体編成でここを襲いに来る?」


寝ているアカシの口から電子シガレットを取り上げ、自分の口に含む。


「さぁね。」


アカシの態度は冷たい。


「奴らを討伐するのはこっちに来た時、啓示を賜った奴ら。ボクらにはそれがなかった、カス。」


先生は、自分のズボンの中をまさぐる。それを見たアカシは、露骨に嫌だ、やめてくれとでも言いたげな表情を浮かべる。


「実はな、これからはこれでボクたちノーマルでもヤツを倒せるようになった」


中年おっさんの下ネタの押し付けにはうんざりだ。とボソッと言いつつ、アカシは再び胸ポケットから電子シガレットを取り出し、起動ボタンを押す。


「そりゃめでたいね」


声に抑揚はつけていない。


「興味無しか?せっかく購買部で買ってきてやったのに」


先生は皮肉が聞こえなかった降りをする。


「ねぇ、おっさん。購買部で買える程度の代物でボクを釣ろうとしたわけ?」


アカシは先生の方に寝っ転がり抗議の視線を向ける。


「アハハ、こっち向いたね。ようやく。ほれ、待望のスナイパーライフルだよ」


先生の手にはスナイパーライフルが握られていた。厳密にはコピーカラシニコフ、小銃のガスピストン上部にガムテープで半分に叩き割られた双眼鏡をぐるぐる巻きにされている。

アカシは鉄を加工できるようになったらしい事に驚いた。ただ、


「少し見せて」


フォアグリップ部分が今にも外れそうなほどガタガタ、ガスピストン部分にはガムテープでぐるぐる巻きになっているのにグラグラしている。

重さは3㎏に届くかと言ったところ。


「まぁ、そこで横になりながら先生が怪物を仕留める勇姿をみてなさい」


アカシから小銃を取り上げた先生はおどろおどろしく、小銃のボルトを引こうとする。が、力を込めても引けず、生徒の目の前で焦っていた。


「先生、セレクターを安全状態からファイアにしないと永遠に撃てないんじゃない?」


見かねて口を出すと、早口で大声が帰ってきた。


「そんなことたぁ、知っとるわい!このぼけぇ!」


急に態度が豹変した。情緒が不安定だ。この先生も現状に参っているらしい。

ガチャンと、弾が装填される音がした。屋上に設置されたフェンスに消炎器にマウントし発砲する。

複数の軽い発砲音。当然2発目以降は、衝撃により大幅な誤差が生じているようだ。やはり、ゴブリンには一発たりとも当たっていない。

先生に気づいたゴブリンが、一匹四階建ての校舎の屋上に向かって石を投擲。目にも止まらぬ速さで、先生の右肩を粉砕する。右腕が屋上に出られるドアにビタンと飛び散る。

先生は事態の把握が出来てないといった顔で吹き飛ばされた腕の張り付いたドアを見る


「は?」


「先生!?取り敢えず屈め!」


襟首を掴み地面に倒す。


「い、痛みが全くない」


先生の顔は青白く冷や汗が止まらない。


「当たり前だ。人の電子シガレットなんか、吸っちまう先生が悪い!」


少し間を置く。アカシはこのままだとヤバイと思った。出血と右腕を失ったショックに耐えれるのだろうか。


「先生、ごめん」


小銃の銃底で先生の顔面を打ち気絶させた。保健室に行く前に確認する屋上で小銃に無理矢理マウントされている双眼鏡を覗く。

警備の異世界召喚者は装備を剥ぎ取られ女は犯され、男は木を槍状に研がれた粗末な武器により胴体を貫かれている。

校舎の2階と3階で、各学年が各々手製の矢を放つが、ゴブリンはヌルリヌルリと交わしていく。

女の視線がアカシに助けを求めている。口の動き…こんな人生?そう言っているようだった。

だが、稚拙なその命乞いを察したゴブリンがその場にある手頃な石で再び容赦のない速度の投擲を開始する。


「ヤバイ!」


双眼鏡なんぞ覗いている場合ではないと気づき即座に身を屈め後ろに飛び退く。間一髪、着弾位置から半径1メートルの物が全て破壊された。先生が瓦礫と共に3階理科室に落ちてしまう。


「ヤバイ、ぞ、こいつ!」


ゴブリンを再び見ようとするが、頭上には既に石が3つ飛んできていた。







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