7の2話  できない、


◇◇◇



「ちょ、ちょっと待ってっ! そんなのあんまりだわっ!」


 私は手のひらを突き出して、あわてて待ったをかける。


「つまりそれって、私が一瑠いちるくんからもらえるプレゼントの数が、あらかじめ決まってるっていうことっ!?」

「数は決まっていないけどさ。……そのぶん使えるお金の額は決まってるわけで、今回使った分と同等の支出を、向こう五年分の支出予定表から、算出した結果だよ? 逆に、このくらいの値段で、自由にできるお金って、誕生日かクリスマスくらいしかなくない?」

「うっ」


 涼しい顔で説明する彼に、

 自分の浅はかさが急に恥ずかしくなり、私は赤面する。


「……そ、そうよねー。と、当然のことよねー」

「うん。というかそもそも、女子高生のキミは制服があるんだから、そんなに服だけに支出が偏るのは、財政的にはどうかとも思うけど」


 ピク、と身体が勝手に反応し、


「……それを言うなら一瑠いちるくんだってっ!」

「え?」


 私は彼のクローゼットへ手をかけ、


「大学生なんだから、服くらい私よりもたくさん……」

「あ、ちょっとそこはっ」


 ガラリと戸をひくと、そこには整然と並べられた彼のパン……っ!?


「……っ!」

「閉めて閉めてっ! ほら、服はその下だからッ」

「はわわ……、なんか……妙に奇抜で、か、カラフルなのが……」

「い、いいからッ! 忘れていいからッ!」


 強引に引き出しを押し、その下段を開く一瑠いちるくん。

 そこには想像していたとおり、たくさんの服が……、


「え?」

「ほら、見ての通りだよ、苺途いちず。……これが僕の」


 彼が自信満々に見せてきたのは、


 白シャツ、白シャツ白シャツ白シャツしろしゃつしろしゃつしろしゃつ、

 その隣に、

 黒パン、黒パン黒パン黒パン黒パンくろぱんくろぱんくろぱんくろぱん、


「なんでっ!?」

「いやー、我ながら完璧な収納術だね」

「そこじゃなくてっ! は、まさかこれって」


 半ば確信めいた思いで私は全ての引き出しを開け、


 先ほどと、寸分の狂いもない同じ内容物の引き出しに、


「……」


 思わず絶句した。


「スティーブ・ジョブズ、マイケル・ザッカーバーグ、……世の中のお金持ちは、服を選ぶことになんて頭は使わないのさ。……それを考えると、高校時代の制服って実に合理的だと思わない? 個人的には、大学にも制服を取り入れるだけで、日本の学力水準は飛躍的に上昇すると思うんだけど、どうかなッ?」


 目を輝かせて一瑠いちるくんが言う。


 ……どうしよう、割と本気な目をしてるわ。


 返答に困り、私は視線をそらす。

 それに何を思ったのか、


「……というか、大学入学してから今まで、ずっとこんな感じだったんだけど。……なんで気付かなかったのかな?」

「う、そ、それはっ」

「……まさかとは思うけど、苺途いちずさんってさ」


 彼はがっくりと肩を落とし、


「……僕のこと、興味なし?」


「ち、違うわよっ」

「じゃあ、興味あるの?」

「……あ、あるよ? そりゃあ」

「……でも少なくとも、服とかはぜんぜん見てないってことだよね。……自分の服には熱心なのに」

「うっ、……そ、そういうことじゃないわっ」

「じゃあ、どういうこと?」

「……」


 私は自分の今までを思い起こし、……思わず顔が赤くなる。


「……だって、一瑠いちるくんの顔が好きすぎて、……視界に入らなかったんだもんっ!!」


「……面食いかッ!」


 


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