い─苺

 苺はトマトが好きだった。だから、トマトが一人だけ赤いと言っては嘆いているのを見て、とても悲しくなった。苺だって同じ赤色だからである。

 ある日、トマトは店から出ていってしまった。普段、トマトがいる場所からは遠い苺は噂で聞いただけだったが、とても悲しい気持ちになり、ついに苺も台から落ちてしまった。転がりながら店を出た苺はトマトとほぼ同じ道を通って海に落ちた。少し沈んでいったところでトマトを見つけた。トマトはサメに食べられそうになっていた。苺は咄嗟に目を覆おう思ったが、苺の腕が短すぎたため、できなかった。だから、トマトがサメに食べられるところを見てしまった。苺は思わず

「トマトくん…、貴方が食べられるだなんて…。」

と言った。その声でサメは振り返った。

「おまえも食べてやる!!」

苺はこれでトマトと一緒になれると思い、抵抗もせずにサメに食べられた。と思ったが苺は自分がいる場所を見て驚いた。苺がいる場所はサメの口やお腹ではなかったのだ。しかし、それどころではなかった。苺から数メートル先でトマトがギロチンに向かって歩いているのである。苺は声にならない声で叫んだ。

「トマトくん、待って!!」

しかし、その声が聞こえるはずもなく、トマトの赤い汁が飛び散った。苺はその場に倒れ伏した。そして、そのまま死んでしまったのであった。


(関連している小説『トマト』)

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