た─卵

 むかしむかしあるところに一つの王国がありました。とても小さな国で、昔からいろいろな戦争や厄介事に巻き込まれていました。しかしなんだかんだ言って最後には何かしらの利益を得ているというような国でした。運が強いのか、たまたまなのか、はたまた神に特別愛されているのか……それは誰にもわかりません。

 ある年の冬、王様の元に一人の商人が訪れました。商人は数々の宝石や髪飾り、最近流行りの服などを王様にプレゼントしました。王様はたいそう喜び、しばらくこの国にいて良いという許可を出しました。

 季節が変わり草木が青々としてきた頃のことです。王様は部屋の窓から外を眺めていました。

「こんな5月の天気の良い日に外で過ごせたらどんなにいいだろうか?」

思わず独り言を溢しました。目の前にはまだ目を通さなければならない書類が沢山あります。側にいる宰相は何も言いません。

「ああ、あんなところに可愛らしい小鳥がいる。ああいうふうに自由に飛び回れるのはさぞ楽しいのだろうな。」

王様はこう言ってちらりと宰相を見ました。それでも宰相は何も言いません。

「小鳥は自由に飛べるのに私はここから出ることも許されないのか。」

これには流石の宰相も我慢できなくなりました。

「陛下、お言葉ですがこれは陛下の仕事でございます。陛下以外の誰にもできないのです。仕事をしなければこの国の民は他国からの攻撃に抵抗もできずに死んでいくのですよ?私は宰相としてそのようなことを許すなど断じて」

「わかった、よくわかった。これを全て終わらせてしまえば良いのだろう?」

そう言って王様はものすごいスピードで仕事をこなしていきました。

 次の日の昼頃、ようやく仕事が終わり、王様は城の庭園に出ていきました。するとどこかからかゴンゴン、ゴンゴンという音が聞こえてきました。その音がどこから聞こえてきているのかと気になった王様は音がする方へと歩いていきました。中央の噴水から3時の方向に進み、突き当たりを左に曲がるとバラ園が見えてきました。

「どうやらあのバラ園の中から聞こえるようだ。」

王様は迷いなくバラ園の中へ入っていきました。バラ園の一番奥まで行くとそこにはあの商人がいました。

「そなただったのか。」

商人は誰かと思って振り返り、王様だと気づいた瞬間に跪きました。

「陛下!」

「まあ良い。そんなに固くならないでくれ。ここには私とそなたしかいない。」

「はっ…」

商人が立ち上がりました。王様はその様子を見ながら問います。

「ところでさっきから鳴っていたあのゴンゴンという音はなんだったのだ?」

商人は側に置いてある大きな卵形の物体を指差して答えました。

「卵ですよ。卵を叩いているのです。」

「なぜ叩くんだ。」

「中に何が入っているのかと気になったのです。」

「そうか。それにしてもこの卵すごく青いな。」

それはとても綺麗な青色の物体でした。それも純粋に青いのではなく、ところどころ緑や白が交ざっているのです。

「そうですね。割るには惜しいくらいです。」

商人はまた叩き始めます。王様はしばらく卵を観察していました。

「あ、なんか赤い液体が出てきましたよ」

叩く手を休めて赤い液体が流れていくのを見ます。

「本当だ。赤と青……、見事なコントラストだな。」

「ええ、そうですね。もう少し叩いてみましょう。割れるかもしれません。」

しばらく叩いていると表面に亀裂ができてきました。

「中に何が入っているのか…見るのが楽しみだ。」

「陛下、少し叩いてみますか?」

大きな亀裂が入ったところで商人は王様に訊きました。

「いいのか?」

嬉しそうな顔をした王様は商人から鉄の棒を受けとりました。2回程強く叩くと卵はぱっくりと割れました。……いえ、割れたのだろうと思います。確かに王様は割れた感触を感じていました。しかし、割れたと同時に地面が揺れて立っていられなくなりました。そして、何か赤い物が目の前に迫ってきました。何だろうと考える間もなく体の感覚がなくなってしまいました。

 「これでメラトス星も終わりだな。」

ここは広い宇宙を進んでいく丸い物体の中です。奇妙な衣服に身を包んだ生き物が笑いながら喋っています。

「いや、それにしてもあの王様自分で星と国を壊しやがったよ。面白かったなぁ。これだからやめられない。」

そう言って高笑いした商人はどこかへ飛んでいきました。

 次はあなたの星に来るかもしれません。その時はどうかお気をつけて。

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