超常の集結地
第3話 プロローグ
世界は、困難果てに一つ上のステージへと駆け上がった。
それは人類にとっては、都合の良いものであり、これからも繁栄は続いていく上で必要な土台である。
脅威だった禍人はもはや敵ではなくなった。その代わりとなって世界を塗り替えた刀姫も、災厄の禍人も、特定の一個人が対等になるまでに成長している。更には科学の分野でも以前とは比べられないものにまでなっており、今でも急速な発展を遂げている。
これは紛れもなく人類の勝利と言って差し支えない結果であるが、しかしそれが良い結果を生み出せるかはまた別の話である。
滅亡の危機を前に一つになった人類は、またかつてのようにバラバラになった。それに伴うかのように、人々の間での諍いや争いは頻発。滅亡とまではいかないが、絶えなき人々の感情は以前にも増して機敏になっていった。彼らは自身を守るため以上に感情を優先させる。そこで一番初めに姿を表したのは「倫理」という大義名分を得た鎖。高度な生物であるが故に、付与されたスティグマとでも言えるものだ。
無論、それを下らないとは言わない。それは人が人として生きていく上で必要なものだ。
しかし、それが振りほどけない重しになってしまっているのもまた事実。この「倫理」というやつは厄介で、円熟した世界においては、成長や進化を規範意識により制御する装置と成り果てる。それは他人の足を引っ張っているのと同じであるが、しかしおそらくその認識はなく、例え認識していたとしてもそれでもやはり自身の意思を尊重する。分からない善意者を気取って、見て見ぬフリをするのだろう。
とある人々、特に弱きを是正しない者たちはこれを盾に生きている。とある人々、特に強い力を求める者たちはこれを煙たがった。またとある人々はそのどちらでもなく、ただ時代の流れのままに生き抜いた。
個々の意思は統一がされず、細分化すればキリのない意思の数々。その中で生きていかなければならない煩わしさは、自分にとっては言い難い苦痛でしかない。
ただ強さを求め、敵性体と戦い続けるだけで良かった以前の世界が羨ましいとさえ思えた。
それならば、話は単純。身体能力、力の強さこそが正義だ。
では今では違うのか、という自問に違うであろうと自答した。それは世界の様相の変化と同じくして変わっていくもの。そして、その形は一つだけに留まらない。
では、今現在における強さとは何か。
手を見つめ、最終的にいつも行きつく本論へと立ち返った。
精神の強さ、技巧の深さ、類稀なる身体能力等々。パッと思いつくそれらは無論、そのどれかが欠如すれば、強さとほど遠くなることは知れてはいる。しかしそれでも、釈然とはしない。
この感情の所以も、無論答えは出ない。
だから、かつての自身はそれについて様々な人に聞いてみた。
ある者はそれを個々の持つ力であると言い、ある者は個々の持つ技の練度を挙げ、またある者はそれを個々の持つ精神が由来すると説いた。
答えは自身と同様か、それ以下。しかしそれでは聞いた甲斐がない。そうではないと自身では思っているのだから、それを答えとするには納得が出来なかった。
しかし彼らの内、ある者はこう言った。
答えなどない、と。
そして付け加えてこうも言った。
しかし君にはそれを見つけ出すために必要な力がある、と。
最初から強かったわけではない。戦うのが怖くて、痛いのが辛くて、期待の眼差しが苦しかった。今では強くはなりきれてはいても、本質とは異なる。
自身が特別な存在であることは間違いないが、かと言って現在過去において強いとされる者たちからは一線を画していることは事実。自身とよく比べられたマコト・クレミヤなどからすれば、自分など下の下である。
だからこそ、今でもそれを逡巡している。今でも答えを探している。
しかしこの先に自身の望む答えを指摘する者は現れないであろうと予感していた。何故ならばそれは人により多種多様であり、自分で見つけていかなければならないものだから。
いくら理想を語ろうとて、自分には自分にしかなれない。そして、目指しても届かないことはある。
故に答えがないのが答え。
肩肘張った身を脱力し、天を仰いで星空を眺めた。
ちっぽけな一人の人間である自分には、きっとそこに辿り着けはしない。星を掴むことが叶わないように、自分もまた等しくそれを掴むことは叶わない。
そう結論を出し、無力な自分を見つめるかのように、じっと空を見つめた。
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