第1話『異形たちの庭』-その5

 ・イヴィリアの過去 その3


 いつの間にか、寝ていたそこは自宅の居間。

 そこでなぜか思い出したのは、父にはよく、「寝るときはお布団で寝なさい」と注意されたこと。それは何故かと聞けば、父は睡眠の質とそれによる影響を事細かに説明してくれた。あまり実感の湧かない話であったため、話半分で聞いていたが、今ならそれがよく分かる。

 気力は削がれ、何もやる気が出ない。食べることも、飲むことも今やどうでも良かった。このまま死ぬのだろうかと頭によぎり、それでも良いかと思った。

 父のいない世界など考えられない。父が居ないのであれば、私も居なくなってもいい。

 目から溢れ出した涙を拭い、ふと飾られた写真が目に映り、それを眺めた。写真を見るたびに思う。なぜ私はこんなにも幸せそうに笑っているのか。なぜ、大好きな父と母に囲まれているのか。

 かつての自分が憎くて、妬ましかった。その内、見ているのが辛くて、写真の自分の顔部分だけを切り抜いて捨てた。

 しかし、それでスッキリした気持ちなどは微塵もなかった。むしろより大きな憎悪が自身を襲った。

 辛くて、不安で、苦しくて、そして何よりも憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。

 沸き立つ感情。それに呼応するかのように全身を巡る血流が蠢き、それを動かす心臓の音が次第に高鳴る。

 早く楽になりたい一心であった。その感覚があまりにも不快で、台所へと赴き、包丁で自らの腹を刺した。溢れでる血液。しかしより一層、強く、激しく、疼く。乾く。

「助けて……誰か……誰か、助けて」

 泣きながら乞う。しかし手の力は緩めることが出来ずに、より深く突き刺した。

 目の前に広がる自身の血だまり。強まっていく鼓動を感じながら、やがて絶望の最中でその意識は消えていった。



 ・イヴィリア家にて


 三日目、その日の早朝。ホコリまみれのカインの部屋で一夜を明かしたツルギは体内時計により、起床。床で寝ること自体は慣れており、身体の痛みは無かったが、やはり完全に好調とはならず、少し寝足りない気分。

 暗闇の中、広げっぱなしの資料を片付けて、ブローディアを呼ぶと、寝起きの声が返ってきた。

「何……?もう朝……?」

「ああ、もう行くぞ」

 影から半身を出して大きく伸びをするブローディアは寝ぼけ眼を擦りながら、ツルギを見た。

「あんた、寝てないの?」

「いや、寝たよ」

「それにしては疲れてるように見えるけど」

「問題ない」

 ツルギが言うと、ブローディアはその様子に呆れたようにため息。しかし何を言うわけでもなく、そのまま影の中へと潜った。

「んで、どうするの」

「最初の行き先はもう決まっている。練ったルート通りに行けば二十分ほどで最初の施設にたどり着く」

「禍石の研究施設ね」

「ああ。しらみ潰しだ」

 ツルギが鍵のかかった扉の前へと進み、潜影により、部屋の外へ。外界の光が差す廊下へと出た。

 カインの部屋は秘匿性を高めるためか、窓がない。電灯が無ければ基本的には明かりがない部屋には陰鬱とした空気が立ち込めていた。そのせいあってか、部屋を出たツルギは久々の外出かのような感覚。残っていた眠気は無くなり、気分が高揚していくのを感じた。

「良くないな、あの部屋は」

「そうね、何だか部屋を出たら気分がすっとするわ」

 身体の関節を動かしながら、辺りを見回す。当然ではあるが、周囲に変わった様子はなかった。視覚的な変化はないが、その代わりにツルギの嗅覚は食べ物の匂いを察知した。

「……」

 ツルギはその匂いに釣られて居間へと入るとそこでは、イヴィリアがエプロンを付けて食事の準備をしていた。

「イヴィリア……?」

 声をかけるとイヴィリアは大きく肩を震わせてから、ツルギの方へと振り返った。

「お、おはようございます……」

 何故かおすおずと挨拶をするイヴィリア。ツルギが近寄ると、怯えているのか身を小さくした。

「起きて大丈夫なのか」

 その言葉に気まずそうに小さく頷くイヴィリア。足取りはまだ危ういが、その顔は以前よりも血色が良くなっており、回復の兆しが見えていた。

 しかし、何故に朝食を?と頭にハテナを浮かべたツルギに、小さく控えめな声で言った。

「す、すみません。起きたら、その……お腹が空いちゃって……」

 恥ずかしそうに顔を赤くしながら言ったイヴィリア。それを察すると、思わずツルギは笑ってしまった。

 ツルギの胸にあるのは心からの安堵。それは彼女を病的にさせていた不安を拭えた証拠であった。

 笑われたイヴィリアの顔はますます紅潮。しかしそれもまた、彼女自身が回復した証といえよう。

 ツルギが膝を落として真っ直ぐ見やると、イヴィリアは目を瞬かせ、顔を伏せた。

「寝たら、少し良くなったか」

「は、はい……とっても」

 ツルギが頭をそっと撫でてやると、イヴィリアは驚いて目を瞑った。

「……本当に良かった」

 ツルギからすれば、睡眠によってここまで良くなろうとは思っていなかった。彼女の生きる意志がそうさせたのだろうか。その真偽は分からないが、とにかく、彼女はこうして立って歩いている。そのことに感動すら覚えた。

「は、はい……あ、ありがとうございます」

 息をついて言ったツルギにイヴィリアは目を潤ませつつ応える。

 とりあえず、心配事の一つが無くなったことに一安心。ほっとしたところで、ツルギは立ち上がり、イヴィリアに言う。

「ご飯を食べたらゆっくり休んだ方がいい。外にもあまり出ないように。戸締りもしっかりするんだぞ」

 言い残してそのまま家を出ようとすると、イヴィリアはあっと声を出した。

「……?どうかしたか」

 振り返るともじもじとしながら、相変わらず控えめな声で言った。

「あ、朝ご飯……食べませんか?」


 あまりゆっくりもしていられない。推察が正しければ、禍石の施設を巡るだけでも一日が終わる計算である。そこで稼働確認から調査をも考えると時間は更にかかる。

 ──とはいえ、フライタッグに来てから食事を殆ど摂っていなかったこともあり、ツルギはイヴィリアの好意に甘えることにした。

 イヴィリアが作っていたのは保存用のソーセージを焼いたものと綺麗に焼き上がったトースト。簡素な食事だが、今のツルギにとってはまたとないご馳走である。

「いただきます」

「大したものはありませんが……どうぞ」

 イヴィリアが控えめに言うのを合図に、ツルギは並んだ食事にありつく。

 まともなものを食べていなかったこともあり、特別でない食事も一層美味しく感じられた。

 空腹がスパイスとは良く言ったものである。

 食事の最中であったが、ツルギは一方で、呼んでも無反応を突き通すブローディアが気がかりでもあった。人見知りであるとはいえ、相手は年端もいかない少女。そこまで気にする必要もないはずだが、依然としてブローディアは沈黙。

 何が気に食わなかったのか、機嫌は良くないだろうとツルギは感じとった。

「ツルギさんは……」

「ん?」

 不意に声を掛けられて、イヴィリアを見ると朗らかな表情でこちらを見ていた。

「調律師様、何ですよね」

「ああ、そうだよ」

 イヴィリアの言う「調律師様」という言葉に少しだけ戸惑いを感じつつも、それを肯定した。

 刀姫と心を通わせ、その力を得る者調律師。

 かつて人類は刀姫計画から一転し、多くの刀姫たちが敵対することとなり、窮地に陥った。世界には絶望が蔓延り、再び荒廃を辿り始めた。調律師はその中において唯一の希望を手にし、人類の再興を支えた精神的な支柱である。こうした背景から察するならば、刀姫と通わせ力を合わせる調律師という存在は尊敬され、「様付け」で言われるだけのことはある。それは歴史がそうさせているのだから否定をすることはできない。

 しかしながら、こと自身に至っては敬われるだけの存在価値があるとは思えない。それはブローディアの小物感がそうさせるのか、自身の弱々しさがそうさせるのかは不明。もしかしたら、どちらともを含めてそう感じさせるのかもしれない。

「なら、やっぱりこうした依頼も良くあるんですよね」

「そうだな、良く来るよ」

 豊かな表情の彼女を見て、半ば釣られるようにしてそう答えたものの、今回は割と特別ではある。今までの依頼はセリスの事前情報を元に災厄の禍人を見つけ出し討伐するもの。調査をも兼ねた依頼は決して多くはない。加えて、今回は刀姫と災厄の禍人の両方を相手取っており、これは今回が初。実は困難を極める依頼である。

 そう思うと、こうして落ち着いて食事を摂っているのもおかしなものと感じた。和やかに食事を摂るなど、以前までのことを思うと考えにくい状況なのだ。

「大変ですよね……?こういう仕事は」

「まあ、それなりに。けど俺みたいなのはそれしか能がないからさ」

 トーストを齧りながらこともなしに言うと、イヴィリアは楽しそうに笑う。

「でも……色々な景色が見れていいですよね」

「そうだな、そこは──」

「気楽でいいわね、あんたは」

 同意しようとしたツルギを遮ったのはブローディアだった。先程まで、頑として出てこなかったのが嘘かのようにブローディアはスッと影から出てきて、イヴィリアを睨め付けた。

「命懸けなのよ、こっちは」

 強気に言ったブローディアにイヴィリアはしどろもどろ。その顔は徐々に青くなっていく。

 和やかだった雰囲気は一変、険悪さが広がった。

「す、すみません。私、軽口を言ってしまって」

「そもそもね。ツルギに対して馴れ馴れしく──」

 なおも言おうとしたブローディアの額をツルギは手で小突くと、「コンッ」と聞こえん良い音がブローディアを静止させた。

「すまない。こいつはこういう奴なんだ。気にしなくていい」

「……!ちょっと、何するのよ!」

 豆鉄砲を食らった鳩のように目を丸くさせたブローディアは少しの間を置いてから、額を抑えてツルギに抗議。

 怒るブローディアを横目で見る。

「変な絡み方するな。イヴィリアが困ってるだろ」

「……!もういい!ツルギのバカ!」

 ツルギの言葉にブローディアは思い切り口をへの字にして、影へと戻っていった。相変わらず、手の焼くブローディアを放っておき、一部始終を見ていたイヴィリアへと視線を移す。

「ごめんなさい、私……」

「いいよ、本当にいつものことなんだ。けど、あいつも強く当たるが本当は君のことを心配してたんだよ」

 ため息をついたツルギは変な空気になってしまったのを取り繕うため、フォローをすることにした。

 あまり言うとこの後が怖いのだが、まあそれはその時に考えれば良い。なむなし、というやつだ。

「君が眠っている間も気にかけてたしな。あの子は大丈夫かなってさ」

「え……?」

 イヴィリアはそれを聴くと眉を寄せながらも驚いた。

 先ほどのことを考えたら想像はつきにくいだろう。しかし、それは紛うことなき事実。何だかんだで弱い者、弱っている者を放っておかない質なのだ。多分それは彼女自身もイヴィリアに過去の自分と重ねてのことなのだろう。

 さらに、ツルギは「ついでに言うと……」と続ける。

「実はと言うと、俺はここに来るのも本当は気が進まなかった。でも、どうしてもブローディアが行こうって言うもんでな。まあ、お陰で今はこうして居られるわけだ」

 少しばかり着色した言い方だが、これも事実である。彼女のアドバイスがあったからこそ、今こうしているのだから、間違いはない。

 すると、その言葉にイヴィリアの瞳が潤んだ。

「あんたいい加減にしなさいよ!」

 そしてブローディアは耐えきれず、影から再登場。ツルギの肩を掴んで揺らした。

 慌てふためくブローディアをツルギはいやらしくにやけた。

「ん?なにか間違ったことを言ったか?」

「間違いだらけよ!私がいつ、この女を心配したのよ!」

 ブローディアは勢い余ってツルギの肩を叩いた。

 ここで補足をすると、刀姫の身体能力は並ではない。冗談であろうと大人に怪我を負わせる危険性がある。そして同様に、ブローディアの筋力はツルギのそれを遥かに凌駕しており、いくら加減をしていてもそれは人の程度を超えるものである。

 つまり、ブローディアの勢い余ったそれは肩が外れるかと思うほどの衝撃だった。

 ツルギはその衝撃と痛みに奇怪な呻き声を挙げた。

「バカ、お前力強すぎだろ」

 シャレにならない力加減に半ば反射的にそう言うと、ブローディアが摑みかかる。

「バカって言ったわね、私こと!バカって言った方がバカなのよ!」

「先に言ったのはお前だろ!」

 もう滅茶苦茶である。取っ組み合いになった両者は今の状況を完全に忘れていた。

 次第にもつれ合いは頬の引っ張り合いに発展。そこで穏やかな笑い声にツルギははっと我に帰った。

「イ、イヴィリア……」

「……あんた、何笑ってんのよ」

 同じく我に帰ったブローディアは頬を引っ張られたまま凄んだ。しかし客観的見ると、それは明らかなマヌケ面。いくらなんでも無理があるそれに、イヴィリアは堪えきれずに声を出して笑いだしてしまった。

「ごめんなさい……どうしても可笑しくって……」

 それを見たブローディアは顔を赤く染め、脱力。先ほどまでの失態から逃避するように影へと戻っていった。



 ・禍石研究所へ


「あんた、後で覚えてなさいよ」

 そう言ったのは影の中のブローディア。

「……まあ結果的に良かっただろ。宿も確保できたわけだしな」

 対してツルギは周囲を伺いつつ、言う。

 現在はイヴィリア家を後にしたツルギは目的の禍石の研究所へと足を運んでいた。

 家から出た際には休む時は是非また頼ってほしいとイヴィリアから要望された。もちろんツルギはそれを承諾。願ってもない申し出である。

「私は反対よ、あんなちんけな家は」

「なら、センタナルで寝るか?」

「……」

 沈黙したブローディア。それを否定と捉えたツルギはなおも言った。

「今の俺たちに選択肢はない。いいな、ブローディア」

「……」

 なお黙り続けるブローディアだったが、もはや何も言うまい。

 ワガママを堪え切れないブローディアはさておき、歩を順調に街の奥へと進ませ、予定よりも早くに目的の場所へと到着。その目の先にあったのは戸建ての小さな事務所。脇にあった看板にはハードバリアの文字。

 まず訪れたのはハードバリア社の研究施設。ハードバリア社はソフトウェアなどを手掛ける世界的に有名なIT企業である。これはとあるルーラーが統括していた会社であり、その業務の延長として刀姫開発に着手していたのだろう。

 ITの知識を持たない身からすると、ITと刀姫の関連性が不明であるが、かつてハードバリア社が手掛けた刀姫がいる事や今現在、プロトタイプの製造の最前線にいる事を思えば、研究機関としての能力を持っていたことは間違いない。

「ねえ、ツルギ」

「ああ」

 不意にブローディアが呼ぶのに対し、ツルギは察して頷いた。

「人が少なすぎる、だろ」

「うん……」

 ツルギ自身も気がかりとなったのはここまで来るのに一度として通行人を見かけなかったこと。一日目と二日目ではちらほらとあった人影は、今日になって見ると完全に消失。訪れた時から元々活気など微塵も無かったが、それでもこの静けさは異常とさえ思える。

 まるでゴーストタウンを彷徨っているかのように人がおらず、その生活音すら聞こえてこなかったことに奇妙さすら感じていた。人口密度が低いとはいえ、程度はゆうに超えている。

 たまたま見かけなかったのか、はたまた異常が起こっているのか。

 ツルギはそこで一日目の夜のこと、女性に薬品を注入させた時のことを思い返す。彼女は何のために捕らえられたのか。そして何故、殺されたのか。「別の班」が来なかった所以。さまざまな不確定要素があったが、結果として残ったのは、彼女は死んで禍を放出しただけである。

 その時は判断材料の乏しさから「考えても仕方ない」と片付けたが、それ自体は妙な出来事である。そしてそれは、この街の各所で行なわれている可能性は十分にあり得る。

 では人々を殺し、禍を放出させたその先にあるものとは一体何なのか。

 考察するツルギの脳裏にある可能性が浮かび上がった。

「ツルギ……?」

 黙るツルギをブローディアが呼びかける。それに対し、一度思考を取り止めて応えた。

「……いや、何でもない。とにかく行こう」

 ツルギは無人の社屋へと進む。


 禍石研究所は禍石を抽出し、その禍石に内包する物質を調べ挙げる機関である。禍石の開発は刀姫を製造する過程で、かなり初期の段階にある。

 刀姫の土台は生身の肉体、禍石はそれのエンジンとなることから、刀姫開発場では特に重要な立ち位置としてその施設は重用された。そして特に優秀な学者や研究者を集められたそこは、まさに刀姫の叡智を集約した場でもあった。

 無人の社屋の地下一階へと降りたツルギは耳をそばだてながら辺りを見回す。

 外観からは想像が出来ないほどに広大な地下施設。その中は外からの光が届かない暗闇。暗夜の中でも目が効くツルギであってもその奥を見通すことができないほどに広々とした空間がそこにはあった。

 そしてその施設の建物自体はまだ再活用できそうなほどに堅牢。綻びを微塵も感じさせない壁は綺麗そのもので、打ち捨てるにはもったいなさがある。

 しかしその中身はもぬけの殻。機材らしいものは殆どなく、あるのは埃を被った机のみ。そこに人影はなく、静まり返った廃屋と化していた。

 地上の社屋が無人であった時点でなんとなく、察しは付いていたが、おそらくはここは「はずれ」であろう。とはいえまだ十数ある内の一つでしかない。

 確認のため、更に下へ進もうと階段へと差し掛かると、ブローディアに足を掴まれた。

「……ディア?」

「ツルギ、その先は危険」

「危険、とはどういう意味だ」

 言葉の意味を捉えられず、ツルギはそれを聴きかえす。

「とても強い、禍の気配がする」

 静かに言ったその一言に緊張が走る。

「……禍人か?」

「……分からない。何で今の今まで気付かなかったの……?と、とにかく、ここより下はおかしいの」

 冷静になろうとしているが、実のところは混乱しているのだろう。ブローディアの様子にツルギはそう感じた。今まで幾度となく、修羅場を潜り抜けてきた彼女にしては、珍しい反応である。

 ツルギは強張った身体の力を抜くように、深く深呼吸。目をゆっくりと閉じ、手足の指先へと神経を巡らせ、身体の違和感の有無を確かめる。

 身体の状態はほぼ万全。戦いの準備も上等。

 目をゆっくりと開いたツルギはブローディアに意思を伝えるが如く、掴まれた足を上げた。

「行こう、ブローディア」

「……無理はしないで」

 不安そうなブローディアに小さく頷き、足音を立てないよう階段を降りる。

 階段を降りた先、地下二階。そこは地下一階と同じ広大な部屋。先ほどとも変わりばえのない部屋だが、その部屋の奥に微かに光るものがあった。光の発生源へ警戒しつつゆっくりと近づくと、徐々にその全貌を掴むことができた。

「パソコン……?」

 ツルギは小さく呟く。

 光の正体は、ノートパソコンのモニターから発せられるものであった。元々は研究施設であっただけに、それがあること自体は不思議ではない。しかし、それは現状において、あまりに似つかわしくない物であった。なぜパソコンがあり、更には電源が付いた状態でいるのか。

 ツルギは遠巻きからパソコンのモニターに映し出されたものを見た。その画面上にあるのは黒一色。暗転しているものかと思われたが、しかしその黒色は少しずつ流動しており、それとは別物であることが分かる。

 では、この流動している黒いものは何か。

「煙……かしら?」

 いつの間にやら出てきていたブローディアは、その映し出されていたものを見て言う。

「煙……?」

 確かに言われてみればそのようにも見える。しかし、違う。ツルギの直感ではそれとは別の物を感じさせていた。

 モニターの隅。一瞬、その隙間からあるものがその姿を覗かせた。

 それは赤黒く胎動する肉塊であった。

「……!ツルギ!」

 ブローディアの咄嗟に叫びに応じて、ツルギは弾かれるようにして臨戦態勢を取った。

 同じくして部屋の暗闇を晴らすかのように照明が点灯。眩しさに目を細めながら、ツルギたちが降りてきた階段の踊り場から一つの影が現れるのを見た。

「ようやく会えましたね」

 現れたそのモノはニコリと不敵に笑みを浮かべて、対峙。長いブロンズヘアーに長身。ふくよかな胸を見せつけるかのように服をはだけさせ、対照的に穏やかな表情を浮かべた女性。

 それはセリスの資料に載っていた写真と同じ姿のモノ。なので、即座に何者かが分かった。

 彼女こそが敵性者たる一人。『籠絡』の二つ名を持つモノ、刀姫サキュリスであった。



 ・禍石研究所の戦い


 刀姫を敵として迎えるのはこれで三回目である。かつて、初めて対峙した時はそのモノが身に纏う空気に気圧され、上手く立ち回ることが出来なかった。二回目は相手が悪かったこともあり、やはり苦しい戦いを強いられた。

 しかしその戦いにはどちらとも勝利を収めており、その経験は自らの力に自信を持つキッカケにもなった。

 そして三回目。サキュリスと対峙し、今まで積み上げてきたツルギの自信はあっという間に消え去った。災厄の禍人には「狂気による恐怖」を感じさせられるが、彼女たち刀姫には「純粋なる力の恐怖」を感じさせられる。それ程までに刀姫の存在の大きい。

 ツルギはそれを今、改めて実感。しかし、そのお陰で程よく緊張感を維持できるのも事実。何も悪いことばかりではない。

「刀姫サキュリスか」

「はい、私が刀姫サキュリスです。こんにちわ、ツルギさん」

 柔和な笑顔を作り、小さくお辞儀をしてみせたサキュリス。この態度と正直な返答は彼女の余裕から来るものと、ツルギは判断した。

 そして、同時に彼女の口ぶりに一つの違和感を感じた。

「……俺の名前を知っているのか」

 それは、自身の名を知っていたこと。彼女に名を知られているということはつまりは、すでに自分たちの潜入を知っていることと繋がる。

 ツルギは左目を閉じつつ、腰の短刀へと手を伸ばす。会話はしつつも、刀姫を目の前に決して警戒は怠ってはならない。彼女たちの強靭な身体能力の前では、この程度の距離は数秒で詰めていける。

「勿論です。幻影の刀姫を従わせる高名な調律師様ですから」

 はぐらかすような物言いに、ツルギは神妙な面持ちを作る。それに対して上品に笑ってみせるサキュリス。その背後から滲み出る殺気は上品さの欠片もない、獣のそれそのもの。全身に張り付くような空気に、ツルギの手に思わず力が篭る。

「それはマコトからの情報か」

 単刀直入に聞くと、サキュリスはおどけて見せながら笑う。

「あらあら、そんなことまで知っているのです?流石は調律師様。……ということは、もう私たちの計画ももうお分りいただけてるようですね」

「……手を引け、と言っても無駄そうだな」

 応えず、ただ言ったツルギ。サキュリスは目を細めながら口角を上げる。

「ええ。無駄です」

 後悔など微塵もないのだろう。ただ憎悪のままに、人を苦しめ、殺めたのだろう。

 ツルギはその顔を見て確信した。

 人を憎む刀姫たちの言い分もその心情も理解できる。行き場のない怒りを吐き出さなければ、彼女たちは途方もなく、そのまま潰れてしまう。しかし、その所業はあまりにも目に余る。

 憎しみのまま、怒りのままに力を振り上げても、そこに救いなどない。それでは災厄の禍人と何も変わらない。それは本能でしかない禍人、バケモノと同じだ。

 ツルギは息を吐いて、短刀を抜く。この場、この時に限り、一切の情は切り捨てる。無駄な思考を止め、無になりきる。そして内心に湧き出る暗き力──幻影がツルギの身体へと沈み込む。

 ブローディアの心臓の鼓動を感じながら、己の全身に伸びていく契約の痕を確かめる。二身一体。刀姫と心を通わす調律師の能力の一つ。それは調律師と刀姫の肉体と精神を一つとして、重ね合せる妙技。つまりはツルギはブローディアとなり、ブローディアはツルギとなる。

 故に強靭。そして、好戦的。先ほどまで感じていた刀姫の圧は消え失せ、闘争本能が加速。その放出を抑えるように奥歯を噛み締めた。

 ツルギは左目を閉じたまま、血走った右目でサキュリスを見る。唐突に帯びた強い殺意に晒され、その顔には驚愕が映る。

「ならば死ね、刀姫サキュリス」

「……死にませんよ。人類を殺しきるまでは、ね」

 その言葉を最後に両者は臨戦。異形たちの庭でその第一戦が幕を開けた。


 セリスの情報によれば、刀姫サキュリスの能力は二つ。相手の頭に掌を接触させることで、人の思考を強制的に書き換える「洗脳」。そしてもう一つは物理的にその動きを封じる「糸」の操作。

 彼女のその能力は強力にして無比。特に前者の洗脳能力はそれだけで戦闘不能へ陥れる、確立されたものである。この能力により、接近戦では分があるのはサキュリス側だろう。

 しかし、中距離での戦闘も危険である。彼女の糸が届く範囲、半径十メートルは完全に彼女の領域。糸に絡みつかれた時点で四肢の自由を奪われる。そうなれば、後の祭り。あの手この手で殺されるのは目に見えている。ただし、糸の能力に関して言えば対抗策がまったくないわけではない。というのもツルギがそれに捕まっても、影のブローディアが絡みつく糸を排除することは可能なのである。

 とはいえ、刀姫戦で一瞬の隙を見せるのは悪手である。それを囮にすることもできるが、そもそも距離を詰められるのが危険であるため、これを行うにはリスクが付きまとう。

 そうなると、サキュリス戦での安全策は長距離からの迎撃が一番となる。ツルギの手持ちには拳銃が一丁に、その弾倉が二つ。

 ただし本来であれば、拳銃で刀姫や禍人を相手取るにはほぼ不可能である。特に火力の面では、この銃によって傷を与えるのは困難を極める。しかし、これこそがこの戦いにおける鍵。対サキュリスに役立つ装備の一つであった。

 ツルギはサキュリスから出来るだけ距離を取りつつ、銃による射撃を繰り返す。

 対サキュリス戦において必要なのは、潜影を駆使して距離を取ること、射撃による牽制、そして彼女が張り巡らす糸を短刀で切断することである。

 刀姫サキュリスへのイメージトレーニングは万全であり、そしてツルギはイメージ通りに動く。さらには机などの障害物をも利用して、巧妙に安全性を確保。その立ち回りは危なげなく、さらに距離を保つにより確実なルートを選択。

 これに対し、サキュリスは銃弾を交わしつつ、小刻みに前進。その際には無尽蔵の糸を出し続ける。これもまたツルギのイメージ通りの動き。彼女の動きにも戦い慣れした様子を感じ取ったが、まさしく戦いの経験を豊富に持つツルギにとっては定石そのもの。それを読むことは容易い。

 互いの距離は常にツルギによって管理され、場を完全に支配。サキュリスに立ち入る隙はなかった。

 じきに手の内が知られていることにサキュリス自身も気付き始めたのか、余裕を見せていたその表情には、少しずつ曇りが生じていた。

「息巻いた割には随分と消極的な攻撃ですね」

「……」

 その戦法にサキュリスは挑発したが、ツルギはそれを無視。お返しと言わんばかりに、目に向けて銃弾を放つ。サキュリスはそれを他愛なく払い除けたが、その表情には憤りが見え隠れしていた。彼女は今、自身の思い通りにならない現状に怒っている。

 ツルギの狙いは刀姫たちが持つ精神的な弱点にあった。刀姫は驚異的な身体能力を持つが、その精神にはいずれも何かしかの明確な弱点を抱える。

 例えば、ブローディアの弱点が「孤独であること」ならば、サキュリスの弱点は「思い通りにならないこと」である。

 それは彼女のプライドの顕著。ならばそのプライドを刺激してやれば彼女は冷静さを欠き、必ず大きな隙を見せる。

「鬼ごっこをしに来たのかしら?なら私は付き合う気は無いけど」

 そして思った通り、拮抗した間合いの中で業を煮やしたのはサキュリス。そう言って足を止めたサキュリスにツルギは容赦なく引き金を引いた。

 冷静になろうとしているのを見越した追い討ちの一手。ツルギが撃った複数の銃弾は腹の一点に集中。一発目を皮切りに前の弾を押し出すように前へ。三発目には一発目の弾丸が体内へとめり込んだ。

 単発ではどうにもならないほどに彼女たちの身体は硬い。しかし、複数の衝撃を一手に集結させれば、些細な力は届きうる。

「……っ!」

 サキュリスは苦痛に顔を歪ませつつ、身体をくの字にしたが、次の銃弾を額に受けて甲高い金属音と共に首を仰け反らせる。

「的になってくれるなら都合がいい。こんなものでも効きはするんだろ?」

 ツルギは冷静に言い負かす。挑発に近いそれはサキュリスの鬱憤を刺激するに充分なものだった。

 額から小さく流れた血に、サキュリスの目に怒りが篭る。

「貴様……」

「手を引け、サキュリス。出来ないのであればここで死ね」

 最後の通告。しかし、サキュリスはツルギの挑発に受け立った。

「……上等よ!」

 サキュリスは先ほどまでとは打って変わって、大きく前進。殺意による強行。そしてそれはツルギが待ち望んだもの。十分に満たない戦いの幕。

 ツルギは直進するサキュリスを前に回避はせず、閉じていた左眼を開く。

「遅い!」

 無抵抗のツルギはそのままサキュリスに頭を掴まれる。頭蓋を割るかのように強く力を込めたサキュリスは叫ぶように言った。

「命じる。抵抗を止めて自害しろ!」

 言い終えたサキュリスは狂気の笑みを浮かべる。

 しかし、彼女の言葉は届かない。サキュリスが掴んだものは幻術による幻影。力を込める左眼は彼女の思考を既に絡め取っていた。その中において幻影を掴み勝利を確信したサキュリスに、ツルギは回りこみ一閃。そして、背後から短刀を振りかざす。

 サキュリスの首元からは鮮血が舞い、その心臓に短刀が突き刺さった。

「……!な、ぜ……?」

 急激な展開に彼女は不可解を口にした。戦いの最中で唐突に発動する高度な幻術。それが如何に困難であるかは、戦いに精通したものならばよく分かる。故に彼女自身、それを予期していなかった。発起人であるツルギとて、それ自体は頭の片隅に置くに留まる。だが、相手が調律師ならば話は別だ。刀姫と調律師の二人分の思考と神経があり、それを分別させることができれば、それを操ることはできる。例え凡庸な脳みそであっても決して不可能ではない。

 彼女はそれを理解していなかった。否、理解し得なかった。彼女は自らその道を別け断ったのだから、到底想像もつかないだろう。

 ツルギは即座に後退。勢いよく短刀を引き抜かれ、膝をついたサキュリスは激しく流血する傷を手で覆い沈黙。普通の生物であれば、心臓の外傷は即座に命に関わる。しかし刀姫の生命力は強い。大量の血を流そうと、心臓を一突きされてもなお、即死となることはない。

 しかし、とはいえそれによるダメージは深刻であり、そのまま死ぬことも充分にありえる。先ほどのように動くことは、到底ままならない。

 ツルギは彼女の戦意が喪失した様子を見てから、充分に距離を取ってから短刀を鞘へと納めた。

「なぜ……トドメを刺さない」

 サキュリスは苦しそうに息をしながらツルギを睨んだ。しかしその目に先ほどまでの気力はなく、満身創痍。今の状況からすれば、彼女の息の根を止めることは容易い。

 しかしそうしないのには理由があった。

「……ディア」

 ツルギは息を大きく吐き、二身一体を解除。程良い疲れを感じながら、影のブローディアにしゃくった。

 それを受けてブローディアは影から姿を見せる。

「終わりよ、サキュリス。大人しく引き下がりなさい」

 ブローディアがそう言うと、サキュリスは仇を見るかのようにその顔を睨め付ける。

「裏切り者のくせに……何を偉そうに!」

「っ私は……!」

 ブローディアは言いかけたまま、俯いた。彼女は「違う」のだと言いかけたが、しかし彼女が刀姫として生まれた経緯とこれまでのその背景が、それを躊躇わせていた。

 幻影刀姫の名を持つブローディアは唯一、対刀姫用として製造された刀姫である。そして、その用途に違わず彼女はこれまで様々な刀姫を屠ってきた。

 故に彼女は高名。そして、何よりも特別。人の立場からしても、刀姫の立場からしても、彼女は忌避される存在だった。そして、その後は人間の所有する刀姫として契約を交わした。その経歴は人間に強い憎しみを持つ刀姫たちからすれば、より度し難い事実。彼女もまた敵と見なされるのも無理からぬことだ。

 しかし、ツルギは彼女が心底で望むことを知っている。彼女の過去を知っている。

 その目に涙を浮かべて俯くブローディアの肩をそっと叩いた。それに気づき不安そうにこちらを見たブローディアに対し、ツルギは促すように頷いた。

「……私は、あなたたちと戦いたくない。殺したく、ないの」

「殺したくない?今まで散々やってきておいて、ふざけたことを言わないで」

 意を決した必死の主張にも、サキュリスはピシャリと否定した。

「けど……私は……」

 なおも食い下がろうとブローディアが負い目と意思の間で逡巡する中、それを嘲笑うようにサキュリスは言った。

「──なら、私を治して。回復薬を持ってるんでしょ?そうしたらあなたの言葉、信じてあげる」

「そんな……」

 明らかな誘導である。それをしたとしても、彼女の言葉には何の保証もない。

 当然、ブローディアはそれに困惑。あまりに危険な頼み。これをブローディア自身が解決することは難しい。

「……」

 これに対し、ツルギは何も言わず、仕方ないとばかりにポケットからペン型注射器を取り出し、サキュリスへと近寄った。

 中身は「生命薬」と呼ばれる即効性の薬剤。鎮痛効果もさることながら、強壮効果や治癒効果にも大きな効力を発揮する優れ物で、念のためにと持ってきたものである。超希少かつ大変高価な物であるので、一つしか持っていなかったが、仕方がない。

「ツルギ……?」

「!?」

 ツルギはそれをサキュリスの背中へと躊躇うことなく注入。刀姫の身体は生身の生き物と比べて高い治癒能力も備えていることもあり、それを打っただけで彼女の身体の傷は煙と音を上げながらすぐさま完治。

 ため息をついたツルギは空になった注射器を半ばヤケクソ気味に投げ捨てた。

「これでいいな?」

 ツルギが言うと、すぐさまサキュリスはその額を鷲掴んだ。

「やめてサキュリス!」

「動くな、ブローディア」

 叫び出し、抵抗しようとしたブローディアをツルギが引き止めた。自身は不動を保ち、サキュリスを見つめる。

「どういうつもりかしら」

 当のサキュリスは怒りを秘めたまま、ツルギを見た。

「これでお前はブローディアを信じるんだろ?」

「手を引く、とは言ってないけど?」

 ニヤリと笑うサキュリスは手に力を込める。頭蓋骨の軋む感覚を手の内に感じながら、今更抵抗を始めるだろうと、ツルギの表情を窺う。

 しかしツルギはなおも動かない。

「なら、ブローディアを信じろ。そいつの言葉に耳を傾けろ」

 命を掴まれたも同然。しかし依然として、毅然としたツルギの姿に、サキュリスはたじろいだ。


 自身の持つ籠絡の力で様々な者を組み伏せてきた。全ての者はこの力の前には無力化され、果てにはその力を使うまでもなく、皆々が膝をついた。この力の恐ろしさとその有意義性に気づいていたが所以である。弱く、浅ましく、嘆かわしき人間たち。それに対して、決して譲歩する気などなかった。

 だが、このツルギという男はそれらとは違う。今まで、見たことも聞いたこともない種の人間。その強さと胆力に驚嘆した。

 何がそうまでさせるのか。いや、聞かずとも分かる。彼をそうさせているのは──。

 サキュリスはブローディアを見る。

 気高く、孤高と呼ばれた幻影の刀姫。ただ一人、悪虐の限りを尽くす刀姫たちを、災厄の禍人たちを屠ってきた高名なその名に、自分も含めて刀姫たちは憎しみと同時に劣情を抱いたことだろう。

 そんな彼女が選び、生涯のパートナーとして契約を結んだことを耳にした時には驚いたが、今ならば理解できる。この男は他とは異なる、規格外の存在だと。そしてそれはあの災厄の禍人と同種のものである、とも。

 ならば。

 どうあっても、彼に勝利することは出来ないのだろうと簡単に悟った。すると唐突に、彼と勝ち負けを競うことの馬鹿馬鹿しくなった。そして己への過信、彼との度量の差を恥じ、掴んだその手をゆっくりと放す。

 放されると同時に床へとへたり込んだツルギの身をブローディアは支えつつ、そして困惑の表情でサキュリスを見る。

 すでに限界であったのだろう。しかし、彼は最後までその意思を貫いた。

 この者になら、折れても良い。そう思った。

「いいわ、私の負け。この件から手を引く」

 胸にスッとした気持ちを感じながら、手の平を見せて降参のポーズ。もっと早くにこうして居たら、きっと違う道もあったのだろうか。

 そんなことを思いつつ──。


 天から降った閃光。

「サキュリス!」

 いち早く気づいたブローディアは動けなくなったツルギを抱えて後退。彼女をも守りたい。心からの思いから叫んだが、それはすでに遅く。

「あ──」

 閃光はサキュリスを目掛けて落ちた。

 そして悲鳴をあげる間も無く、甲高い破裂音。膨張する閃光。それとともにサキュリスの身体は四散した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る