第9話 自立と成長

 カイはリクの為に、呪われた武具を集めて、強奪のチカラを発現させていく。カーソルをセレクト・キャンセルし、抽選で呪いのみを抽出する。

 抽選確率を百パーセントにするべく、ソラの捕獲で呪力特化のパラメーターにして、自爆霊を取り付かせ、爆発四散する霊的残滓を武具に浴びせつつ、怨念や感情が宿る事を願う。

 呪われた武具はウェルことマリが、マリア教本部の武器庫から山ほど転送させてきた。

 解呪の魔法で解呪出来ないヤバいモノだが、リビング・アーマーとかには成っていない。そもそも封印されていたので、距離が近くても開封しなければモンスター化しないのだ。

 そんなヤバいモノを開封して、カテゴリーごとに一ヵ所へ集める。とても危険な事だが、悪霊や怨霊の類いは、鉄と塩の結界内からは出られない。その上、マリの異能と濃紺の異能で時空間を隔離し、時間の流れがほとんど止まっているに等しい場所となっている。

 所謂、修行の間だ。開発と修行が一段落する迄は、精神と肉体の老化はほぼ止まる。

 それでも成長と進化はするものの、空腹や排泄、睡眠は不要な状態だ。

 また、濃度が高い呪力を変化させるには、とても時間が掛かる。魅了の効果やら好感度の濃度やらは、感受性の違いによってバラツキが出てしまう。

 故に、リクの魅了が効くまで、リビング・アーマーや浮遊する剣、楯、槍、銃、弓、斧、刀、ありとあらゆる兵器そのものと闘う。

 リク一人とインテリジェンス・アームズが二人で、続々と増やしては統一していく。

 本来ならば、リクが冒険者や傭兵をしながら、徐々にインテリジェンス・アームズを増やしていくのだろうが、そんな悠長な事をしていては、道中で死ぬ。

 折角、そこそこの異能持ちが、タイミング良く揃っているのだから、武器庫の肥やしを使い切っても誰も損をしない。

 無論、マリや濃紺でも似たような事は出来る。リクに出来てマリに出来ない事の方が少ない。それだけの応用と経験の差がある。

 だが、強者故にその辺のヤバい武器を頼ったりはしない。たかが呪われた程度、たかが聖なる武器、もっとアカン兵器を知る以上、不要である。

 そもそも、餞別で送った短剣の方が、解呪出来ないヤバいモノよりも、余程たちが悪いし、性能面でも上だ。

 だからこそ、武器庫の中身を持ち出そうとしても、教皇へは持っていくと言伝てをするだけで良い。マリや虚無ゼロクラスの護衛は、それだけの信頼と実力がある。例え枢機卿がごねても、私兵をボコボコにすれば黙る。神兵達を出すなら、内部抗争となり主要人物を粛正すれば済む。

 万が一負けた時は、濃紺に養って貰うだけだ。

 リク達三人に、クウという少女も含めて、四人が傭兵ルートを希望した。

 クウの卒業試験は、濃紺の護衛騎士であるリラと戦う事。

 本人には言っていないが、勝ち負けはどうでも良い。格上と戦う気概があるかどうかが問題であり、逃げ回っても構わなかった。

 寧ろ、やるかやらないか、出来るか出来ないか、その見極めこそが重要である。

 蛮勇と無謀は、短命だ。会話のみで戦闘を回避出来るなら、それにこした事はないだろう。

 敵を知り、己を知り、状況を把握し、出来る選択肢とその未来を見据えて、抑止力の積み立てを行う。それでも負けるなら、自分の命を守り、逃走するべきだ。

 幼い子供でも、手足を振り回せば大人を殺せる。なら、生き残る方法を模索させ、自衛手段を教えるしかない。

 孤児院は安全だが、世の中は修羅や鬼が多い。銃撃で死ぬ、奴隷として捕まり、内臓や手足を売られる。戦争地帯で強者の巻き添え、モンスターから喰われる。ギルドで騙される事もあるし、行政の不手際により、流行り病に罹患する。学校で苛烈なイジメや暴行を受けたり、貴族や豪商から八つ当たりをされる事もあるだろう。

 安全が確保出来る内は、周囲への配慮として、武装を整えるべきだ。

 勿論、他人の面倒は見なくても良い。自分の身は自分で守る。無理に他人を気遣うと、付け上がって搾取されるだけだ。

 弱者は集まり、強者は孤立するものの、それがお互いの為でもある。

 強者におんぶに抱っこでは、寄生となるだけで、長くは生きられない。そもそも見返り抜きで助けられる事の方が稀となる。大抵は奴隷となり、ある程度働いて臓器を抜かれる。

 だからと言って、魔法は教えない。発現速度とかの効率面で魔法より上だし、制御が甘いときちんとした威力が出ない事もある。

 異能は使用料が発生するから、おいそれと多用出来ない。弱い異能でも使用料は高額なので、借金のカタに臓器を取られるくらいなら、魔法を覚えるモノだ。

 しかし、マリの孤児院ではより実戦を重視して、武器や格闘技を教える。詠唱だろうが無詠唱だろうが、魔法は意外と当たらない。

 攻撃魔法の多くが、物理法則の影響下に発現するので、火の玉や火の矢は飛距離に比例して有効な威力が落ちていく。風に流されて逸れたり、木の枝等の地形に阻まれたりもする。火山地帯とかで水が無いと、水の魔法は体内の魔力を変換して発現する為、魔力の消費量も多くなる。

 防御魔法もほとんど同じだ。

 攻撃魔法の威力が分からない場合は、より硬く守るので、消費量も端ね上がる。脆いと威力が落ちるだけで、熱量や電流はほぼ保ったまま、シールドの内側で炸裂してしまう。

 魔法は近い射程ほど、誤射や巻き添えが起こりやすい。接近してしまえば、精度に自信があっても控えるものだ。

 仮に射ってくるなら、敵の前衛を射線上で、押さえつけるように立ち回るだけ、曲射なら下がる。

 魔法や異能よりも、銃や弓矢が有利となる場合もあるだろう。

 これからの傭兵ルートでは、特に重火器が必要となる。

 魔法よりも鉛玉が怖いし、着剣での白兵戦や、浸透襲撃では隠密性が求められるので、格闘技や剣が扱える方が良い。

 異能や魔法は奥の手扱いと言うのもザラだ。特に強者同士では、どれだけ異能が強くても、武器や格闘で負ける事が多い。

 マリが知る限り、教皇の捕獲を手伝った協力者達は、どんな環境の戦場でも戦える猛者だ。

 戦場で出会えば、マリとてサンドバッグにされてしまうだろう。

 濃紺も武器の技量で負ける。と言うか、協力者の一人に剣を習った事もあるので、ある種の師弟関係があったりもする。クセが分かっているから、誘導もそう難しくないのだ。

 上には上が居る。マリ達とて怠ければ殺される。運が悪ければ鉢合わせし、抵抗空しく死んでしまうだろう。

 それを理解しているのと、実行出来るかは、大きく違う。

 くっころな騎士をそのまま殺すのと、生かすだけの理由を説くくらいは違う。

 普通は殺せと言ったなら、殺される。或いは凌辱されて殺される。臓器や手足は売られ、全身義体やクローンとして蘇生させられ、借金を背負うだろう。

 そう、死んで終わりとならないのだ。死んで尚搾取される。ここではそれが常識であり、人の命は安い。歴史上では、尊い人の死なんて数える程度だ。

 だからだろうか、クウは頑張った。

 リラの重力魔法を耐え、剣技を受け流す。毒の唾液や胃酸を吹き掛けて動作の阻害を狙う。

 しかし、リラは剣を横にして扇ぐ様に払い飛ばし、時に独楽の如くその場で回りつつ、剣を保持した状態で防ぎきる。

 しゃがみこんで足払いしながら、軸足から生活魔法による水を出し、泥濘を作り足場の自由を奪っていく。

 が、クウの努力は続かない。

 足払いの脛を蹴られ、咄嗟にゲル化させる事に意識を向けたからだ。

 種族特性は異能と違い、使用料は取られないが、魔法と特性を同時に使えるだけの技量が求められる。

 少しでも集中しなければ使えない以上、隙となってしまう。演算に手間取ると、魔法と異能、種族や職業特性は、効果が薄くなってしまうのだ。

 剣を首に突き付けられ、クウは身動きがとれなくなる。ゲル化した脚にリラの足が入っている以上、重心や体幹が不安定となる。また、首をゲル化させても胴体を切られると、普通に重傷となる上、首を端ねられると、繋げるまで身体の自由が効かない。

 首だけでも動けるが、胴体は人間のままなので、下手すると首しか残らない。これが完全なスライムの亜人なら、分身したり、意識を並列化させたりも可能だと言われている。

 逆に、首から上を失なうと、胴体も死ぬ。事前に、脳を胴体の中へ収納しておけば、首を失なっても生やせる。

 とは言え、瞬時に脳や歯を収納しないと、首を斬ったと言う油断は誘えない。洩れがあると、目や歯が生えるのにも時間が掛かる。ゆっくり一つずつ収納していては、首よりも胴体を狙われてしまう。


 ハーフだからまだ生やせるが、クォーターなら欠損したままで、再生能力は無い。これはミックスも同様だし、三分の一でもゲル化のみ。

 種族特性は亜人の血統に左右されやすく、スライム、人間、エルフ、ドワーフ、ハーピー、アルウラネ、天使、悪魔、ドラゴン、ワーウルフ、前述した十もの血が混じった存在もいるし、スライムと人間のハーフと、スライムの亜人が親で、人間の血が三分の一。天使とドラゴンのハーフに、エルフとハーピーのハーフと言う、ハーフ同士の親でミックスされ、各四分の一ずつの血を持つ場合もある。

 ハーフ以降の血なら、特定の種族の血を増やし、先祖返りや純血に近付けられる。ナノマシンや遺伝子工学が、発達しているからこそのテクノロジーだ。


 種族特性に加えて、全身義体や一部の義体による底上げも併用すれば、血統や種族を超えた反応速度に、生まれ持った才能や異能を上回る運動能力を発揮する。

 対処するには、先の先や後の先と言った予測や、来るであろう機会に合わせて、同等かそれ以上の格闘術が必要となる。

 機会の機に、間合いの間、そして、二足歩行する亜人や人間をベースとした重心や関節の可動域。

 相手の無意識の動きよりも、更に最適な反撃。

 これらが出来て、ようやく生身でも義体を上回れるのだ。

 どんなに高性能だろうと、人間が造ったモノは、人間の手が届く範囲に収まる。

 人間の手が届かない、機械の限界を超えたモノは、人間が理解出来ないモノとなり、技術的特異点となる。

 種族も道具も超え、魔法や異能でも分からない。

 ある意味で、そうした存在は神様のようなモノだろう。

 人智の及ばないオカルト・サイド。

 だが、そうした存在は、クウの身近にも居る。


 マリのような宗教側は、邪教や邪教のようなモノを認識、区別、修正をしてきた。

 不死の代名詞である、異界の神様は勿論、吸血鬼を排除するのだ。

 基本的に不老不死の存在は、輪廻転生の邪魔となる。

 死なない存在が、億単位で惑星に蔓延ると、文化や科学技術は衰退する。

 価値の無い惑星を管理するのは、その星の神にとっては苦痛でしかない。

 故に弱点を見つけるか、作り出す事で、吸血鬼は対処可能な亜人と見なされた。

 また、様々なタイプの吸血鬼が居たのだが、マリア教の神兵や吸血鬼同士で争ううちに、血統が絞り込まれていく。

 濃紺は吸血鬼の真祖であり、他の吸血鬼の真祖を、誰よりも多く葬ってきた。従者もエルダーもまとめて相手にし、たった一人で同胞の血を啜る。

 裏切りに等しい事だが、理由は単純で、吸血鬼の中で最強に成る事だった。

 闘う内に、吸血鬼という種族の最大値にステータスが達し、魔法も吸血鬼が扱える範囲では最適なモノとなる。格闘技も剣技も、吸血鬼が相手では敵無し。

 まさに猿山の大将、とは思っていなかった。

 格闘技や剣で、濃紺より強い戦士は多く、魔法においても、より多彩な魔導師が居た。

 何より、マリア教の僧侶が苦手だ。聖なる武器もウザい。

 幸い、異能で対処可能だったので、 何とか凌げる。

 当時、ただの僧侶の一人であるマリとは、何度も戦った。転生してでも追い掛けて来る程、執拗に現れた。

 対して、濃紺は戦闘経験の差であしらい、ある剣士の元で修行し、より正確な剣技を覚える。

 その剣技をもって、隠れていた吸血鬼の真祖達を捜し出し、一人一人殺していく。

 遂に、元祖や真祖を駆逐し終え、吸血鬼の代表格が濃紺だけとなった。更に並行作業で、吸血鬼の物語や口伝をしらみ潰しに焼き、人々の記憶すら弄って、濃紺以外の吸血鬼という存在を抹消する。

 吸血鬼への畏怖、濃紺にまつわる伝承、信仰に近い不老への憧れや羨望。

 それらをひっくるめて、人々は濃紺を主軸とした、吸血鬼の物語を紡ぎ、信仰と神話が産み出される。

 そうする事で、濃紺は最終的には、吸血鬼の神様へと登り詰めたのだ。

 しかし、マリア教の反発は強い。神様を殺せる存在が居る以上、今までの犠牲もあるので、簡単には引き下がれない。

 マリを筆頭にして、果敢に挑む。

 戦いは十年も続いた。昼夜問わず、入れ替わり立ち替わりで、神兵と僧侶達は濃紺を攻める。

 圧倒的物量、長時間の継続戦闘。それでも濃紺は屈しない。魔力が切れても剣で戦う。ある程度回復すれば魔法を使う。その繰り返し。

 遂ぞ、マリア教は濃紺を討ち取る事が出来なかった。

 屈辱的な事件だったが、濃紺は休戦協定に同意し、マリア教の外部戦力として、自分達の居場所を確保する。

 流石の吸血鬼でも、雑魚の相手はもうこりごりだったのだ。適当な落とし所へと収まるのも、吝かではない。

 とは言え、休戦協定は何時でも破れる。主にマリが立ち塞がろうとするのだ。濃紺が痛めつけて問うと、マリ曰く、濃紺の異能は危険すぎると自分の異能ゴーストが囁いているとか。だから勝てなくても追いすがってきた。

 そうして戦う内に、マリの異能も強化され、転生を繰り返して強者へと至る。

 時代が経るにつれ、吸血鬼の逸話が神格化されていき、濃紺は神様の一柱に数えられ、吸血神と言う称号を得た。

 マリは濃紺に対抗出来る人物として、吸血鬼の神様を嫌う集団に担がれたりもする。

 神様に挑む姿からか、叛逆の僧侶と呼ばれた。

 だから、助長気味な茶番でも、戦う事を止めない。戦わないと戦場が拡がるし、召集されれば強者同士の戦いになる。そこに手加減は無い。無駄に被害が出るくらいなら、濃紺とマリは決闘という名目で拒否するのだ。

 無論、決闘を邪魔するなら、戦争地帯を傍若無人に荒らすだけ。

 触らぬ神に祟り無し。ただし、マリを除く。


 人智が及ばぬ濃紺カミの護衛。リラもまた吸血鬼であり、濃紺の血族が一人。その強さは序列二十位並みの実力者だ。

 重力魔法、液体操作魔法、吸血鬼の身体能力。そして装備品の品質。

 最適化されたゴーレムの軍隊すら、重力魔法だけで捻り潰す。マイクロ・ブラックホールで、同等の強者すら吸い込む。

 リラ一人で拠点防衛は十分だ。手が足りないなら、血族の者を召喚すれば良い。

 孤児院には勿体無いほどの過剰戦力だが、うっかりで強者同士の戦闘による余波を食い止め損ねたら、それはそれで大問題となってしまう。

 孤児院が無くなったら、マリは本部に強制召集され、教皇の護衛に戻らざるを得ない。

 濃紺はマリの家で主夫に成り、そのまま引き籠る可能性もある。

 リラは戦争に駆り出され、カイ達は故郷を失くす。

 誰もが不幸になるくらいなら、過剰だろうと戦力は必要だ。

 試験とはいえど、手加減はしても手抜きはしない。

「ここまでにしておきましょう」

「ありがとうございました」

 ハーフやクォーター、ミックスは、純血種に無い要素を持つが、血統別に比べるとどうしても劣る。それが種族の限界だ。

 健常者と障害者並みにステータスが違う。また、努力しても追い付けない、相手はもっと努力しているのだから。

 才能の差、種族の差は埋まらない。埋めるには相手が努力するのを諦めて尚、こちらが努力を続けるしかない。

 とは言え、どちらも生物である以上、死ぬ時はあっさり死ぬ。

 たまたま生き残っただけの強者もいるし、努力と才能、運気を持つ強者もいる。

 リラはそこそこ努力しただけの生き残り。魔法と装備が無いなら、不覚を取る事もある。

 序列二十位までは、まだまだ人間性を保った存在だ。人外と呼ばれても、強者の徒党と戦えば負ける。

 序列二十位以上は、徒党を組もうが、戦略や戦術を練ろうが、基本的には負けない。

 潜り抜けた修羅場と経験が、本人を意図せずとも生かす。

 人間性を始め、色々と捨てては、最適化を模索しつつ、継続される修行と蓄積される経験。

 度重なる転生、ランダムな種族と風習に起因する魔法や特性。

 資源の奪い合い、栄枯盛衰する国家、縛られぬ強さを保持する個人。

 主義、思想、国家、社会、宗教、病気、資源、技術、時代、権利。

 移ろい、固執しやすく、時に直ぐ終わりが来るモノ。

 それらに揉まれて、擦りきれる事無く戦い続けた。

 リラからすれば、孤児達は今でこそか弱いが、いずれは強くなれる。転生してもこの世界に留まるなら、序列争いにも参加出来るだろう。

「孤児院卒業とします。あ、これが餞別ね」

 クウは短剣と十字架を貰う。ついでにカイ達と同様の説明も受けた。

「あと、各種野菜の苗、種、病気や肥料の資料もあるから」

 リラに呼ばれたのか、猫車を押して、年下の少年がクウの隣に、往復して荷物を次々と置く。

「ソラのワイトやら、リクのアーマーも連れて来て」

「……アレが出来たのですか?」

「ええ、そこそこ簡単だったからね」

 運び込まれたのは木製の歯車に樹の皮で編まれたベルト、板に木片の様な釘。

 更に木製な鎧兜に、木刀や木剣、盾や桶もある。

 その全てに、ソラの捕獲した霊魂が宿っているのだ。

「クウがサブ・マスターにしてあるそうよ」

「分かりました。起動して組み上がれ」

 合言葉による音声認識で、霊魂が励起して起動する。次に、木材が独りでに浮き上がると、組み合わさっていく。

 完成したのは、木製のリビング・アーマー三体、木造のリヤカー二台、荷雪車一台、自転車二台にサイドカー六台を付けたモノ。

 釘を使わない木工は、霊魂が取り憑かれた程度の、浮遊からの自重による合体では難しく、薄い板から造った鎧兜のリビング・アーマーによる、大工工事を経て完成するので、最初から木釘を使い、人力でも修理や整備が可能としてある。

 木製なリビング・アーマーは、霊魂が板に憑いたモノの集合体であるので、実態はリビング・アーマーと言うより、ガイスト・アーマーだ。勿論、リヤカーや荷雪車、サイドカー付き自転車も自律駆動する。

 ソラが浮遊するだけの剣から、ポルター・ガイストの影響力というか、勝手に動く事へ焦点を当てて、孤児院全員と協力し、開発させた装備だ。

 動力はなんちゃって憑喪神なワイト達。霊的なチカラの動く方向を決め、駆動のパワーや伝導も考慮されている。

 霊魂による自動アシスト付き、簡易パワード・スーツだ。

 パーツごとに憑く事で、損傷箇所が分かりやすくもなっている。部品の加工や、入手手段に問題があるものの、砂漠や雪山等へ行かない限りは、加工や整備の時間が必要になる程度。ガイスト・アーマーが部品を削り出す上、アーマー同士で整備し合う。

 鉄等の金属を使わないのは、重量軽減と入手費用の削減。

 段ボールでも代用可能な部分は、段ボールや厚紙に霊魂を宿らせていけるだろう。

 ガイスト・アーマーも、古着や布切れをパッチワークし、かろうじて服に分類可能としたリサイクル品。その上に板をくっ付け、サイズ調整の隙間や組み合わせ方の工夫が施してある。

 また、更にガイスト・アーマーを構成する木材の表面には、木龍と言うモンスターから採取される木材のおが屑を、鍍金のように散布して板と同化している。

 このおが屑の付着により、難燃性なんねんせいが上がり、多少の炎では燃えにくくなっていた。

 自転車も総木製で、前輪と後輪は軸を挟んで二重にしたタイヤ、全体的にフレームは厚く、荷重や運転手の体重を含めて、耐えられるようになっている。

 サイドカーは、左右だけでなく前後にも、取り付け可能としてあり、単体では玩具の車じみた挙動で進める。が、内部を交換すれば、箱型の枠が付いた一輪車のようになり、独立して漕ぐ事も出来た。勿論、自転車やサイドカーも自律駆動する。

 つまり、漕ぐのに疲れたら、乗っているだけで進めるのだ。

 しかし、ゴーレムと違って、命令や指示をしなければ、壁に当たっても浮遊して突き進む。霊魂の知性が低い為か、学習能力も低く、細かい自律運転も難しい。

 霊魂のポルター・ガイスト的動力の燃費も悪く、自律運転にてスラロームと急制動を行えば、しばらくは霊力の回復を待つ事となる。

 ガイスト・アーマーの腕力も、一時的なモノなので、戦闘には不向き。

 故に支援がメイン。クウのサポートや各々のポーターとして使うのだ。

 その為にリヤカーや荷雪車を作った。運転手兼サポート要員のガイスト・アーマーもだ。

 リクだけは自分のインテリジェンス・アームズが居るので、ガイスト・アーマーの必要性は無い。

 荷雪車に木製自転車やサイドカーを積み重ね、リヤカーの後部に繋ぐ。ちなみに、サイドカーは連結して積み上げれば、即席の壁としても使える。中空装甲なので、ロケット・ランチャーの弾頭による爆発も、一度は凌げる。

「苗はリヤカーに、野営セットに予備パーツも」

 重量があるものの、サイドカーや予備パーツは、積み込んでも浮遊するので、見た目以上にモノが載る。

 とは言え、荷重や運転手の体重が重いと浮かない。浮かないが、動く様に歯車やベルトで駆動する設計だ。その為の自転車やリヤカーである。

 荷重の場合は、エンチャントと言うか、憑依したワイトやらウィプスのアーマーや自転車、板や歯車そのものも含む。金属だと薄くて小さめ、或いは軽くて霊力の伝導率が良くないと、ポルター・ガイストの様に浮遊してから、縦横無尽に動かない。

 霊力の伝導率を軽視すると、燃費が悪く、稼働率が落ちる。

 故に加工と入手、軽量化に部品の規格化、損耗や摩耗へ対する整備も考え、将来の今後も踏まえて、ある程度の妥協もしている。

 主に運搬用であり、平野部や整備された道路限定なのだ。不整地な道のりを進めば、短時間で故障するだろう。

 一見して豪勢な道具だが、霊魂の憑依とか育成、木材のコストに加工時間、全てが無駄になりやすい脆弱性も孕んでいる。

 初心者パックなんて使い捨て、と言うのが、濃紺達大人の見解。

 成長に合わせて、自作していくのも必要だし、その時間をどう捻出するかで、今後の生存率が変わる。


 クウの準備が済む頃には、折り良くなのか、カイ達も修行の間から出て来た。

「あれ、クウ姉ちゃんは一人で、ダンジョンを制圧したの?」

「リラ様と戦った。で、合格したから卒業」

 カイはクウが戦える事が意外だった。いや、スライムのハーフなのは身を持って知っていたが、俊敏に動ける様な、種族特性では無い様に感じていたのだ。

「生産職も戦えないと死ぬ。で、これから行く場所まで、自衛出来ないと足手纏いにもなる。自分もだけど、仲間も死ぬ危険が高くなる」

 だからこそ、時間稼ぎと生存率を高める為の、自衛手段の確立は必要不可欠。

「カイ達がリクのハーレムを作っている間--」

「--ハーレム言うな」

「ガイスト・アーマーやエンチャント・ワイトな自転車が出来ていた」

 リクのツッコミは無視して、視線でソラに、コイツを黙らせろ。と言う。

「ん? ソラ、どうしたんだ。そっちはトイレだ、連れションは無理だから一人で行って来いよ」

「メイルにショートもいる」

「いや、確かに着込んでいるけど、あいつらって排泄したっけ?」

 腕を引っ張るソラに引かれて、リクは男女共同のトイレへ向かう。

 ちなみに、インテリジェンス・アームズは食事に排泄、睡眠を取る。更に肉欲もある。単にリクが知らないのは、寝ている間や気絶している時に、交代でまとめて済ませているだけ。

「カイ、裏庭に来て」

 クウにちょっと手伝ってと頼まれ、農具を仕舞う物置小屋へと、カイはついていく。

 鍬やジョウロ等、農具一式を出す。

「あとは、隅に重いのがある」

 物置小屋の隅と言われても、狭いので何も無い様にしか見えない。

 ある程度物を出したので、クウとカイ、二人が入っても余裕があるものの、狭いからか圧迫感もあった。

「どこ、って言うか、二人で入る必要はあったかな?」

 立て付けが悪いドアを、ゆっくりと閉めるクウ。そう、偶然を装ったのだ。

「あの、暗いんだけど……」

「ちっとも動揺しないのね」

「びっくりはしてるけど、リクが連行されたから」

「なるほど、期待していたと?」

「言い方的に、それはちょっと自意識過剰なんじゃ。いや、ニュアンス的には、察していたと言うか」

 暗いのを良いことに、照れからかカイは、頬を少し紅潮させている。

「まぁ、確かにあからさま過ぎたかしら」

「目は口ほどにモノを言うし」

「悪いけど、照れなのか、興奮からか、赤いのは分かっているから」

「いや、これは、密着しているから。思い出してしまうんだ」

 カイは言っていて、墓穴を掘っているのに、変わりはないとも思う。

「カイにとっては久しぶりかもしれないけど、私にとっては昨日の事。ん? 肉体的には昨日と変わらないのかしら」

 精神的に成長したカイやリク、ソラだが、肉体面は成長していない。

「とりあえず、出すモノ出して」

「ひぃっ! カツアゲ!?」

「ちょっとジャンプ、は無理か」

「暗いし狭いし、足場も良くないから」

「踏んでも痛く無いけど」

「僕の足が痛むし、最悪は挫く可能性もある」

 相手であるクウを労っているのかと思いきや、カイは自分の負傷を恐れていた。

 ちょっとムカついたので、立ったまま締め上げ、腰をくねらせつつ蠢かせた。そのまま、抜かずに連続で搾る。

「ちょっと暑くなってきたから、今回はここまでにしてあげる」

「……こ、こんなのってあんまりだよ」

 性癖が開発されても、お金にならない上、戦闘にも活かせない。

 同じ頃、リクはトイレ内で、白い海に沈みつつ、紙の山に埋もれていた。

 インテリジェンス・アームズとソラに貪られ、孤軍奮闘も空しく、矢折れ刀尽き、多勢に無勢を嫌と言うほど味会わされたのだ。

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