第8話 ナノマシン
カイは異能を使う際、途中でキャンセルが出来る事に気づいた。
また、強奪するモノが物品等の手に持てるモノなら、対象のモデルが複数選べるし、物品を細分化して中のバネやネジを、盗る事が出来た。
複数を強奪した時と、一つだけ強奪した場合とでは、使用料に変化が無かった。それに、精神的疲労も同じくらい。
複数を強奪する際に、途中で全部キャンセルしたり、一部をキャンセルすると、オマケなのか、全体からの抽選で何かが盗れる。
この時、使用料は掛かるが、普段の使用料の、十分の一から百分の一で済む。
強奪で選択するカーソルが、出てからのキャンセルでは、使用料を取られない。
そして、盗むと言う行為は、別に異能や魔法でしか、出来ない訳では無いのだ。
財布をスル、他人のカバンにモノを押し付ける。これらは現実でも出来る。
リアル・スキルとでも呼べるモノ。単純な技量や器用さ、訓練を積めば出来る。
要は格闘技に準ずるモノだ。
バレなければ、例え異能が封印されても、盗む事が出来る。使用料を払う必要も無くなる。
とは言うものの、職場では常に監視されている。
鍛えるには孤児院とその周辺、ギルドまでの道中、休日の町中くらいだろう。
リクやソラを初めとした、孤児院の子供達が対象。
持っているモノは、小石や銅貨、飴や木の実。衣類も盗れるはずだが、下着は難しい上にバレた時がヤバい。
まず、軽蔑され、女子だけでなく男子や、ウェルまでも敵に回す。
孤立すると生きていけない。
では、どうするか。
最初は近寄って偶然を装う。
肩と肩が当たる、他人の足に引っかかって転ける。
立ち上がるのを手伝ってもらったり、手を貸したりした時に、相手のポケットを探る。或いはすれ違い様に、ペーパーナイフとかでポケットを斬りつけ、素早く中身を盗る。
これは見つかった時に言い逃れ出来ないので、なるべくなら、やらない方が良いだろう。
服がボロくなったままの子供を見たり、傷んで縫い目だらけの服が洗濯して干されるのだ。お気に入りの服が、何故かダメになっているのに気付き、泣き出す幼女を見てしまうと、罪悪感からか心が痛い。
(ゴメン。これも生きていく為なんだ……)
人によっては、嗜虐心をくすぐり、泣いている子をもっと泣かせたり、痛めつけたいというが、カイは理解に苦しむ。
手始めに盗むターゲットは、年下の子供にしておく。よく動き回るので、盗られても紛失したと思うからだ。
仲良く遊ぶ事はしない、疑われる上に、信用を無くす。
最初は失敗してばかりで、ドジっ子とからかわれた事もある。
ある程度成功するようになると、子供特有の勘の鋭さからか変な人扱いされ、近づくだけで逃げられた。
「カイと遊ぶと、何かしら失くすっぽい」
「あいつ、両親居るし、嫌われてはいるようだけど、自分からここに来た変な奴だ」
ターゲットを変え、リク達同年代を相手にする。
が、リクは魅了持ちな為か、目が良くてバレそうになった。
ソラは輪ゴムを持ち歩いていて、手助けした際に仕掛けるも、手に巻きつけていた輪ゴムを弾いて、あっさりと撃退される。
クウという女の子は、ほとんどのポケットに毒草を詰めていた。
サンという男の子のポケットから、よく釘を盗った。
ファルという男の子は布切れ、ニースという女の子は串の棒切れ。
どれもこれも、自衛手段の武器だろう。
ちなみに、リクは細い板、ソラは輪ゴムの他にも紐を紡いだモノを持っていた。
失敗した相手やウェル、濃紺には事情を話す。町中での押し付けは伏せたが。
幸いにも、大きな問題にはならなかった。ウェルには盗ったモノを全て出したし、盗られた事に気付かない相手も悪いと言う。
「ある日突然、死んでしまうかもしれません。失くしたモノが命なら、泣いても戻っては来ないのですから」
金目のモノは少なく、盗んだ銅貨も手付かずだった為、没収と軽い罰で済んだ。
罰の内容は、濃紺の異能で、自分の尻に自分のモノをぶちこまれ、丸一日そのままで過ごすと言うモノ。
異物感と排泄感、根元の締め付けに、圧迫される前立腺と膀胱。
自分で締め付けている為、常に充血が続き、圧迫と蠕動運動による収縮で、勝手に果ててしまう。
「うぅ……で、出ないはずなのに。また、来たぁっ?!」
脳内麻薬は出続け、果てるたびにカロリーを消費していく。
自分のモノは尻の中なので、他人の目は気にならないが、尿意と便意がつきまとう。
我慢の限界で腹が膨れるも、栓は自分自身な為、穴が栓よりも広がらないと出ない。
「カイ、何だかお腹が膨らんでない?」
「た、食べ過ぎたんだよ……はうっ!」
結局、その日はトイレで寝た。
そして罰が終わると、カイの尻は開発済みとなり、自分自身で後ろの処女を捨てた事に気づく。
同時に性癖も、強制的に植え付けられた。いや、矯正され違う道を押し付けられたのだ。
不幸中の幸いなのは、衆道の暗黒面に堕ちなかった事だろう。
リクと組めば、孤児院に薔薇が咲き乱れたのだろうが、生憎とウェルの性癖とは違うので、そんな未来は打ち砕かれる。
リクの魅了はパッシブとアクティブがある。なお、パッシブは瞳を合わせるのと、視線を向けておくものの二つだ。
どちらも好感度を上げ、言う事を聞かせやすくする。
アクティブは信用度を上げて、行動の自由を縛る。パーソナル・スペースに踏み込みやすくなり、見知らぬ他人でも、友人として扱うのだ。
パッシブとアクティブはオン・オフが可能。出来ない異能だった場合は、一定の使用料を取られてしまう。
魅了という異能は、リクと言う存在の認識力を変える。他人からの第一印象や、個人ごとに異なるカッコよさに補正を掛ける。
パッシブだが、これに使用料は掛からない。意図的に容姿へ影響を与えているなら兎も角、自然体のままなのだから、各個人の好みの印象は千差万別だ。
更に、触れるだけで友好度や好感度が上がる。アクティブの一種だが、これは根底に前述の印象補正がある為、使用料は発生しない。
素手での攻撃や近距離武器による攻撃、盾や武器で防御すると言った、ある程度の距離内における直接的接触でも、好感度が上がる。敵味方、モンスターを問わず上がるのだ。
印象補正による持続的な接触のお陰で、人間関係でのヘイトは溜まりにくい。
また、視線を感じた相手は、最初こそ少し不愉快になるが、一定時間が経過すると、注目を浴びる事で高揚していくのと同じようになり、リクからの視線以外でも動じなくなっていく。
故に、長時間モンスターを監視するだけで、そのモンスターがリクを狙わなくなる可能性が高まる。
もっと言うと、モンスターを自分の仲間に、出来る可能性も出てくるので、ソラと若干キャラが被ってしまう。
ただし、ステータスは見れないし、弄れない。
リクは魅了を使っている内に、好感度を上げるだけでなく、下げる事も出来るようになった。
それから、感情を固定化して、好感度や友好度を、上げないようにも出来た。
好感度が上がらないまま、ちょっとした接触や挨拶を繰り返していくと、相手の感情とは裏腹な言動をとる。やがてメンタルが限界に達して、自分の気持ちを整理しようと自己防衛が働き、リクとの距離を取り始める。それでも挨拶をしたり、仕事で向き合っていくと、メンタルが限界を超えて気絶する。
気絶から復帰すると、リクのストーカーを始める。また、ヤンデレになって独占しようとする。
そこで好感度を大きく下げると、執着心を無くしていき、ストーカーやヤンデレ、メンヘラとなる以前の状態に戻る。が、それでもリクが視界に入ると目で追いかけたり、やはり気があると思うようになる。
ちょっとした天丼やループに陥るが、相手のメンタルはループするたびに頑強となっていく。
相手本人も知らぬ間に鋼のメンタルを持つのだ。
精神的強さは、意思の強さに直結し、異能や魔法の威力を上げやすくする。精神的防御も強くなり、トラウマすら克服出来るようになる。
ちなみに、老若男女やモンスターが、性格に一切関係なくストーカーとなるので、リクは脚力が上がった。
ある日、呪われた武具から誕生したリビング・アーマーを相手に、スコップで近接戦闘の練習をしていると、呪いがリクの魅了によって愛へと変化した。
呪いとは怨みや妬みと言った負の感情が多い。それを固定化して好感度を上げ続けた結果、メンタルが限界を超えて、愛情や友情と言った正の感情へと変化し、
リビング・アーマーは敵に襲い掛かるモンスター。中身は無い。
言わば、自由意思の無い九十九神であり、害意しか持たないインテリジェンス・アームズの一種だ。
変化した事で必然的に、インテリジェンス・アームズへと成り、主人と認めたリクに使って貰う為、装着して一つになろうと追い掛ける。
塩と鉄の鎖の結界は、インテリジェンス・アームズに対して意味をなさない。
リクはソラからインテリジェンス・アームズの剣を借り、甲冑型の接近を阻む。
その間にカイが甲冑の意思を奪い、ソラが捕獲しようとするも、甲冑は強奪済み、捕獲済みのままだったので、リクは抵抗虚しく甲冑に捕食されてしまう。
ストーカーの如く付きまとい、ヤンデレの如く物理的に一つになろうと、甲冑が自動的にリクの服の上から装着されていく。
装着時の感触は、全身を舐め回して視姦し、撫で回していったそうだ。その後、穴という穴に霊的な触手が入り込み、リクの快楽が限界に至るまで責め続けた。
端から見ると、甲冑を着込んだリクの身体が勝手に動き回り、口や股から体液を垂れ流し、ポルターガイストの様に地面から浮いていたと言う。
剣のインテリジェンス・アームズは、甲冑の意思に
以降、イカ臭い剣と甲冑はリク専用となる。整備の際等を狙い、コンビでリクを襲うようになったとか。
ソラの捕獲は自我がある存在なら、技量に比例して捕まえられる。ステータスも弄れるし、半自動モードでの行動も設定出来る。
だが、自我が無いモノ、武器や日用雑貨は、所有者が持っていたモノしか捕獲出来ない。その上、道具のステータスや品質は弄れなかった。
リビング・アーマーやスケルトン、インテリジェンス・アームズにオートマトンは自我や自我に準じた思考を持つので、捕獲対象となる。
スケルトンは生者を憎む。ゾンビは生前の怨み
怨みや妬みは積もると呪いとなり、怨念を浸透させて生者を狂わす。
呪いと似たようなモノに、正義や狂信がある。個人的な正しさを押し付けるあまり、道徳すら悪と見なす。
強い
依存するのだから、固執してしまう。得る為なら何でもする。
中毒性や依存しやすいモノは、一時的快楽を得るものの、効果が切れると再び得ようと手を出す。結果、幸福感から現実への怨み等の感情へ変わり、魂や肉体へも残りやすくなる。
肉体に残る執念が、ゾンビやスケルトン。魂由来の怨みがレイスへのモンスター化となる原因だ。
一見して自我は希薄だが、感情が宿っていれば、それはやがて意思に近づく。だから無機物の剣にも魂が憑き、九十九神であるインテリジェンス・アームズに成る。
亜人とモンスターの違いは、相互理解が出来るか否か。最初はこちらの言葉を理解出来ないモンスターでも、時間を掛けて学習させていけば、出来るようになる事がある。その場合は、モンスターから亜人に種族が変わり、ナノマシンの注入や装備品等で保持をしなければならない。
モンスターから国民へのクラス・チェンジを拒否するなら、即座に屠られる。勿論、ナノマシンの代金が払えないなら借金生活だ。
亜人も人間も国民である以上、住む土地のインフラは軍隊が先頭に立って整える。ダンジョンは冒険者と共同で狩る。
亜人になれば、次世代からは異能も発現する。当代では一番得意な魔法を、異能としてナノマシンに刻む事が可能だが、当然ながら料金はとても高い。その上、使用料も取られるので、亜人になったばかりの存在は、基本的に魔法や武術しか使わない。
ある時、ソラは武器にゴーストを宿し、自我を確立させようとした。インテリジェンス・アームズの量産が目的だったが、霊体が憑依しただけでは、霊体の自由度しか成長しなかった。ポルターガイストの応用で、宿った武器を動かしていくのだ。
そこから成長しても、精神生命体モドキにしかならず、生き霊の強化版であり、受肉前の天使や妖怪には及ばない存在だった。
実体化出来るのは、武器に自然と宿った精神だけ。量産したければ、リビング・アーマー等のウェポン系統を、リクの魅了でメンタル・アップグレードしていくしかない。
その場合、下位のインテリジェンス・アームズとなるが、リクにしか扱えなくなる。
マリ曰く、インテリジェンス・アームズも亜人になれるそうだが、本人の意思が優先される為、亜人化したインテリジェンス・アームズは少ないらしい。
また、リク専用装備といえど、管理出来る武器以上をインテリジェンス・アームズにしていくと、インテリジェンス・アームズ同士で喧嘩したり、似た武器や防具は強い方へ勝手に統一されていく。
詰まる所、強化用の餌となるだけなので、メンタル・アップグレードまでの時間が、ほとんど無駄となるのだ。
リクだけしか得をしない上、リクを囲むインテリジェンス・アームズは、そのままハーレム要員となる。
ソラとしては面白くない。
何故なら、リクが自分やカイへの好感度をマイナスに設定し、逆方向へのメンタル強化の実験台にされているから。
嫌悪感に苛まされつつ、同じ孤児院での生活や職場で、絶えず顔を合わせていく。時にマリや濃紺の指示で、またはギルドでセットとして利用される。
限界を超えると、ソラはリクを意識してしまうが、顔には出さないように気を付けた。
同じくらい思っているカイを内心で貶し、リクの収入が低い時に嘲笑う事で、精神の安定を図る。
お陰でイヤな性格をしていると、仲間の孤児からやギルド員からも誤解される。
だが、インテリジェンス・アームズに襲われるリクを見て、独占欲に駆られた。
「糞尿とイカ臭さで吐き気がする」
「……慣れないのはどうしようもないか。やっておくよ」
搾られたリクの後始末をカイに押し付け、インテリジェンス・アームズ達と話を付けると、寝込みを襲う。
「リクは私のモノ」
「いいえ、私達の所有者です」
「所有者である以前に、私が捕獲済みなの。つまり、あなた達インテリジェンス・アームズも、私のモノ」
「横暴な」
「リクは渡せないけど、子供は別よ」
「……なるほど、子供に仕えろと? 間接的に所有者へ仕える形となるか」
「あぁ、それは分かりますね」
剣型は前任者である冒険者の家系に、代々使われて来た為、冑型よりも早く納得する。
「アームズの上下関係は任せるわ」
「ほう、私達の増員は認めるのですか」
「えぇ、リクの魅了は抑制が難しいし。下手に暴走されても困るからね」
「所有者の性欲管理、増員の統制。次代への継承。悪くない話です」
ソラとインテリジェンス・アームズ達は、こうして共生関係を築く。
知らぬ間に、リクの人生設計は、墓場行きのレールを敷かれていた。
「うぅ、太陽が黄色い……」
「おや、まだ余裕がありそうね」
「ごめんなさい、何でもしますから、許して下さい」
「ではもう一回」
「……それ以外でお願いします」
「ん? 何でもするって言ったわよね?」
「し、死んじゃう」
だが、リクは魅了のパッシブを自己暗示として用いて、なんとか切り抜けた。ソラの瞳に映った自分の状態を固定化し、ソラの意識が飛ぶまで責め立てたのだ。
「凄いのがきた……リクの子を産む。五人くらい」
気絶から目覚め、ソラはがに股になると、毛布の上に卵を産み落とす。
ソラはハーピーの亜人と人間のハーフであり、総排泄膣から無精卵を産む。
翼は無い、骨格も人間に近いので、ハーピーよりも頑丈。
無精卵を産むようになってからは、孤児院の食事が豪華になる事もしばしば。
「有精卵」
「真顔でウソを言うな。無精卵だろうが!」
心臓に悪いハーピージョークだが、このままでは本当に有精卵を産む事となる。
「焦りもしないなんて生意気ね。メイル、ショート、やってしまいなさい」
「インテリジェンス・アームズの名前、安直すぎないか!?」
見張りをしていたメイル達が、部屋へと乱入する。
「さぁ、マスター。お風呂の時間です」
「ポーション各種もありますよ。あと肉も」
「ひっ、ま、待って。本当にもう限界なんだっ」
抵抗虚しく、リクは食事と入浴行為を強制された。
蛇足だが、子供同士での性的なモノや同棲は、財力や生活面が安定しているなら、特に止められたりはしない。
孤児院では壁ドンされたりするので、濃紺からは控えるように注意された。
ソラは身仕度を整えると、同世代の少女である、クウを探しに裏庭へ向かう。
銀や鋼等、光沢のある色を基本とした、輝く土色をした髪。それをゆるくカーブさせ、肩程で切り揃えている。
服装はポケット多めのオーバーホール。農作業に従事しつつ、毒草や木の実、クズ石を拾うそうだ。
魔石を肥料にしたり、異能で岩を石に砕くので、そういったクズ石を拾い、加工して装飾の一部を作る。
木工品を作る子と共同で、デザインと収入を折半し、孤児院にもお金を入れていく。
クウはスライムと人間のハーフ。石や草花を口以外でも取り込み、全身や手足をゲル状に変形させたり、触手化して僅かな隙間からも侵入出来る。
「いたいた、クウ。ちょっと聞きたい事があるの」
「ん、ソラが来るなんて珍しい。何?」
ソラはクウに、卵の殻を手渡しながら、カイをどう思っているかを問う。
「異性として? まぁ、普通かな」
「毒草を盗ったのに?」
「オヤツ兼武器だけど、鮮度が古いヤツだったし。あの程度は拾えるから。異能に頼らないようにする為だって話も聞いたし」
ソラも、異能が使えない場合の対処法は考えてはいる。だが、現状では思考止まり。わざわざ使わないで廃人達を捕獲するのは、育成や選別に時間を取られるので、正直手間だ。使える時に使う、使用料がギルド持ちなら、積極的に利用していかないと、損をした気分にもなる。
が、強奪の風評被害もギルドでは根強くあるので、カイの努力も分からない訳ではない。
「私の異能も、使えない時が来る。方法は兎も角、魔法が習えない今、異能も制限されると、武器や格闘に頼る事となる」
孤児院の子供達の異能は、濃紺達が使用料を払っているから使える。
少しでも稼げるなら、使用料に充てるが、小遣いは欲しいので、内訳はほとんど濃紺やマリの資金から、と言う子供も多い。
異能が使えないと困る子供こそごく一部だが、魔法が未習得である以上、冒険者見習いでの清掃活動でしか稼げない。
異能の熟練度やら理解度が低いと、異能の効率的行使も難しい。かといって、使用料は決して安くはなかった。
孤児院の教育方針上、魔法より格闘技なので、簡単に倒せるモンスターの討伐以外では、生産や加工に対して使える異能持ちが、冒険者の次に稼げる。
要は自身が持つ異能を、応用した使い道へと至るまでの、発想が試されているのだが、そんなものは言われなければ気付けない。
強者としての狂った経験が、配慮とかを常識の外側へ投げ捨てているのに、マリ達保護者は気付かない。
この世の常識を教えても、新しい土地とともに元居た住民も転位してくる世界だ。盗賊やモンスターも出るし、国境付近では戦争も起こる。
ダンジョンに喰われ、モンスターの暴走に巻き込まれ、強者同士の戦闘において、巻き添えで淘汰されやすい。
死ぬ時は何の脈絡も無しに死んでしまうし、国や強者の思惑が絡む事もある。
この孤児院だからこそ、死亡率は低いのであって、外に巣立てばあっさりと散る子供も多い。
自衛手段がある内は、餞別の短剣を使う暇も無い。戦闘力を見誤って、モンスターやダンジョンは勿論、その辺のチンピラに絡まれたら、集団で潰しに来る事もしばしば。
子供相手でも、殺害の物証を隠して、口裏を合わせれば、警察は事故で片付けてしまう。
死体が新鮮なら臓器移植の転売、生け贄や供物として召喚の材料にもされうる。
「異能の自己鍛練のせいか、カイは変人扱いされやすい。自業自得なんだけど、その辺も含めて接する人達の印象はマイナスよ」
クウは卵の殻を砕いて、掌から吸収していく。
「ま、異能が悪いのだから、第一印象を悪くしておくのも分かる」
底辺の 評価を上げるのは、ギャップによる補正が不可欠だろう。不良が野良猫の世話をするような感じだ。
底辺なら、多少の悪さをしてもマイナスのまま評価される。どうしようも無いと見切られたら、即日で解剖されるだけ。健康な臓器は売れるが、労働力としては世話するだけ無駄なのだ。
「難癖つけられやすいけど、カイは自分の異能と向き合っている。じゃなきゃ、馬鹿正直に自己申告する筈もないし。異能に頼らない方法で、盗む事をする必要性も無い」
クウはおろか、ソラにも真似は出来ない。損しかしない生き方にも見える。
生まれ育った村から出て、わざわざ孤児院に住む。風評被害を覚悟で冒険者ギルドにて労働をする。
挙げ句、異能に頼らない方法の模索に実践だ。
精神がおかしい。普通は使わないようにするし、異能も隠す。
積極的に使う意味も意義も無いのに、異能を使える職場と監視、必要最低限の生活環境を掴みとった。綱渡りな運と行動力。
借金まみれだったものの、結果的にギルドが潰れたので踏み倒したし、強者の庇護下という悪運もあってか、卒業まで生き延びた。
普通は搾取されて死ぬ。どんなに隠蔽しても、いずれはバレるもの。方法は多種多様だし、ろくな死に方をしない。
それこそ、山に埋められるか、ダンジョンの餌か。
それくらい強奪という異能は強力すぎる。
少なくとも格下は瞬殺。初見殺しに徹すれば、その辺で冒険者や商人の死体の山を築けるだろう。
使用料がネックなのであって、異能を買い取れば、ほぼ無双っぽく振る舞える。
まぁ、ウェルや濃紺クラスの強者と出会えば、速効で幕引きだ。
強者へ連絡される確率は高いので、カイの人生は短命だっただろう。
「嘘つきの究極は正直者。なら、カイは少なくとも馬鹿正直な、頭の弱いヤツ。見た目は普通。接した印象はマイナス」
「つまり?」
「好みじゃない。と、普通は思う。でも、異能と向き合える内面的強さを、私は理解出来る」
クウは裏庭の畑を指差す。
「地味な作業程疲れる。単調な仕事、単調な生活リズム、その繰り返しな農作業。でも、無いと皆が困る。微々たるモノだけど、無いよりはマシ。カイは自分の異能から逃げなかった。その努力や考え方を否定すると、私の畑はいらない事と同じだよね」
手間暇掛けて、農作業をするのと、遠回りな回答に至ってでも、自分の人生を切り開く。ニュアンス的に同じようなモノだと言う。
カイが聞いたら、農作業と同列なのに、評価はマイナスなのか。と、ため息を溢すかもしれない。
「地道な作業も出来そう。労働力的に確保しておくのもアリ」
クウの目標はフード・ロス手前まで安定的な生産をする事。
要は生産職であり、後方支援のノウハウも知りたい。
濃紺から聞いた兵站関係は、軍事に関するモノが多く、デポや規格統一、滷獲運用等、農業には応用が難しいモノばかり。いや、農作業のノウハウもあったが、土木工事や盛り土を利用した土嚢の手際は、ちょっと違うような気がする。塹壕やら泥濘の地形戦術は、こちらの数が圧倒的に足りない。
「……胃袋を掴んで、財布の紐も掴むのね」
「支出が大きく、収入は少ない。でも、供給元なら暮らしていける」
ソラはクウの言わんとする事に同意する。
「逃げないように気を付けて」
「分かってるよ、早い者勝ちだし」
そうして別れ、クウは雑草をつまみ食いしていく。
夜、クウはカイの部屋に押し掛ける。寝る以外はあまり使わないのか、服や埃すら散らかっていない。
突然の夜襲を受け、カイは咄嗟に棒を横へ振り抜く。
が、クウは打撃を受ける部分をゲル化させて、ダメージが入らないように威力を分散させていた。
間合いを詰め、カイの口を塞ぎつつ、ゲル状の手指を押し込み、無理矢理口腔内に侵入させていく。
頬の裏を伝い、喉頭蓋をこじ開けて食道と胃へ、己の手指を流し込む。そうして、物理的に胃袋を掴んでいく。
「私のオヤツを盗った罪、食い物の怨みは消えないの。濃紺様が罰を与えて許しても、私のオヤツを盗った事実は消えない。だから、あなたの人生を奪う」
足で足を封じ、反対の手指で尻を狙う。
肛門にS状結腸を圧迫しながら、大腸を掌握していく。障害物となる便はゲル化した手指で吸収し、クウの体内へと移動させる。
それでもクウは、ほとんど排泄しない。食物繊維すら溶かして、細菌とはある程度共生していく。
だから、毒を体内に蓄えたり、唾液に特定の血中成分を、高濃度で混ぜたりも出来る。
カイは上下の口から、亜鉛や脳内麻薬を浸透させられ、次第に多幸福感に支配されていく。
更に一部のゲル状な触手が、尿道や前立腺、睾丸へと這い寄り、拷問染みた快感が神経を焼く。
それでも長い時間が経過すると、カイは白目を剥いていた。
真綿で首を締め付ける様に、体力と精力が減少する。クウから口移しで水分と気力を補給され、自前の異能をキャンセルし、発現による失敗でクウの精神力を削るも、吸収するエネルギーの方が大きい為か、全く離れる気配がしなかった。
「カイ、すぐに卒業するから。もう少し待っていて」
「……うぅ、もうお婿にいけない」
クウは金玉をマッサージする。
「私から逃げられると思うな。この中身のミルクは私のモノ」
胃袋と金玉袋、それに財布も握られ、墓穴も掘ってある。クウに回り込まれた以上、カイは逃げられない。まさに土壇場だった。
「ねぇ、クウ」
「お姉ちゃんをつけろ、こそ泥っ!」
強奪の異能持ちだから、こそ泥扱い。
「ク、クウ姉ちゃん。僕、稼ぎが少ないから、傭兵になる」
「手柄を立てて、部隊を率いるのね?」
「戦場で生き残り、落ち穂拾いで稼ぐんだ」
剣や矢が盗み放題。敵対勢力の情報も売れるだろう。
ダンジョンの次に、戦場が稼げるとも言われている。
ただし、生き残らなければ無意味。ダンジョンの外側なので、リ・スポーンもしない。
「……入れ違いで死んだりしたら、クローンにして、さっきよりも凄い事をする」
「待って、それは本当に耐えられないから。クローンでも死んじゃうから!」
「無事に会えれば……考えておこう」
何故そう切り返すのか、それは無事でも、酷い目に合わせると言う事なのではないのか。そう思い、カイはドン引きしてしまう。
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