第6話 甘く見て、舐めた真似した末路

 ダンジョン・コアと出入口に待機していた廃人達を回収し、カイ達はギルドへと帰ってきた。

 溶かされた冑や剣は戻らないので、衣服は肌着だけだ。

 死に戻りを前提とするなら、事前にチェック・ポイントを設置し、登録して、記憶データをインストールしなければならない。

 チェック・ポイントは箱型や円盤型があるが、設置には報酬金の半分を天引きされる。攻略に失敗したら、借金しか残らない。

 なので、設置する冒険者や攻略者は少なかった。

 必然的に、脱落者が出たら撤退するか、全員が倒れるまで進むか、となる。いずれにしろ、ダンジョンの出入口に戻るので、全滅しても原因が分からないだけで済む。

 記憶も消えるので、如何なる陵辱や恥態に晒されても、発狂はしない。

 ただ、原因や脅威が分からないと、何度繰り返しても攻略は不可能。

 パーティーの連携や、仲間内の相関図もそのままなので、借金だけが増えるのだ。

「ダンジョンの討伐、完了しました」

 受付嬢に報告するリク。

「はい、コアも確認しました。お疲れ様でしたね」

 ウェルの方を見て受付嬢が労う。

 おそらく、ウェルが手取り足取り指導しつつ、全面的に手助けして攻略した。とでも思っているのだろう。

「いえ、私は何もしていませんよ」

「強者の方は、何もしていなくとも、弱者の手助けになる事があります」

 虎の威を借る狐の様に、その場に居るだけで、弱者は格上を倒せる。

 確かに、そういう事例はあるが、強者に寄生するだけでは、早死にするのがこの世でもある。

「……ギルド・マスターに話しがあります。神官のウェルがアポイントメントを取りたい。という、その旨を伝えて下さい」

「しばらくお待ち下さい……」

 報酬金と素材の売り上げを、カイ達三人へ渡して、受付嬢を待つ。

「ウェル様の取り分は?」

「ほとんど見ていただけの付き添いに、取り分を要求する資格はありません」

 アドバイス料を要求する事も出来るのだが、その程度のはした金、強者にとっては雀の涙でしかない。一日に十回もアドバイスをして、漸く銀貨一枚か二枚。

 教導官でも無いのに、強者というだけで他人を指導する等、面汚しも良い所だ。

 弟子なら師匠としての懐の深さを教えるが、孤児の後見人ではほとんど赤の他人。親が子を殺し、子が親を殺すのだから、血の繋がりはルーツでしか無くなる。

 安易に頼れないならば、独りでも生きていける様にするだけ。

「ウェルさんだけ、マスターがお会いになるそうです」

「ふむ、しばらく待機していて下さい」

 カイ達へギルド内での自由行動を許し、ウェルはギルド・マスターの部屋へ向かう。

 受付嬢のノック後、マスターが横揚に入室を許可する。

「ウェルさんから要件があるとは珍しい」

 老いて尚屈強さを残す大柄な体躯に、額の傷が目立つ顔。

 威厳や貫禄を漂わせる為の人選で、どこの支部でもギルド・マスターは、舐められないような人物が勤めている。

 だが、ウェルには通用しない。

 攻略者や冒険者のトップ程度、戦場の強者と比べたら、威圧感や風格が乏しいものだ。

「ウチの孤児である、カイとソラ。二人を正式に雇って頂きたい。あと、リクをどこかのパーティーに預けたいのです」

「自立への支援か。これ以上は難しい。リクという冒険者はどうにでもなるが、パーティーに馴染むかどうか。カイは異能がダメだし、ソラはまだ成果がきちんと出ていない」

 リクの異能である魅力は、パーティーの瓦解を招きやすい。

 カイの強奪は、善人や人畜無害を取り繕っても、信用を得にくい。

 ソラは結果が出るまで、まだまだ時期尚早。廃人でも戦力にはなるが、選り好みが過ぎる。平均を出す以前に、選抜していては、それは無作為の編成とは言えないからだ。

 ギルドが欲しい成果と、ソラが望む戦力は、相入れない結果しか出ない。討伐にしか使えない戦力を纏め上げても、汎用性が無いのでは無意味だ。

 人的資源である、廃人な冒険者というモノは、そこまで割合が多い方でもない。工面するのも一苦労なのに、厳選されては堪らなかったりもする。

 それを言っても討伐以外では、使えないのだから選り好みをするしかなく、ギルドの要求水準は無理難題だった。

 遊兵化した廃人な冒険者で、オールマイティーな活躍を可能にしろ。

 自我が薄いのに柔軟な行動をさせるとか、身体が覚えた経験だけでは無理だろう。

 ギルドがソラの異能を、手放す気が無いとも取れる。

 カイの場合は、異能を使えば神聖魔法での、解呪が不要となる。装備を外すという工程で、金を毟り取るのだが、それが機能しなくなるとギルドの収入が減ってしまう。

 カイとソラの異能はギルドで使い潰し、本人が得るべき利益すら巻き上げていく。敵対される前に、契約でがんじ絡めとする事で、ギルドの利権を守るのだ。

 当然、順当に成長すれば、戦闘力の序列も上がり、挙げ句の果てに強者へと至るもの。

 そうなってからでは遅い。故に飼い殺しとなる。

 それを良しとしないのがウェルであり、彼等の保護者。

「それが答えですか」

「縁故雇用染みた職の斡旋に、異能の使用料を逐次支払っている。ギルドの懐は芳しく無い」

 ウェルはギルド・マスターのデスクへ近づき、右手で軽く叩く。

 それだけで、木材と紙切れが舞い上がり、大量の燃えるゴミと化した。

「ならば此処を潰しましょう。それでお金と人事は精算出来ます」

 余りの事に茫然としているギルド・マスターを視界から外し、端末機を起動させる。

 コール音と人物のホログラムが、ウェルの隣に立ち上がり、少し経つと人物の画像から映像へ切り替わった。

{おや、何か用かい?}

「濃紺。この街のギルドは潰す事にしたわ。教会から飛ぶので、カイ達を迎えに来て下さい。冒険者や職員が暴れるようなら、政府への見せしめもお願いします」

{政治家に宜しくと? まぁ、何とかするが、人はどうするんだ?}

「教皇様にでも頼みます」

{ちゃんと帰って来いよ? 俺だけじゃ面倒見切れないからな}

 不穏極まりない会話に、ギルド・マスターが割って入る。

「ま、待ってくれ!」

{……黙れ。ウェルに対して舐めた態度を取ったから、そこを片付けると言う話しになっているんだ。大人しく荷物を纏めておけ}

「私の事を、調べた上での対応にしては、少々度が過ぎます」

 組織としての利益、個人としての未来への展望。確かに譲れない部分ではあるが、それも命あっての物種。組織が存続する事を前提にしたならば、余りにも浅慮だった。

「強者と言えど、百位以内ならばありふれているだろうがっ!」

「……まぁ、そこそこ居ますけど」

{何だ、調査不足か。ウェルは九位だぞ}

「……ひ、一桁!?」

 確かに、十位以内も百位以内の内訳には入る。だが、一般的に十位以上は隔絶した強さを持つ。

 国家を相手に、一人で戦えるのだ。

 都市や大陸を消滅可能なのが十位以下、百位以上。ならば十位以上は惑星すら砕けると謂われている。

 ギルド・マスター程度では、止められない。

 そうした強者同士が戦場で戦い続ける為、余波で近隣の村や街、山に川は崩れてしまう。

 其処へ拡張された土地が現れる事もあるので、週毎に地図が更新される地域も少なくない。

 人為災害もあるが、自然災害も多発するので、復興も簡単ではない。

「政治家でも役人でもなく、貴族や王族でもない。ましてや軍人でもない。ギルドとは組合であり、互助会や自治体を総合したような組織です。つまり、企業会社の分類になりますね」

{一つの会社の責任問題で、国や市町村が消えるんだ。強者を軍隊に組み込む以上、国家の暴力装置と物流の一部が、委ねられているも同然。当たり前だが、物流も押さえているから、更地にするも都市を作るも可能だな}

「政府に泣きつく暇も、ギルドの関係者への謝罪も、与えません」

{そんじゃ根回しとか、しとくぞ}

 蒼白で立ち尽くすギルド・マスターを尻目に、濃紺との通話が切れる。

「国を跨ぐギルドも、マリア教と全面戦争や、経済戦争をする余力は無いのでしょうに。判断ミスでしたね」

 ただの強者なら、まだ揉み消せる可能性はある。しかし、ウェルは宗教側の人間でもあるので、コネで圧力を掛ける事も出来た。

 きちんと情報を集めて精査していれば、凡ミスからの真っ逆さまは起きなかったのだ。

 百位以上の強者、政府も恐れる実力。それらはほんの一部分に過ぎない。

 ウェルは、元教皇直属の隊員。これが意味する事とは、教皇や同僚のコネがあると言う可能性を示唆する。

 低確率で精度や信憑性が低いとしても、噂程度の可能性は切り捨てるべきではない。

 その噂にすら対処出来る様にするか、抑止力となる代替案を用意しておくべきだった。

 もしくは、不利益を受け入れる覚悟を示すか。

 舐められたらギルドはやっていけない。その程度の面子に固執した結果、ギルドが無くなっては、ギルド員やそこで受注した冒険者、依頼人達はいい迷惑だろう。

 プライドや誇り、面子、矜持、それは強者が主張出来るモノ。

 弱者の烏合の衆が、集団となって纏まり、その代表が自分も強者と錯覚し、権利があると言っても知った事では無い。

 本物の強者には通用せず、反感を買って叩き潰されるだけだ。

 ウェルの対応は、比較的穏便な部類である。根回しや通告も無しで、死体となるのが圧倒的に多い。

 警察や軍隊は強者の味方。下手に手出しして損害が大きくなると、他国から攻め込まれてしまう。

 特に十位以上は、同じか上の序列でないと、制止も交渉も難しくなる。

「これを聞いている職員も冒険者も、荷物を纏めて出て行きなさい」

 端末機をマルチタスクで起動させていたので、政府やギルドの職員へ、一方的な通告となってしまうが、説明や責任、釈明は繰り返さないで済む。

「ギルド・マスターもさっさと出なさい。その席はマリア教が暫定的に預かります」

 動かないので転位魔法を使い、部屋の中身ごと外へ追い出す。

 そうして、ウェルが出入口付近まで戻ると、受付ではギルド員と冒険者が揉めていた。

「濃紺が来るまで、外で自衛してなさい」

 カイ達へ戦闘の許可を与え、返答も待たずに進む。

 その間にも、向かって来る冒険者やギルド員の一部を、召喚魔法の応用で在らぬ方向へと弾き飛ばしていく。

「……肉片と骨、どちらが良いかしら?」

 尚もやって来る冒険者や職員を脅しつつ、飛来する異能を異能で相殺。

 生温い戦闘だが、次第に攻撃の勢いも失くなる。

 その隙に、田舎から近い都市へ転位し、マリア教の教会前に出た。

 礼拝堂の奥に飾られている、女神像まで近づき、シスターを無視して十字架を翳す。

「教皇の部屋まで導け」

『正十字、認証。音声、魔力パターンから獅子心と一致。隊員としての復帰を--』

「--黙れ。まだ戻るつもりは無いわ!」

『……ゼロ様からの頼みですが?』

「むう、ほ、保留よ。さっさと直通回線を繋ぎなさい」

『了承しました』

 女神像から機械音声が出て、ウェルと簡単なやり取りをする。

 管理しているシスターも知らない機能を平然と使い、あまつさえ教皇の部屋に向かう様子を感じ取り、神父やシスターは唖然としていた。

 ウェルはその辺の司祭や司教と違い、教皇本人が聖別した十字架を持つ。無論、量産品では無く、教皇の魔力と名前が刻まれたモノ。

 中央の枢機卿でも、持つ者が少ない代物であり、教皇から信頼されている証でもある。

 非常時にはマリア教の戦力である、神兵の一個大隊を指揮する事も可能だし、平時では機密文書の閲覧許可とかに使われる。

 そして、教皇への謁見も簡略化出来た。

 ウェルが光に包まれた後、再び場所が変わる。

 書類の束が左右に山と積まれた机、使用人兼護衛が背後の扉に居る。

 椅子に座って判子とサインをしている人物が教皇。ではなく、影武者にされた司教だ。

「また脱走?」

「清掃員のアルバイトに行ってきます。という置き手紙がありました」

 司教の男性は泣きべそをかきつつ、教皇の筆跡を真似てサインする。判子さえ本物なら、サインは誰でも良いし、判子を押すのさえ誰でも良い。偽造と騒いでも、教皇をやりたい人は居ないし、教皇と認められるには、相応の実力も要る。

「マリ、エル様の居場所を知らないか?」

 護衛であり、影武者の監視役もこなす男性が、ウェルの本名を言いつつ問う。

「部外者の私が知る訳無いでしょう、虚無ゼロ。トイレや窓の清掃員は調べたの? あ、司教様、影武者お疲れ様です」

「マリ様、帰って来て下さい……」

 司教の泣き言を無視し、教皇直属の護衛である虚無へと向き直る。

 元々はマリも護衛の一人だったが、直属の割りに出し抜かれる事も多く、気付いた時には教皇不在がしばしばあった。

「そうそう、住んでいる所のギルド潰しちゃった。訓練生でも見習いでもいいから、人を寄越してくれない?」

 昔を思い出して少し憂鬱になりかけるも、こちらの用件を言う。

「教皇様を捕まえたら、解散した部隊でも孤児でも、クローンでも用意してやる」

 何やってくれてるんですか。と、司教が肩を落としているが、虚無はため息を吐きつつ、マンパワー提供への交換条件を出す。

ベネ良し。前回は何処だったっけ?」

「帝国の田舎で駄菓子屋やってたな」

「前々回は、此処のシスターに化けてましたね」

 司教と虚無の情報を聞き、ウェルマリは思案する。

 教皇は捉え処がなく、逃走阻止が不可能に近いので、直属の護衛が見つけて連れ帰る。その為の護衛であり、教皇が自由に動かせる戦力ではなく、教皇を自由にさせない捕獲部隊だ。

 捜索範囲は惑星丸ごと。尚且つ、教皇本人が強いので、ただ見つけても逃げられてしまう。

 マリや虚無といった強者を当てなければ、逃走は教皇が飽きるまで続く。

 脱走自体は教皇の息抜きでもあるが、スケジュール管理が大変だったりしたので、マリは部隊を一時的に抜けたのだ。

 生半可な茶番では人事部が納得しないので、定番化しつつある濃紺との決闘で相討ちを繰り返し、濃紺と結託して療養がてら、孤児院の管理人に派遣して貰う。

 それで今は部外者と言えるが、虚無からは一抜けした奴と、見抜かれている。

 アルバイト先も幅広い、工場のラインから警備員、駄菓子屋からシスター、清掃員から農家の手伝い。船に乗っていたり、ダンジョンの攻略者をしていた事もある。

 正直、プロファイリングしても予測幅が大きいので、宛てにならないのだ。

 移動速度も、変装も早い。演技も上手く、人格を使い分けられる。

 筆跡に声のクセや歩き方もバラバラ。

 だが、強者特有の欠点はある。

 命の危険が伴う場合、猫被りを止めて一瞬だけ本気を出し、相手を排除するのだ。

 基本的には、不測事態への予備プランを用意するのだが、一般人に擬態する以上、防御や攻撃手段は最低限なので、とても死にやすい状態だ。

 まぁ、無防備でも素のステータスが人外並みなので、遅れを取っても挽回出来る為に、弱者では捕まえられないのだが。

 不意討ちやガムシャラな攻撃で、倒れる強者も多い。下手な策を弄するより、真っ直ぐ行って右ストレートが効く事もある。

 なので、弱者の考えでいくと、教皇の取る手段は、二重に化けている可能性もある。

「ところで虚無、混沌カオスは元気かしら?」

「元気だ。この前召喚された時なんて、俺が勇者で、混沌が魔王な世界だったし」

 その話は気になるが、虚無に化けてはいないようだ。

「そう言えば、濃紺とは挙式するのか?」

「諸々にケリが着いたら、考えてみようかな」

「籍は入れてある。……妹さんが真似た筆跡と、署名から抜き取った名前で」

 偽造されているのに良く通ったと言うか、相談や連絡もせず、勝手に夫婦にされていた。

「え、私って既に既婚者……?」

 驚いたなんてもんじゃない。予想外にも程がある。ビックリしすぎて、返って冷静になり、訝しんでしまうマリ。

「教皇がやらかしたんだ。役所のアルバイトで」

「分かった。発見次第、必ず顔を殴る」

 司教がマリの怒気にてられ、顔を土気色にしていた。

 虚無は頷くだけで、特に咎めたりはしない。

 それくらい、大きなお世話であり、お節介が過ぎる事でもある。

「まずは、範囲を絞りましょう」

 出現した地域には、あまり近寄らないし、アルバイトの職種も被らない。

 それでも傍迷惑な教皇は、絶対に見つけ出す。便所の最中だろうと引き摺り出してやる。



「……嘘だろ? 嘘だと言ってくれよ」

{私だって嘘だと思いたいわ!}

 情報共有し、濃紺は膝を着いて落ち込んだ。

 見事な懺悔であり、隙だらけでもあったが、駆けつけたギルド内はほぼ死屍累々である。

(俺の計画、パァじゃねーか。おのれ、ネイビーめ!)

 ウェルが消えた後、カイ達が標的になりかけたが、濃紺が先行させた自前の騎士でヘイトを集め、何とか膠着させた。

 緊張に堪えきれず、足掻いて向かって来る奴は、騎士が放つ重力魔法で圧死させられる。

 ここはダンジョン内ではなく、ギルド内だ。討伐系やダンジョン系クエストを受注していないと、死ねばそれまで。

 蘇生は高額、義体やクローンに、人格や記憶を移し替えられるのも一握り。

 転生や憑依の魔法も、高い料金を取られる。

 ただの騎士なら冒険者達による数の暴力に屈してしまう。だが、濃紺の手勢は強い。強者直々の選別で、濃紺自身と連携も取れる実力者。弱い訳が無い。

 騎士に下された命令が、殲滅であったならば、誰も生き残れないだろう。

 カイ達の護衛が主なので、敵対しなければ死ぬ事はない。

 しかし、腕に覚えがある冒険者は、騎士と自分との実力差に気付けず、無謀にも挑んでしまう。

 居場所が無くなったり、そこで築いた評価がムダになる。そう言ったプライドとこれからを天秤に掛け、命を無意味に散らしたのだ。

「濃紺様、しっかりして下さい」

「リラ、ネイビーが俺を売りやがった」

「遅かれ早かれ、変わりないかと」

「順序とかプランとか、考えてたんだけどなぁ」

「ままならないものですね」

 リラと呼ばれた騎士は、灰色の甲冑を身に纏い、長剣のみを持っている。兜に手甲や脚甲、マントも灰色。声で女性だと判るが、人間か亜人かまでは分からない。

 長剣は質素な見た目だが、ガードには紫色をした、拳大の宝石が嵌め込まれている。

「ネイビーは何か、交換条件でも呑んだのだろうから仕方ない。教皇を闇討ちするか」

 周囲を警戒していたリラが、濃紺の方を向く。

「……私では無理ですけど」

「それは分かっているさ。出来る奴に頼むんだ」

 濃紺並みの強者でなければ、教皇への闇討ちは厳しい。だからと言って濃紺は動けない。

 世間的に考えても、教皇を攻撃する事案は、絶対悪となる。

 その泥を被っても、大丈夫な強者は少ない。

 少数の強者にも顔が利く、それが序列一桁だ。

「貸し借りで言うと、貸しになるが、動いてくれるだろう」

 端末機を操作し、目当ての人物にメールを送る。

「そう言えば、ウェルも動いていたな。捜索済みの範囲も送るか」

 現界における実力者が、教皇捕縛に動き出した。濃紺と同等の異能を持つ者、濃紺より魔力が多い者、武器だけなら濃紺以上の戦闘力を持つ者。いずれも強者で、悪評や世間体なんてどうでも良い存在だ。

 権力や組織力、資金力に技術力、どれにもひけをとらない。序列こそ教皇が上だが、序列だけでは技量や力量を、完全に表す事は出来ない。

 教皇とて無敗ではないし、肉体や精神が傷ついた事もある。

 今回、濃紺は元より、ウェルも激おこ案件なので、猟犬も本当にヤバい連中が動く。

 なので、普段よりも早くケリが着くし、手足がもげる位の、激しいファースト・コンタクトもあり得るだろう。

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