薄桃色の心、黒々と壊されて。【中下】

しばらくすると廊下から誰かが走る音が聞こえ、ドアがガララッと大きな音を立てて開き、お母さんとお父さん、それと弟が入って来ました。男子3日会わざれば刮目かつもくして見よ、なんて言われる通り、弟の顔は前よりも更に成長していました。そりゃあ3日の70倍もの間会っていないのですから当たり前なのかも知れません。その成長した顔には不安そうな表情が張り付いていました。こちらへ駆け寄ってきた3人を見て、まずはお父さんに「7ヵ月前はごめんなさい」と小さな声で伝えました。「いいんだよ」と泣きそうな声で返ってきました。7ヵ月振りのお父さんの声は少し老けていました。家族の次は、担任の先生が来ました。先生は家族とは打って変わって明るい声色と表情で接してくれ、学校で待っていると伝えてくれました。途中でトイレに行くと言って戻ってきた時、眼元が赤かったのは気にしない事にします。先生の次は、りんちゃんが来ました。りんちゃんは入ってくるなり私に抱きついて泣いていました。私は手を背中に回しました。手が無くならなくて良かったなと思いました。その夜は7ヵ月も寝ていたからか、なかなか寝付けなかったので、親から渡されたスマホを起動しました。「久しぶり」とでも言いたいのか、画面にSAMSUNGの文字が浮かび上がり、ロック画面が表示されました。久しぶりの指紋認証は上手くいかず、4回目でやっと成功しました。私は申し訳程度に入っていたクラスラインに「ひさしぶり」と送りました。このクラスラインは全然使っておらず、一つ前のメッセージはグループに入ってきた時の「こんにちは」という一言だけでした。そのメッセージの左側には8:34という送信時刻と既読24という文字が書いてありましたが、返信はついておらず、その真下では別の会話が始まっていました。「こんにちは」は既読が24も付いても返信が無かったのに対して、「ひさしぶり」は既読6だけで無数の返信が来ました。同じ5文字にどんな違いがあるって言うんでしょう。とはいえ何だか有名人になった気分です。『五体ほぼ満足』という自著でも書いてみましょうか。浮気しない事を心に決めながらそのまま会話をし、会話が止まった所で7ヵ月分のタイムラインを見る事に決めました。トークに戻り、画面下のタブをタイムラインに変え、少しずつスクロールして見て行きました。

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