第5話
時間が経つのは早いものだ。早すぎるほどに。
気がつけば中学2年の半ば。
夏休みにさしかかろうとしていた。
俺は茜との距離感に不満を持っいる訳ではなかった。
あれぐらいの距離が心地よく感じていたし、邪魔するものも障害も現れない。
心のどこかで安全牌だとすら思っていたのかもしれない。
だが、不意に障害は現れるものだ。
予測不可能に。
大胆不敵に。
それは放課後に起きた。
いつものように図書室に向かう俺を引き止めたヤツがいるのだ。
剣道の袴を着た藍だった。
「おーい、お前だよお前。少し時間いい?」
廊下で呼び止められ俺は答えた。
「少しなら、図書委員があるから。」
そう答えると
「じゃあ、少し付き合って。」
そう言うと足を動かす。
2、3分ほど歩くと武道館近くの階段に着いた。
そこに彼女は正しい姿勢で座った。
「さて、今週末私には年に一回の特別な日がきます!なんだと思う?」
「年に一回なら誕生日とかか?」
「正解正解!」
「では、重ねて問題です。今、あなたがしなきゃいけないことはなんでしょう?」
「えーっと、誕生日おめでとう?」
「半分正解!私じゃなくて他に言うべき人がいるでしょ!」
そう言われやっと気づく。
「茜の誕生日か!!」
「そーゆー事〜♪」
どーしよう、俺あいつの好みなんて知らないし女性に贈り物なんてしたことない。
そこまで考えた時、目の前に茜の好みを知っていてかつ女性がいた。
「頼む!」俺は藍の手首を持って言った。
「ひゃっ」なんだか藍が面白い声を出していたが気にせずに続けた。
「土曜に茜のプレゼントを買いに行くのに付き合ってくれ!」
そこまで言いきって彼女の顔を見るとほんのり赤くなっていた。
握った手首も熱くなって、そこで彼女の手首をずっと握っていたことを思い出し、俺の顔も赤くなった。
「悪かった。マジでごめんゆるして」
そう言うと少し落ち着きを戻した藍が
「タピオカ」
「ごめん、、なんて言った?」
「タピオカいっぱいで許すって言ったの!」
「分かった、じゃあ、土曜の10時に下関駅で!」
そう言って俺は立ち去ろうと立ち上がった時。
「まって、」
近寄ろうとした藍は袴の裾を踏んで倒れ込んでくる。
俺は驚いて声も出せなかったが何とか藍を支えることができた。
袴から香ってくる柔軟剤と女の子特有の匂いが俺の頬を染め上げる。
支えられた藍も同様だったようだ。
お互い本日二度目の赤面に顔を見合せて笑った。
「じゃあ、また土曜よろしくね!」
そう言って俺は次こそ図書室に向かう。
「私の肩を掴んだんだからスタバも奢れよー」
なぬっと思いながら俺はその場を後にした。
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