ニュイは玄関にあるソファーに腰掛けて館内に流れるピアノ曲に耳を傾けていた。

『マ・メール・ロワ』は童話マザーグースを題材にしたピアノ連弾組曲で、第1曲『眠れる森の美女』に始まり、『親指小僧』『パゴダの女王レドロネット』『美女と野獣の対話』『妖精の園』と続いていく。

 全曲が一巡したところで、ニュイは月見草がこのピアノ曲を弾く理由を推察する。

「これが、月見草さんのメッセージだとしたら」

 ニュイは一つの推測を立てる。――次の第2曲 『親指小僧』の曲名の由来は、ニュイが子供の頃に聞かされた有名な童話から付けられたものである。

 物語の内容は、ある所に貧乏な家庭があった。親はお金が無かったので子供たちを養うことができないと判断し、森の奥深くに置き去りにした。そして、子供たちは森に住む人食い鬼の家で一晩明かすこととなってしまう。

 命の危険に襲われたものの、親指ほどの大きさしかない一番下の弟が、その危機を乗り越えてハッピーエンドを迎える物語である。

「親指小僧、やっぱりそういうことなのか?」

 ニュイは観念したかのように、席を立ち上がり妖精の閉じ込められた宝箱へと歩み寄る。

 宝箱の鍵穴に鍵を差し入れる。そのまま捻るとカチャリと、宝箱が開く音がした。

 中には、妖精が眠っていたのか。突然の眩い光に目を擦っていた。

「……あ、あれ?もしかして、僕って助かったの?」

「ああ。もう、こんなところに隠れちゃダメだぞ」

「あ、ありがとう〜!お兄ちゃんは命の恩人だよぉ〜!」

 妖精は嬉しそうに、ニュイの周りを飛び回ると、なぜかニュイのブレザーのポケットの中に隠れ始める。

「え、ええっと。なんで、俺のポケットに隠れるの?」

「まだかくれんぼの最中なんだ。僕が一番隠れるのが上手いって、アイツらに示してやりたいから、もう少しの間だけ、僕を隠してくれない?」

「別に、構わないが」

 あの妖精2匹にあったら、なんて言い訳をしようかとニュイは溜息をつく。


 そして、館内に流れるピアノ曲は、偶然にも第3曲へと移ったことにニュイは気づいたのだった。

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