第14話 戦死
誰にでも戦わなければいけない時はある――
それは、国家の為だとか、家族の為だという理由が人によってはあるのだが、正彦達軍人にとって理由は国家と家族の為である。
だが、42部隊の人体兵器は彼等軍人にとってはあまりにも強烈すぎる。
人の体を使って兵器を作るという事は人道に外れている事、今までは桜花や回天など特攻兵器による自爆攻撃はあったのだが、それは自分1人の命を犠牲にするものであり、本来ならば安らかに眠るべきの人の死体を使う事は決してしてはいけない、彼等にとっては絶望的なものである。
(俺達はなんて事をしているんだ……)
正彦は操縦桿を握り締めながら、先程見た夢の事を思い出す。
夢の中、晴美は死装束に見える黒の着物を着て、頭に大きな穴が空いていた。
『助けて……』
晴美の腹の底から絞り出す声に、正彦はある種の疑惑が浮かび上がる。
(まさか、42部隊は生身の人間を無理矢理兵器にしているのか……? この、鬼型は……?)
「前方、敵機!」
後部座席からは、霧山の声が聞こえる。
☠️
「ヘイ、日本は多分終わりだな!」
B29の搭乗員席では、戦闘態勢が敷かれており、いつ日本軍機が来ても撃ち落とせる準備が整っている。
「日本軍機は使えるレーダーがない! 俺達はレーダーで全てがわかるし、楽勝だなこの作戦は!」
「馬鹿野郎! ジニーの部隊は一晩で5機撃ち落とされたんだぞ! しかもそいつと来たら、攻撃を仕掛けてもヒラリとかわしやがったらしいんだよ!」
「あぁ、だがそりゃ護衛がなかっただけの話だろ!? 今度はD51がいる!」
「ん!? 日本軍機だ! レーダーに反応があるぞ!」
「撃ち落とせ! ボブの部隊に連絡しろ!」
彼等はレーダーポットに写る一機の戦闘機を食い入るようにして見つめる。
「ん……!? なんだこりゃあ!? あちこちが反応をしてどれがどれだかわからない……!?」
レーダーポットには無数の光の玉が写る。
「チャフだ! あいつらチャフを撒きやがった! 総員戦闘態勢に入れ!」
彼等は食い入るようにして、闇夜に潜んでいるであろう月光を見つめる。
☠️
正彦はB29の編隊に紛れ込み、チャフをばら撒き、相手側のレーダーを撹乱した。
「これならば、向こうのレーダーは使い物にならん! 霧山、タヒ1をよく見ておけよ!」
「はっ!……右上40メートル先に敵機がいます!」
「機種はなんだ!?」
「D51です!1機います!」
「高速大馬力の戦闘機だな! B29は何処にいるんだ!?」
「200メートル上空にいます!」
正彦はヒロポンで夜目が冴えた、裸眼視力2.5の目で闇夜を見やる。
200メートル上空には、B29の胴体がくっきりと視界に飛び込んでくる。
「行くぞ! ……必ず行きて帰るぞ!」
「はっ!」
(晴美、俺はお前を守る。だから、……死ぬな! 生きるんだ!)
正彦はエンジンのスロットを絞り、高度を上げて、目の前に映り込むB29の胴体に向けて弾丸を浴びせかけようとするのだが、向こうもただ指をくわえて攻撃を待つだけでなく、機銃での攻撃を仕掛ける。
「右に逸れてください!」
霧山の言葉に従い、弾丸を右にかわし、胴体に20ミリ斜め機銃を浴びせかける。
ガンガンガン……
装甲板が薄いジュラルミンの胴体からは、火が出始めて、そのB29は高度が下がり始めていったのを確認して、機首を別の機体の方へと向ける。
「次行くぞ!」
刹那、D51の弾丸が月光の500メートル先で炸裂し、ガンガンという小気味好い音が後部座席の方で聞こえる。
「うぁっ」
霧山の苦痛に身がよじれる叫びを受けて、正彦は嫌な予感がする。
「霧山……おい霧山、応答セヨ……!」
「中尉、やられました……胸を撃ち抜かれました……! ですが火は出ておりません、敵機は……」
「霧山、応答セヨ、霧山……!?」
霧山の声は聞こえない、この状況で、霧山の25歳の人生は壮絶な終わり方をしたのだなと、正彦は悟った。
月光を狙うかのようにして、弾丸は飛び交ってくる。
(くそっ……レーダーは多分もう使い物にならないだろう……)
正彦は絶望の表情を浮かべる、それもそのはず、D51の最高速度は680キロ程、それに対して月光は560キロほどしか出ない。
(俺は、……ここで死ぬのか?)
晴美の顔が正彦の脳裏を掠める。
『逃げて……』
女性の声が聞こえて、正彦は思わず周囲を見回す。
『私があなたの脳に、レーダーの画像を見せるから、それに従って逃げて……』
正彦の目には、昼間飛行しているかのように、鮮明な明るい画像が浮かび上がる。
後ろを振り返ると、D51が一機、正彦を狙っている。
「俺は必ず生きて帰るんだ!」
攻撃をヒラリとかわし、速度を上げるがピッタリとくっついてきており、離れない。
「同速それ以上なのか……ならばこれではどうだ!」
正彦は機体を失速させる。
高速で月光を追い回していたD51は月光を追い越して上空に行くのを見計らい、照準を合わせて20ミリ機銃を浴びせかけると、火を吹いて落ちて行った。
「よっしゃ、戻るか……」
『……さ……こ……さん……い……て……』
どこかで聞き覚えのある声が正彦の耳に聞こえ、辺りを見回すが当然のごとく漆黒の闇が広がっている。
「!?」
正彦は離脱するようにして、エンジンのスロットルを絞り、基地へと帰還する進路を取る。
☠️
あたりが朝日が見え始めた頃、正彦は昴基地に命からがら帰還した。
そして、降りてすぐさま、後部座席を見やると、胸を撃ち抜かれて大量出血による失血性ショックで絶命した霧山がいる。
「霧山……」
「飛田中尉殿」
高橋は急いで正彦の元へと向かう。
「高橋、被弾した! タヒ1の様子を見てくれ!」
「……レーダーそのものが撃ち抜かれております」
「では、もうこれは増産はできないのだな?」
「……残念ながら、材料が希少すぎるのです」
「……見せろ……一体何が使われているんだ!?」
高橋は複雑そうな表情を浮かべて、正彦をタヒ1のレーダーが入っている場所を見せる。
灰色の容器には、血が滴り落ちており、フタを開けると、コードがたくさんついている100個程の人間の目玉が半分潰れたままその場に置かれている。
「……これはなんだ!? まさか、この目玉を使ってレーダーにしていたのか!?」
「はっ。……42部隊の新型レーダーです」
「……」
後ろから雑踏が聞こえて、正彦達は後ろを振り返る。
そこには複雑な表情を浮かべている醍醐がいる。
「戦果はどうだ?」
「はっ、B29一機撃墜確実です、他の機に攻撃を仕掛けようとしたのですが、被弾してしまいました、護衛にD51がつくようになってしまい、困難を極めることが予測されます……」
「いや、もうこれで月光は最後だ、残ってはいないし、増産しようにも工場がやられてどうにもならん。タヒ1なのだがな、知っての通り人間の目玉が使われており生産は難しい、使える目玉と使えない目玉があるのだ。……これからは、雷電と新型の紫電による昼間の迎撃に当たる。貴様に明日から紫電改の慣熟訓練にあたってもらう。今日はゆっくり休め……」
「はっ」
醍醐はため息をついて、司令部へと戻って行った。
(人の目玉を使って兵器を使うだと……? 許されない事をなぜ軍部は平然と行うんだ? もうドイツは無条件降伏をした、あの最先端の兵器がある国ですら米軍には勝てない、……俺たちに外道の兵器を使って戦えというのか?)
正彦はどうにもならない思いを抱えながら、とぼとぼと宿舎に足を進めていく。
その後ろ姿をいつまでも高橋は見ている。
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