第12話 夜間戦闘
B29による夜間爆撃は、硫黄島が陥落する以前、サイパンが占領下になってから何度かあったのだが、硫黄島が陥落してから本格化した。
帝都への爆撃は、3日に一度のペースであり、米軍の司令官が変わってからというもの、爆弾ではなく焼夷弾を使っての絨毯爆撃に変わり、一晩で何千人もの死者が出た。
奇妙な事に、終戦後に裁判が開かれたのだが、日本の事が悪く言われただけで、爆撃や原爆での大惨事は触れられてはいない。
(クソッタレ、やはり、暗闇と星空しか広がってはいない……! この、タヒ1は本当に使えるのだろうか?)
夜間飛行は主にレーダーを使っての飛行となるのだが、日本側のレーダーは列強に比べてかなり劣っており夜間飛行すらまともにできない性能である。
正彦はラバウルで零戦や月光を駆り夜間戦闘は何度かしたのだが、当然の事ながらレーダーは全く使い物にならず、気合いや根性論での飛行となり、何人もの戦友がレーダー付きの夜間戦闘機の餌食になり貴重な命を空に散らした。
「霧山、レーダーの調子はどうだ?」
正彦は後部座席にいる霧山に、タヒ1の状況を聞く。
「……凄いです、1キロ先の状況がはっきりとみえます! まるで昼間飛行しているようです!」
「そうか、B29は見えるか!?」
「はっ、700メートル先に編隊が見えます!」
正彦は正面を食い入るようにして見やる。
出撃前に軍医から注射してもらったヒロポンのお陰で何とか夜目は冴えており、月の微かな光でB29の編隊が正彦の視界には見える。
「見えた!」
正彦は、編隊の後ろにいるB29に狙いを定める。
「ワレ敵発見ス! 700メートル先敵編隊! 全機迎撃セヨ!」
(……とは言ってみたものの、コイツらには多分気がつかないんだろうな、照明灯が付いていればいいのだが……)
他の月光のレーダーでは、暗闇にいるB29は目視できない。
(何故タヒ1は量産ができないのだろうか……これも、人の体の一部を使っているのだろうか……? 生きている人間? 死んでいる人間なのか? どちらにせよ俺たちは罰当たりなことをしているのには変わりはないし、この戦争に負けたら俺達は真っ先に戦犯として裁かれるだろう、日本が負けるのは目に見えてわかる、こんな化け物を何十機も作れる国に勝てる可能性は限りなく少ないのだから……!)
正彦は、自分がしている事が人の道から外れている鬼の所業だと薄々気がつきながら、自分1人の力ではどうにもならない巨大で何重にも入り組んだ運命の歯車に身を委ねる。
正彦だけでなく、昴部隊の兵士も皆そう思っている。
『自分達は、人の体を使って人を殺している、側から見たら悪魔だ、外道だ、鬼畜だ、だが、米国はそうなのだろうか……?』ーー
B29の下部に潜り込もうとした時、敵が気がついたのか、ブローイング13ミリ機銃を正彦の操縦する月光に浴びせかける。
ガンガンガン……
穴が開く音が正彦の鼓膜に響くのだが、幸いにして火は出ておらず、一撃が勝負だなと正彦は気を引き締める。
正彦から少し離れた所では、空中戦が始まったのか、火を吹いて落ちていく月光が数機見える。
「クソッタレ! 蚊を叩き落とすようにして簡単に落としやがって!……人間が乗っているんだぞ! やはりコイツらは鬼畜だ! 情け容赦しねぇ!」
正彦はB29の胴体下部に狙いを定めて、20ミリ斜め機銃を浴びせかける。
爆弾に当たったのか、胴体から炎が上がり、そのB29は落ちていき、爆発した。
(やはりな、コイツらは大量の爆弾を腹に抱えているからその分だけ装甲が薄いんだ……!)
「ワレB29撃墜ス!」
正彦は次のB29に狙いを定める。
「中尉、戻りましょう! 被弾しすぎました、燃料が漏れております!」
霧山の緊迫した声が、正彦の耳に飛び込んでくる。
「火は出てるか!?」
「出ておりません! しかし、基地まで燃料が持ちません!」
「畜生……! 戻るぞ!」
正彦は、他のB29を恨めしそうに見つめながら、基地へと戻っていく。
☠️
正彦達は命からがら基地に戻り、醍醐の待つ司令部へと足を進める。
司令部のドアを開けると、そこには醍醐と真壁がいる。
「飛田、霧山、戻りました」
「うむ、B29は撃墜したのか?」
「はっ。一機撃墜確実です」
「そうか……流石は、42部隊の兵器だな。だがこれは、そんなに量産ができない。ある意味精密すぎるのだ。貴様らには鬼型を使い暫くB29と戦ってもらう。下がって良いぞ」
「はっ」
(量産ができない……精密すぎる?)
正彦達は醍醐の言葉に疑問を感じ、司令部を後にしてドックへと足を進める。
ドックには月光が数機あり、その全ては被弾したのか所々が穴が開いてエンジンオイルが流れ落ちている。
(やはりこれでは、まともに太刀打ちができないのか……?)
「飛田」
後ろから正彦は声をかけられて後ろを振り返ると、同期の航空兵が頭に包帯を巻いて立っている。
「風間。戦果はどうなったんだ?」
「ダメだ、月光のレーダーでは太刀打ちができない。全く反応がしないんだ。やっと目視出来て一撃を喰らわせるのが関の山だ。俺達は被弾してしまった、同乗員の狭山は戦死した……」
「そうか……」
「高橋」
茶色の容器を抱え、月光鬼型に足を進めている高橋に正彦は声をかける。
「このタヒ1は生産は出来ないのか?」
「ええ、生産は難しいのです、ある意味繊細でして……」
「繊細?」
「申し訳ありませんが詳しくは言えません、緘口令が敷かれているのです……」
「……」
高橋は一礼をして、月光鬼型の胴体に茶色の容器に入った燃料を流し入れる。
『……すけ……た……』
「?」
正彦は女性の声が聞こえて辺りを見回すのだが、そこにはむさ苦しい男共しかいない。
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