第11話 タヒ1
42部隊から新型の月光鬼型を受領した後、正彦達は醍醐のいる司令部へと集まる。
「P51だが……」
醍醐は眉を潜め、深刻な表情を浮かべて、机に白黒の写真と審査部からの資料を置いて彼等に見せる。
「台湾基地に不時着したP51を審査したのだが、高度6000メートルで最高速度700キロ、武装は13ミリ機銃が6門、装甲板がつけられており、全ての戦闘機で模擬空戦をしたのだが、まともに戦えるのは陸軍の四式戦闘機だけだ。零戦や紫電では相手にはならん。性能が違う。紫電を改造した21型が近いうちにここに来るのだが、それでも太刀打ちは難しいだろう……」
醍醐は淡々と、そして深刻に彼等にそう伝えて深い溜息をつく。
(紫電の新型か……紫電は鈍重な戦闘機で、グラマンには太刀打ちができない。武装は優れてはいるのだがな……最高速度が700キロだと!? 確か陸軍の百式司令部偵察機が630キロ出るが、それ以上ではないか……月光は560キロ程度しか出ない、……これで、勝てるのか?)
正彦は溜息をつきたい気持ちを抑え、醍醐の説明を聞く。
他の隊員達も正彦と同様、F4UやF6Fとは桁が違う性能のP51と、故障が多い戦闘機でどうやって戦えば良いのかと絶望した表情を浮かべる。
アメリカの工業力は日本とは比べものにならず、開戦当初に無敵を誇った零戦はもうこの頃には高速大馬力の米軍機には敵わなくなっており、一応新型機である紫電も全く歯が立たない有様、どうしたものか、と彼等は思う。
「42部隊から受領した月光鬼型だが、性能は従来の月光と変わらないのだが、新型のレーダーがついている、夜間戦闘で有利に働くものだ、これに飛田、霧山、貴様らが乗れ、整備兵から説明を受けろ」
「はっ」
「はっ」
(新型のレーダーだと? どうせ司令の言うことはいつも出鱈目だ、レーダーなど使えはしない役立たずだ、ラバウルでは全く役には立たなかったんだ……)
正彦は醍醐に敬礼をして、霧山と共に司令部を後にした。
☠☠☠☠
滑走路には、月光が数機並べられており、そのうちの一機は胴体に鬼の絵柄が描かれている。
(こんな陸偵の出来損ないでどうやって戦えばいいんだ……?)
正彦はラバウルにいた頃に月光に何度か乗ってB17と交戦したが、針鼠のような13ミリ機銃の武装の返り討ちに遭い、何度か被弾してしまい、命からがら基地に逃げ帰った記憶がある。
大砲と揶揄される20ミリ機銃を持ってしても、B17などの重爆撃機の装甲は撃ち抜く事は出来なかったのだ。
ましてやB29はレーダーが装備されており、武装も多くあり、先日の雷電の改良版で撃ち落とせたのは奇跡的である。
「月光鬼型ですが……」
高橋は、複雑な表情を浮かべて淡々と正彦と霧山に説明を行う。
「新型レーダーのタヒ1が装備されております、これは1キロ先の目標物をはっきりと確認できるものです。今から実験を行います」
高橋はタヒ1を起動させる。
「こちらに来て見てください、このレーダーの液晶には、1キロ先のドラム缶がはっきりと映ります」
(本当かそれは? レーダーなんざ全く役には立たない、ただでさえ不完全なのに、小型化なんかしちまったら余計見えない。以前野戦ではあちこちに反応しちまったり見えなかったりして全く役には立たなかったんだ……! この42部隊もどうせ粗悪品を作っているのには違いないんだろうな……)
夜間戦闘を嫌という程こなしてきた正彦は、レーダーの粗悪さに何度も泣かされてきて、この新型のタヒ1を全く信用していないでいる。
霧山も正彦同様、夜間戦闘経験者であり、半信半疑でタヒ1を見やる。
無数のコードが付けられたタヒ1の液晶には、1キロ先の風景や、ドラム缶の微小な凹みや汚れがはっきりと映っている。
「……こいつは凄いぞ!」
「これならば勝てるぞ!」
正彦達は歓喜の声が上がるのだが、高橋は複雑な表情を浮かべている。
「……高橋、これも人体の一部なのか?」
正彦は、このレーダーが人体の一部を使っているという事実を高橋に問う。
「はっ。申し訳ありません、緘口令が敷かれており、詳しくは言えませんが、……決して生産してはいけないのです」
「……」
(人体の一部を使って戦うなど決して許されないことだが、こうでもしないと俺達は米軍には勝てないのか……?)
正彦は複雑な表情を浮かべて、高橋からタヒ1の説明を受ける。
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