第7話 浮気
芝川の乗る紫電は、F6Fに狙いを定めて攻撃を仕掛けようと旋回するのだが、F6Fの軽快な運動性で鈍重な紫電は苦戦を強いられており、とうとう背後を取られてしまう。
F6Fから放たれたブローイング13ミリ機銃は、情け容赦なく紫電の機体を抉り、ジュラルミンが周囲に飛び散る。
だが装甲板が装備されているため、零戦のように火はすぐには出ない。
回避をしようにも紫電の鈍重な運動性では回避をしきれずに、馬鹿のように攻撃を受け続ける。
死を覚悟した芝川は、後部を見ると、機銃を放って近づいてくるF6Fが見えている。
(俺の命運もここまでなんだな……)
だが、そのF6Fは火を吹き始める。
(な、なんだぁ!?……あれは、山之内か!?)
山之内の操縦する怨型は、F6Fに攻撃を仕掛けている。
(あいつ女なのにやるな……)
芝川は機首を上げようとしたのだが、F6Fは最後の力を振り絞り、紫電に体当たり攻撃を仕掛ける。
「真知子! 洋平!」
……それが、芝川の最後の言葉となった。
☠️
正彦達が基地に帰還した時、帰ってきたのは正彦と山之内だけである。
正彦の機体の発動機のパッキンは緩んでいるのか、黒い潤滑油がポタリ、ポタリと床に点々と落ちている。
「飛田中尉殿、芝川大尉は……」
人員不足により待機していた隊員に、正彦は複雑な表情を浮かべて口を開く。
「敵機の捨て身の体当たり攻撃で戦死した……」
「……」
芝川は、一応は形式上は大尉なのだが、技量は正彦のほうが上である。
だが、正彦の苦境を助けてくれたり、日頃の悩みを闇流れの酒を飲みながら相談に乗ってくれていた。
「飛田……」
後ろから醍醐の声が聞こえて振り返ると、そこには複雑な表情を浮かべている醍醐がいる。
「戦果はどうだったか?」
「はっ。F6F3機撃墜確実です、ですが、芝山大尉が……」
「ならば、貴様が大尉となり、この部隊の隊長になれば良い。貴様は今日から大尉だ……」
「はっ」
醍醐は溜息をついて踵を返して、彼らの元から立ち去っていった。
「飛田大尉どの、昇進おめでとう御座います」
同僚は正彦に祝いの言葉を投げかけるのだが、内心正彦の心中は複雑である。
(俺に、こいつらを守りながら、戦果を上げるのか……辛いところだ)
正彦はちらりと山之内を見やる。
山之内の表情は険しく、顔面蒼白である。
「山之内、どうしたんだ!?被弾したのか!?」
山之内が着ている巫女の衣装からは血が流れ出ている跡が口元にはある。
「いえこれは……う……」
山之内はゴホッと血を流して、その場に崩れ落ちた。
☠️
医務室には、ベッドに寝かされている山之内と42部隊の真壁、醍醐が何やら話をしている。
その様子を物陰で、正彦は見ている。
(山之内の様子は尋常ではなかった、ひょっとして零戦怨型が影響しているのか? それとも重病を患っているのか? 戦地から帰還させた方が良さそうなのでは無いのか?)
「飛田」
醍醐は物陰にいる正彦に声を掛ける。
「そこにいるのだろう、出てこい……」
「はっ」
正彦は醍醐に言われるがまま、物陰から出てくる。
ベットの上にいる山之内は淫靡な目で、正彦を見ている。
(な、何を考えているんだ、こいつは……? 俺に惚れているのだろうか?)
「私を抱いてください……」
「え?」
正彦は、山之内の淫らな発言に思わず混乱してしまう。
「貴様は何をいっているんだ? 俺にはKA《妻》がいる……貴様には許嫁がいるのではないか?」
「おりません、半年前に特攻隊で戦死しました……」
山之内は、自分1人の力ではどうにもならない運命の歯車で失った夫を思い出し、悲壮な表情を浮かべる。
「飛田、怨型を操縦する山之内はいくら操縦技術が上だとはいっても所詮は女性、それに、この怨型を操縦するのには、山之内の力だけでなく、男の活力が必要なのだ、山之内と一晩共にしてやれ……これは命令だ」
「はっ」
正彦は醍醐の命令に敬礼をして答える。
「俺たちは出るからな、あとは貴様らに任せるからな……」
彼等は医務室を出ていった。
「飛田大尉殿……」
山之内はベットの掛け布団を上げて立ち上がり、服を脱ぎ捨てると、下着姿になり、正彦は目を疑った。
山之内の身体は無駄肉がなく端正なのだが、それ以上に正彦が驚いたのには、身体中には、耳なし芳一のように経文の文字が書かれている。
「これは、何だ……?」
「怨型に乗る前の儀式です……」
山之内は悲壮な表情を浮かべてベットの中へと入り込み、正彦を誘う。
正彦は服を脱ぎ捨てて、一糸纏わぬ姿となり、山之内の横へと寝る。
「綺麗……」
山之内は正彦の筋肉質で無駄な肉がなく、激戦で傷だらけの体を、白魚のような指でなぞる。
「早くやって、俺は帰るぞ。……KA《妻》に悪いのでな」
正彦は山之内の体を抱きしめる。
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