第五章/不帰蝶
STORIA 67
「レイ。構ってくれない」
「え?」
銀花は食材には珍しく興味を抱かず、甘える様に前傾姿勢をとって言葉を続ける。
「おじいさんは寝込んでるし、都も前みたいには絡んでくれないの」
「大人の事情があるからね」
子供をあやす口調で言ったものの、ふと想い出す。
元を辿れば彼女の取った行動が引き金だったことを。
都の唇から重い独白を決意させたのは銀花だった。
彼女を責めようなどとは想いもしなかった。
何れ告げられることに変わりがないのなら、時期は無意味だ。
「レイ。私が何者か知りたい?」
「何者って……。急に、どうしたの」
銀花は時折、不思議なことを訊ねる。
考えたくはなかったけれど、都の悲痛な決断を彼女が認知していたのは、彼が話した以外は他にないと想っていた。
若しくは意図的な誘導発言だったのか。
「君は、僕を驚かせるほどの大人びたことを言う時がある。銀花」
そう言った後、彼女の存在を強く認識していた。
本当は彼女の方が幾らか年上なのではないかと想わせるくらい、何処か先回りした言葉の示唆的な導き。
来るべき日の訪れを待つために旅をしていると言った時も、鳥通橋で都の心を駆り立てた瞬間も、銀花は遠く離れた位置から僕達を見ている気がしていた。
目算でないのなら、確信はどこから来る物なのだろうと答えを知りたいとは想った。
「そう? 親の影響かな。私のお母さん、心理学とか占いに興味があって。預言者を目指していたこともあるくらい。だから、私も占い師の真似事をする様になってた。両親はもういないけど……、私達には特別な力が授けられているの。ご褒美の分、使命も与えられるけれど。ここにこうして居られるのは、そのお蔭なの」
抽象化された彼女の言葉を理解するのは難しかった。
でも、きっとこうだ。
銀花が信じて疑わない物は絶対者の様な存在で、傾倒する感覚に近い。
幼児期から心理学に長けている実親の洞察力を傍らで見てきたのなら、人の感情を分析する術は自然と身についてしまうことも考えられる。
彼女が都の些細な心の動きを見逃さないほどの鋭い感性の持ち主だったとしたら、合点はいく。
彼女の推測が結果として、偶然の一致を生んだ。
これが、僕の想うところだ。
「分かるけど、軽はずみで言っちゃいけない言葉もあるからね」
銀花を傷付けまいと撰んだ言葉だったけれど、彼女は反応を示さずに場違いな笑顔を見せる。
「レイは、運命って変えられると想う?」
「変えられる……様な気もするし、無理なんじゃないかなって想う時もあるよ」
正直な考えだった。
霊的な物に囚われた思考は苦手だ。
そんな中で運命という位置付けに対しては、妙に曖昧で不安定な見方があった。
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