STORIA 18

「それは、まあ、そうだけど。仕事は戻って来てから、探せばいいんだし」

「黎。俺に、気なんか使うなよ」

何だか、自分達のやり取りが滑稽に想えてくる。

掌を返した様に、都の提案に乗る僕も僕だけど。

自分から誘っておきながら承諾の意に戸惑い、半信半疑でいる都の姿が自分と重なって見えてしまう。

僕達は案外、似た者同士なのかも知れない。

だけど、この意志は揺らぐことはない。

突拍子もない計画事を拒み続けた末の決断だからこそ、それなりの覚悟があるんだ。

「違うよ、そんなんじゃ。自分の中に、もっと自由に生きてみたいっていう想いは、以前から少なからずあったんだよ。迷いから、都が引き出してくれたんだ。だから、決めたよ。都について行くって」

「……黎、本気なのか?」

自身への後押しの意味も込めて、僕は力強く親友の言葉に頷く。

すぐさま、両肩に温かい体温が伝う。

都が、腕を回してきたからだ。

目に映らなくても、彼がどれほどの喜びを胸に秘めているのか、僕には自然と理解出来た。

感極まるその声音からは、わずかな震えが見てとれる。

「黎。本当に一緒に行ってくれるのか」

「しょうがないからな」

都の強い想いに、僕は少しだけ悪戯に笑う。

控えた陽射しが、逆転層を遠避ける。

いつの間にか見慣れた色に染まり始めている大気に、冷却しきった幻の夜明けを恋しく想った。

僕達は、北海道を目指す。

足を踏み入れたことのない彼方の地で、待ち受けている物は何だろう。

いつか、この選択を心から良かったと想える時が来るのだろうか。




「青女と夢幻が起こす奇跡?」

自分の両腕に抱えた幾つかの本の表面に目をやると、妙に心惹かれるタイトルが、そこには書かれていた。

「あ、それ。写真集だよ。綺麗だろ」

都が僕の手元から対象の本を掬い上げ、嬉しそうに頁を捲る。

白く、美しい羽根を操る者の姿、丹頂鶴の写真の様だ。

「やっぱり、プロが撮った物は格別の出来映えだよなあ」

食い入る様に見入っていた都が、感嘆とした想いを含む溜め息を零す。

僕達は、仕事の休日を利用して、駅前通りの書店を訪れている。

北海道のガイドマップや、情報誌を購入するためだ。

僕の役目は、都が選ぶ冊子を抱える、荷物持ちといったところだろうか。

彼が手に取る物は、主にロード・マップだ。

手当たり次第に物色しながら、気に入った本だけを僕に手渡していた。

「都、情報誌は買わないのか? グルメ誌とか、ガイドとか」

「観光目的じゃないからな。地図だけでいい。それと、さっきの写真集もな」
















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