STORIA 16
そんな気持ちが、食事を終えた身体をアルバムの置かれた洋室の窓際に導いていた。
僅かに被る埃を払い、褪せた帳面を手に取ると、僕は自室へと持ち込んだ。
幼少時代のアルバムを目にする機会なんて、いつ振り位だろうか。
アームライトが光源を落とす机上で頁を開くと、そこには沢山の優しい記憶が散りばめられていた。
一枚、一枚、目を通すごとに自分がどれだけ大切に育てられて来たのかを改めて実感してしまう。
特に、旅行先の写真等では僕を包み込む様な両親の腕が偽りのない愛情を伝えている。
じっくりと見入っていると、ある事に気付く。
母の言った通りだと、笑みが零れそうになった。
殆どの写真に宇宙船、ロケットや衛星の玩具を肌身離さず手にする幼い自分の姿を見ることが出来る。
宇宙科学館内で撮影したと想われる物も数枚出てきた。
宇宙科学の森羅万象を網羅したいと夢中になる自身の幼心が、他人事の様に羨ましくも想えてくる。
けれど、記憶を辿っていくごとに当時の感情が甦りつつあるのも事実だ。
都はそんな無垢な少年の様な心を持ち続けて来たのだろうな、と改めて深く想う。
夢を追い求めている人の中で、実現出来る力を携えている者はどれほどの数だけいるのだろうか。
気付けば日脚は黄昏時を迎え入れ、大気を薄明に絵取った後、やがて、暗晦へとその色を沈めていた。
少し、開いたカーテンの隙間から覗く硝子窓には、椅子に腰を降ろす自身の姿が映っている。
僕は席を立ち、窓際へと身を寄せた。
闇を呑む光景は、儚い堆積物を敷き詰めた海床を想わせてくれる。
都は今頃、何を考えているだろうか。
君が一心に切望を抱いて、走り続けているその傍らで、僕も足を揃えてみたい。
一人旅も悪くはないと語る彼なら、二人で行く冒険の楽しみが無窮だということは、言うまでもないだろう。
芽生えた気持ちは、一つの賭けなんだ。
だから、決めたよ、都。
窓の向こう側に映る外界が、まだ見たこともない空間へと僕を誘い込む。
灯りを籠めた二枚の垂れ布の縁を掴むと、僕は勢いよく開け放った。
翌日、普段の出勤時刻より二時間もはやく目覚めた僕は、自宅から南へ一キロほど離れた小さな公園で暇をもてあましていた。
何だか、昨夜は満足に眠れなかった。
感情が高揚していたからかも知れない。
だけど、気分は清々しい。
不慣れな決断が、優しく刻む秒針の加速を催促する。
夜明け前の、しらあいに染まる空を繰り返し流動する大気が与える感覚は、想う以上に心地がいい。
もう少しすれば、蒸せる様な湿気を伴って、陽射しが酷暑を連れ戻してくる。
今は、そんな暑ささえも待ち遠しい。
この心は、漸く固まった意思を親友に伝えたくて仕方ないんだ。
直向きに時を待ち焦がれる自身に応えるかの様に、何かの知らせが届いた。
見ると、手元の携帯電話に一件のメールが入っている様だ。
差出人に刮目すると、僕は慌てて本文を開く。
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